はじめに よんでください

大貫恵美子『ねじ曲げられた桜』読解

Research nots; "Kamikaze, cherry blossoms, and nationalisms" by Dr. Emiko Ohnuki-Tierney

池田光穂


シカゴ大学出版局案内

「第二次世界大戦末期、日本は戦争に負け ていたにもかかわらず、なぜ高学歴の「学徒兵」が千人近くも特攻隊に志願したのか?全体主義的イデオロギーにおける象徴主義と美学の役割に関するこの興味 深い研究の中で、大貫ティアニー恵美子は、国家が日本の古くからの象徴である桜の花をどのように操り、天皇のために「美しく散る桜の花びらのように死ぬ」 ことが名誉であると人々に信じ込ませたかを明らかにしている。

大貫=ティアニーは、これまで英語で出版 されたことのない日記をもとに、帝国イデオロギーに対する若者たちの苦悩と反抗を描いている。国際的な知的伝統に情熱を傾けるパイロットたちは、桜の花を 軍国主義的な観点ではなく、悲劇的に短い人生の痛ましい美しさと未解決の曖昧さの象徴として捉えていた。著者は日本を例に、象徴的コミュニケーション、ナ ショナリズム、全体主義的イデオロギーとその実行についての理解に新たな境地を開いた。」

章立て

★日本の将来を担うべき多数の若者が、特攻機に搭乗して海の藻くずと消えていった――「桜が散るように」。為政者は桜の美しさを、ナショナリズム高揚と戦 争遂行に利用したのだ。そのとき国家と国民のあいだに起こった「相互誤認」を、学徒特攻隊員の日記をきめ細かに分析して証明する。象徴人類学の見事な成 果。[解説=佐藤卓己]
はじめに

序章

第一部

 第一章 桜の花と生と再生の美学
  1 米の相応物としての桜の花
  2 女性としての桜の花
  3 愛の祝賀、壮麗の祝賀
  4 人生の謳歌
  5 死と再生としての桜の花
  要約

 第二章 もののあわれの美的価値――咲く桜から散る桜へ
  1 生の輝きと無常
  要約

 第三章 仮想の世界の美と桜――自己と社会の規範を超え
  1 己を無にすることの美しさ
  2 別宇宙の美的価値
  要約

 第四章 文化的ナショナリズムと桜の花の美的価値
  1 古代の貴族階級における文化的ナショナリズムの台頭
  2 江戸時代における「桜の国土」としての日本
  要約

第二部

 第五章 天皇の二つの身体――主権、神政、軍国主義化
  1 近代化/西洋化
  2 日本の内憂外患
  3 大日本帝国憲法の制定
  4 天皇/王権の源泉性(primor diality)、日本人の源泉性
  5 父としての天皇
  6 軍の統帥者としての天
  7 近代的軍隊の創設
  8 国立神社の創建
  9 聖なる王/王権
  10 明治憲法・政府への批判と反対
  11 軍国主義発展への転機
  要約

 第六章 桜の花の軍国主義化――桜の花が戦没兵士の生まれ変わりになる過程
  1 「近代的」日本人の多様なる自己表象
  2 文化的ナショナリズム、政治的ナショナリズム、軍国主義
  3 靖国神社
  4 軍の徽章
  5 散る桜としての戦死
  6 「武士道」の再製(refashion)
  7 戦没兵士の生まれ変わりとしての桜の花
  8 「日本の空間」の創造
  要約

 第七章 国土の象徴としての桜の花――民衆の軍国主義化
  1 教科書
  2 学校唱歌と流行歌
  3 大衆演劇
  要約


引用文献
第三部

 第八章 「運命を選ぶ自由」 ―特攻隊の成り立ち
  1 特攻作戦についての刊行物
  2 特攻隊の成り立ち
  3 特攻隊員たちの生活
  4 特攻隊への「志願」
  5 「運命を選ぶ自由
  6 出撃前夜
  7 遺族の声
  要約

