先住民社会におけるポピュラー音楽の感性についての考察
A Study of the Sensibility of Popular
Music in Indigenous Societies
グアテマラの音楽(Mitzub'ixi Qu'q Ch'ij)より
滝
奈々子
日本音楽表現学会 平安大会 2023年6月
18日
(京都女子大学 U-207)
先住民社会におけるポピュラー音楽の感性についての考察 :グアテマラの事例をあげて、滝奈々子
京都市立芸術大学芸術資源研究センター
2021~23 年度JSPS科学研究費補助金(挑戦的萌芽・21K1863) |
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《音的経験とは何か? 》 • 音響とは、人と自然なハイブリットな音や、電車やテレビなどの生活音、人 の声などが包摂される。それらを設計図化したものが音楽。 • 音的経験とは、音響と音楽を包摂する、多様な複合的な体験だと試論する。 • 音は身体に深く根ざし、情動や感性とも常に絡み合い、人生を活性化させ る、つまり人生そのものだと考え、「音的経験」の語を用いる。 |
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《グアテマラ共和国とは? 》 |
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《発表の趣旨と研究の目的1》 1. これまで、先住民社会におけるポピュラーカルチャーの台頭は指摘されてきたが従 来の伝統的なエスノグラフィー(民族誌記述)には馴染みにくいこともあり、その取り扱 いもマイナーなままに留まっている。 2. 本発表では、中米グアテマラ共和国における先住民であるマヤやラディノの人たち のポピュラー音楽の需要を紹介し、かれらの音的経験を「感覚の人類学」の視点から 分析する。 3. 本発表の調査地は、Alta Verapaz県、San Juan Chamelco町を中心とした地 域である。 |
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《発表の趣旨と研究の目的2》 4. マヤの人びとの日常実践のなかで生起する感覚、とくに音に関する感覚に ついて、感覚人類学や民族音楽学などの先行研究を検証し、考察する。 5. マヤの若者を中心とした先住民言語で歌うポピュラー音楽を分析し、報告 を行う。音的経験に組み込まれる「思想」の部分にくわえ、「感性や情動」経 験験すら込められていることを紹介する。 |
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《感覚人類学の研究》 1. Levi-Strauss (1962)は、未開人の感性が我々のなかにも息づいていると主張。 Marshall McLuhan (1964) は、メディアが人間の感覚を拡張すると表明。 2.「感覚は五感ごとに区別して考えられるべきではない」:1980年代後半より、Anthropology of Sense(感覚の人類学)という用語が使用され始めたと言われるが、2000年ごろに、David Howes やConstance Classenなどが、Sensorial anthropology, Sarah PinkがSensory anthropologyという語 を提唱した頃から研究が本格化。 3. Tim Ingold(2013)が、感覚は制作行為のなかに埋め込まれ、建築や芸術分野においても表象さ れていると主張 |
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《グアテマラにおける音的経験の歴史1》 村落におけるカトリックのミサ (ケクチ語) |
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《グアテマラにおける音的経験の歴史2》 1が、マリンバの演奏、2がxolと呼ばれる縦笛と太鼓の演奏である。 |
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《グアテマラにおける音的経験の歴史3》 ロックと先住民の音楽が融合したロック・マヤと、現在若者に人気のある、ヒップホップ、メレンゲ、レゲトンなどの音楽の中からメレンゲを紹介する。 Sobrevivencia (Rock Maya) 2023年6月13日You Tubeより引用 Grupo Rana Mix 2, (Merengue of Guatemala) 2023年6月13日You Tubeより引用 |
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《グアテマラにおける音的経験の現在1》 Cantina(居酒屋)におけるレゲトンの演奏(ケクチ語) (歌詞) わたしの眼から溢れる涙とともに、わた しのハートの底からわたしたち(マヤの 人びと)のことばがが勝手に出てきてし まう。わたしたち、ケクチ・マヤは屁だ と見下される。しかし、わたしは自分の 文化をレゲトンに投げ込む。スポーツ、 ボクシングとともに。ブラバのせいでわ たしは少しクレージーだが、わたしの馬 鹿馬鹿しい仕事はレゲトンを歌うこと で、両親はこんな自分をよく思っていな い。さあ、考えてみよう、わたしたち は、ハートのなかで何を感じるのか、 ハートのなかで何を考えるのか。 発表者によるケクチごからの翻訳 |
