かならず 読んでください

植民地時代の日本の麻薬政策

 Military Drug Policy of "production" manegement in the Imperialist Occupied Japan

池田光穂

小森榮弁護士(1950-2019)のブログから

「日本の薬物政策の歴史7—モルヒネ、ヘロイン (弁護士小森榮の薬物問題ノート)

生阿片を原料としてモルヒネが精製され、これがヘロ イン、コデインなどのあへんアルカロイド系麻薬の原料となります。日本は早くから阿片の専売制をとっていましたが、実際には、大正初期ころまでは、医療用 麻薬の多くは海外とくにドイツからの輸入に頼っていました。1914年(大正3年)ヨーロッパで第一次世界大戦が開始されると、ドイツからの医療用モルヒ ネ輸入に杜絶の懸念が生じ、その国産化がはかられます。1915年、台湾政府から粗製モルヒネの独占的払下げをうけた星製薬がモルヒネ製造を開始し、その 後大日本製薬、三共、武田薬品工業なども参入してモルヒネの製造が行われるようになります。

当時、日本の製薬会社が行っていた麻薬の製造につい て、内部からの視線で書かれた文庫本が意外なところにありました。SF作家の星新一氏(前述の星製薬の創業者である星一氏の息子)が、星製薬のモルヒネ製 造にまつわる話を『人民は弱し官吏は強し』として発表しているのです(星新一『人民は弱し 官吏は強し』新潮文庫、1978)。台湾からの粗製モルヒネの 払下げ、南米からコカ葉を輸入しコカインの製造を開始した経緯などが書かれており、歴史資料とはいえないかもしれませんが、当時の製薬業界と麻薬の関係を 理解するのに、よみやすい本です。

※引用者註:小森弁護士は原出典を明示していないが、これはもともと、劉明修『台湾統 治と阿片問題』(1983)の後書きにかかれていたエピソードと関係があるかもしれない。劉による指摘のほうが、はるかに小森のような牧歌的なものではな く、極めて深刻なところが興味深い:「1970年代の半ばごろのある日、星新一氏の「人民は弱し官吏は強し』を買った。もともとSF小説を読むつもりで あったが、しかし、問書はSF小説ではなく、小説家の手法で、台湾の阿片専売をめぐる政治疑獄——台湾阿片事件——を扱ったものであり、私は全身が感電し たかのように、一気に読み終えた。これが「日本阿片問題の研究」のそもそもの契機である」(劉 1983:241)。

当時、どのくらいの量のモルヒネが製造されたのか、 私はまだ信頼できる資料に出会っていないのですが、製薬会社が製造するもの以外に、密造されるものもあり、相当多量のモルヒネ、ヘロイン、コカインなどが 出回ったことは確かなようです。ところが、当時の日本人は、麻薬の問題を認識していなかったと思われるのです。

終戦後の1949年、連合国軍の公衆衛生福祉局のス ペアー氏が、麻薬取締の意義について講演した内容があるので、その一部を引用します。

「戦前に於ける日本は麻薬の取締では世界中で最も悪 い記録を持つ国の一つとして知られてきた。日本に何人中毒患者が居るのか誰も、政府すら全く知識を欠いて居た。日本には取締機関もなく又適切な取締法もな かった。唯阿片の喫煙に関してだけ、刑法上の厳重な禁止規定があった。これは成果があった。今日迄日本人は阿片を吸う習慣を持って居るとは知られていな い。しかしながら所謂「白い薬」として知られるモルヒネ、ヘロインについては国内でも又国際的にも不正取引は横行して居た。これ等は強力な麻薬であり阿片 より何層倍も危険である。不正取引をして捕まっても、刑は百円以下の罰金三ヶ月以下の体刑と云った申訳的な物であった。これでは日本を麻薬の不正から守る 事は出来ない。結果は日本中そして国外にも麻薬が流れていったのである。

当時日本国内の麻薬の不正取引については誰もよく知 らなかった。しかし三年前に始められた取締は事態を一変した。合法的な麻薬の製造、使用のすべての面に対して厳重な統制が施行されている。何千にも及ぶ中 毒患者の記録も出来た。中毒患者の中には麻薬に中毒しながら診察にあたる医師もいる。これは全く憎むべき、卑しむべき罪悪である。」(「日本における麻薬 の不正取引について—昭和24年3月11日最高裁判所における総司令部公衆衛生福祉局スペアー氏講演」、最高裁判所事務総局刑事局編『刑事裁資料(麻薬関 係)第28号』185頁、昭和24年6月)

上記には、当時の日本の状況が端的に語られていると 思います。日本は明治以来阿片煙膏の喫煙を警戒し、厳しく取り締まってきたものの、そのいっぽうで、ヘロインやコカインなどの麻薬に関しては危機意識がな く、取り締まりも行われず、事実上、多量の麻薬が野放しにされていたといってよいでしょう。「当時日本国内の麻薬の不正取引については誰もよく知らなかっ た。」というスペアー氏の指摘が、この時代の日本人の麻薬に対する意識をみごとに表しているのではないでしょうか」