 第九章 特攻隊員の手記
  1 戦没兵手記
  2 五人の特攻隊員の手記
  要約

第四部

 第十章 国家ナショナリズムとその「自然化」の過程
  1 ナショナリズム
  2 自然化によって連続したものとなる歴史的非連続

 第十一章 グローバルな知的潮流を源泉とする愛国心
  1 彼らのユートピア
  2 ロマン主義その他の知的潮流
  3 「汝の国のために死ぬことは快く立派である」か

 第十二章 幹を曲げられた桜
  1 メコネサンス
  2 歴史上のエージェント
  要約


付録 ―特攻隊員四人の読書リスト
岩波現代文庫版あとがき
解説 ……佐藤卓己
索引




★人殺しの花 : 政治空間における象徴的コミュニケーションの不透明性  / 大貫恵美子著, 岩波書店 , 2020

序 章 象徴的コミュニケーションの不透明性と複雑さ

文 化
 文化のパラダイムの複数性 「意味の共有性」の仮定 アクターとエージェントの違
「コミュニケーションは可能であるか?」――従来の学説
コミュニケーションの不透明性――分析の枠組み
意味の多義性(polysemy)
 意味――相互関係・プロセスの中での定義 意味の多義性――要約
 意味の歴史的変遷
美的要素
象徴――具体化と非具体化
 無のシニフィアン



第1部 多義性――プロセスの中で規定される象徴の意味


第一章 日本の桜の花

民衆の間での様々な意味
 農業の生産性と人間の生殖(再生産性) 生命の謳歌/愛と喪失 非
 規範的世界の祝福と桜
花見と集団的アイデンティティ
「近代化」「文明化」と桜
文化的/政治的なナショナリズム・軍国主義
 兵士としての桜の花――軍の徽章 日本的空間の標識(marking)
 桜の花とされた特攻隊員 美化・美意識
要約および議論


第二章 ヨーロッパ文化圏におけるバラ

宗教、文学、芸術の中のバラ
政治的空間におけるバラ
 反体制の象徴としてのバラ 非暴力の革命としてのバラ/花 現代独裁者たちの赤いバラ 白いバラ――ナチス・ドイツにおける抵抗運動
要約――バラの多義性


第三章 米と日本人の集団的自己――排除にもとづく純粋さ

農業民の宇宙観
 日本人の神としての米 共食のための米 日本的空間・時間としての米、日本人の元始的自己としての米 農業民の宇宙観における米の美的価値
象徴生産の政治経済学
歴史的危機の局面における自己と他者
 外部の他者――「中国人」と「西洋人」 日本の米、中国の米 日本の米、西洋の肉 カリフォルニア産短粒米と日本産短粒米
結 論



第2部 集団的アイデンティティとその象徴表現


第四章 集団的自己と文化的/政治的ナショナリズム――比較的視座より

集団的アイデンティティの象徴的表象
 文化的/政治的ナショナリズムと愛国心 政治的ナショナリズムの象徴― ドイツと日本 ナチス・ドイツ― 元始的自己像と近代的自己像の同時表象 大日本帝国
要 約



第3部 (非-)外在化――宗教的・政治的権威/権力


第五章 見えない、聞こえない日本の天皇

明治以前の天皇制
明治期につくり直された天皇制
日本人の宗教性
外在化されない天皇
 「公に姿を現した」天皇 朝廷儀式 肖像画/写真 錦絵 切手と通貨 聴覚的な非- 外在化
天皇に対する国民の態度
無のシニフィアンとしての天皇、その政治的含意
結 論


第六章 宗教的・政治的権威/権力の(非- )外在化

宗教的権力/権威とその(非- )外在化
政治の指導者と、その外在化――イメージとスピーチ
 君主たち 近代の独裁者たち 政治演説 視覚的イメージ 政治的儀式



おわりに


 注
 謝 辞
 文献一覧
 索 引






リンク

文献

Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099

池田蛙  授業蛙  電脳蛙  医人蛙  子供蛙