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《グアテマラにおける音的経験の現在2》 ラディノによるレゲトンのビデオクリップ(英語) Reggaeton chapin |
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●結論 1・マヤ独自のロック・マヤに加え、レゲトン、ラップといったポピュラー音楽の受容の影響に より、身体に直結する感性の変化がみられることが、2022年の調査で明らかとなった。 2・音的経験の変容の背景にはスマートフォンなどのメディアの普及があることが考えられる。 3・ポピュラー音楽において主題化されるのは、男女の愛であり、他の地域のラテンアメリカ 音楽との共通点である男女のセクシュアリティの強調が著しくみられる。 |
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《本発表のまとめ》 1・農村部における、ポピュラー音楽の受容による変容による経験を、感性の人類学の観点から分析した。 2・グアテマラの人びとにとり、伝統音楽に加え、マヤ・ロックやメレンゲなどのアフロ・アメリカン音楽の導入がみられる。 3・マヤ・ロックに加え、レゲトン、ラップといったポピュラー音楽の導入の影響により、身体に直結する官能的な感性がもたらされていること が明らかとなった。 4・マヤ・ケクチ民族におけるレゲトンの流行は、アフロ・アメリカンの音楽独特のセクシュアリティの強調を物語っており、音的経験のなかで も顕著にあらわれていた。 ※以上の事象については、本科研メンバーである池田光穂と発表者がホームページにて記述しているので参照されたい。「中米・カリブにおける感 覚のエスノグラフィーに関する実証研究」https: //navymule9.sakura.ne.jp/Sensory_anthropology.html |
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《参照文献》 ・Howes, David (2003) Sensual Relations: Engaging the Senses in Culture and Social Theory. Ann Arbor: University of Michigan Press. ・池田光穂(2020)『暴力の政治民族誌:現代マヤ先住民の経験と記憶』吹田:大阪大学出版会. ・インゴルド、ティム(2017)『メイキング:人類学・考古学・芸術・建築』金子遊・水野友美子・小林耕二訳, 東京:左右社. ・レヴィ=ストロース、クロード(1976)『野生の思考』大橋保夫訳 東京:みすず書房. ・McLuhan, Marshall (1964) Understanding of Media: The Extensions of Man. New York: McGraw-Hill. ・Pink, Sarah (2015) Doing Sensory Ethnography. 2nd ed., London: SAGE. ・Pink, Sarah et al.(2016) Digital Ethnography:Principles and Practice. Los Angeles: SAGE. ・Shiling, Chris (2005): The Body in Culture:Technology and Society. London: Sage Publication ・滝奈々子・池田光穂(2021)『音と感覚のエスノグラフィー:マヤ・ケクチの民族音楽学』 CO* Design SP4 , 182pp., 豊中: 大阪大学COデザインセンター. |
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《Appendix》
• 「わたしたちの周りに存在するあらゆる音は、身体の複合的な経験に織り込まれてい る」(1995 ミケル・デュフレンヌ) ・「音楽は身体に根ざし、我々の生きられた経験と密接に繋がっている」(2005 Chris Shiling ) • スライド10《グアテマラにおける音的経験の現在1》 ・ケクチ語によるオリジナルバージョン Xyaab‘iwu, naqake tz’aqal b‘ichank, Li letra na’elk tz‘aqal sa’ lin corazón. Laa‘o laj qeqchi‘ que pedo, indio maya chankeb’qe, pero laa‘o laj maya, cultura maya naqa k’e tirar, raptin, boxin, SPORT. Xmaak li brava xlooko‘iwu, intrab’aaj rap nikink‘e tirar. Yib’inna‘leb compadre, a ver lo que se siente, en el corazón se siente |
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先住民社会におけるポピュラー音楽の感性についての考察 ―グアテマラの事例をあげて(pdf) |
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