戦前の、アヘン王については、フィクサー里見甫(さとみ・はじめ,Hajime SATOMI, 1896-1965)が有名であ る。同人のウィキペディアでの記述を抜粋すると次のようになる。

1916 年5月、東亜同文書院を卒業後、青島の貿易会社に一時期勤務するが退社し、帰国して東京で日雇い労働者となる。1919年8月、同文書院の後輩である朝日 新聞北京支局の記者であった中山優のはからいで、橘樸が主筆を務める天津の邦字紙である京津日日新聞の記者となる。1922年5月には第一次奉直戦争に際 して張作霖との単独会見を行っている。

1928 年8月、南満州鉄道(以下「満鉄」)南京事務所の嘱託となり南京に移る [1]。 ここで、国民政府に対し満鉄の機関車売り込みに成功するなど華々しい業績をあげている。

1931 年9月に満州事変が勃発すると、翌10月に関東軍で対満政策を担当する司令部第4課の嘱託辞令を受けて奉天に移り、奉天特務機関長土肥原賢二大佐の指揮下 で、甘粕正彦と共に諜報・宣伝・宣撫活動を担当する。これらの活動を通じ、中国の地下組織との人脈が形成された。また、司令部第4課課長松井太久郎の指示 により、満州におけるナショナル・ニュース・エージェンシー(国家代表通信社)設立工作に務め、陸軍省軍務局課長鈴木貞一の協力のもと、新聞聯合社(以下 「聯合」)の創設者岩永裕吉や総支配人古野伊之助、電通の創業者光永星郎との交渉を行い、1932年12月、満州における聯合と電通の通信網を統合した国 策会社である満州国通信社(以下「国通」)が設立され、初代主幹(事実上の社長)兼主筆に就任する [2]。

1937 年11月、上海に移り、参謀本部第8課(謀略課)課長影佐禎昭に、中国の地下組織や関東軍との太い人脈と、抜群の中国語力を見込まれ、陸軍特務部の楠本実 隆大佐を通じて特務資金調達のための阿片売買を依頼される。1938年3月、阿片売買のために三井物産および興亜院主導で設置された宏済善堂[3]の副董事長(事実上の社長)に就任する。こ こで、三井物産・三菱商事・大倉商事が共同出資して設立された商 社であり実態は陸軍の特務機関であった昭和通商や、中国の地下組織青幇や紅幇などとも連携し、1939年、上海でのアヘン密売を取り仕切る里見機関を設立 [4]。ペルシャ産や蒙古産の阿片の売買によって得た莫大な利益を関東軍の戦費に充て、一部は日本の傀儡であった汪兆銘政権に回した。また、里見機関は、 関東軍が極秘に生産していた満州産阿片や、日本軍が生産していた海南島産阿片も取り扱っている。この活動を通じて、青幇の杜月笙・盛文頤や、笹川良一、児 玉誉士夫、吉田裕彦、岩田幸雄、許斐氏利、阪田誠盛、清水行之助らとの地下人脈が形成された[5]。

【脚 注[4]】三井物産は一両つまり32グラムを35円で軍に納入し、これを里見機関がグラムあたり22-23円で宏済善堂に卸した。四川省産よりも品質の良 いペルシャ産のアヘンはサスーン財閥系によって上海に流入したが、これを三井物産上海支店が仕入れていた。この上海支店には佐藤喜一郎がおり、調達資金を 工面していた。 竹森久朝 『見えざる政府-児玉誉士夫とその黒の人脈』 白石書店 1976年  54ページ

1943年12月、宏済善堂を辞し、満鉄と中華航空の顧問となる。1945年9月に帰 国し京都や東京に潜伏するが、1946年3月に民間人第一号のA級戦犯容疑者としてGHQにより逮捕され、巣鴨プリズンに入所する。1946年9月、極東 国際軍事裁判に出廷して証言を行い、同月不起訴となり無条件で釈放される。

出典:https://goo.gl/emreQQ

■Moral nation : modern Japan and narcotics in global history / Miriam Kingsberg, University of California Press (2014)の問題系 with password

1. Moral Crusade in Meiji Japan:1&2-Kingsberg_moral_nation_2014.pdf

2. Drug Users in the Epicenter of Comsumption

3. Cultural Producers and the Japanese Empire:3&4-Kingsberg_moral_nation_2014-2.pdf

4. Cultural Producers and Manchukuo

5. Merchants:5&6-Kingsberg_moral_nation_2014-3.pdf

6. Law Enforcement

7. Laboratory Scientists:7&8-Kingsberg_moral_nation_2014-4.pdf

8. Medical Doctors

9. Moral Panic in Postwar Japan:9-10-Kingsberg_moral_nation_2014-5.pdf

リンク

文献

その他の情報


---------------------------------------------------------------------------
(c)Mitzub'ixi Quq Chi'j. Copy&wright[not rights] 2017-2019

Do not copy & paste, but [re]think this message for all undergraduate students!!!