Digital Identity
日本語のウィキペディアには、ISO/IEC 24760-1からの、アイデンティティの定義を使って、「ある実体にかんする一連の属性(set of attributes related to an entity)」と表現しているが、この定義にしたがうと、デジタル・アイデンティティは、デジタル化された実体にかんする諸属性の集合 (digitalized set of attributes related to an entity)ということになる。しかしながら、人文社会科学では、アイデンティティは「自分が自分であること」と定義されることが多いので、人文社会科 学者は、ISO/IEC 24760-1は、個人を単なる「アイデンティティ断片」から構成し、そこからなる主体(=個人を構成する)愚かな試み、だとあざ笑うだろうと思われる。
画像のスキーマは、Identity conceptual viewと称されたwikipediaからのものであるが、そのようなアイデンティティは人間のみならず、組織・会社・法人などにも該当する。しかし、デ ジタルワールドでは、個人や組織が確固たる全体性をもつ必要がないので、このデジタル・アイデンティティ(アイデンティティ単体ではない!)のスキーマ は、上掲のISO/IEC 24760-1のアイデンティティに叶った図式ではある。
ということは、アイデンティティはデジタル化可能なもの(モナド的なもの)として取り扱われ、それは「構成的実体」として取り扱われることであ
る。実際に、英語のウィキペディアの当該の項目では、"A digital identity is information on an entity used by computer
systems to represent an external agent.
That agent may be a person, organization, application, or device.
ISO/IEC 24760-1 defines identity as "set of attributes related to an
entity"." すなわち、上掲の日本語のウィキペディアの「デジタルアイデンティティ(Digital
identity)は、人間などの主体(entity/subject)をコンピュータで処理するためのアイデンティティ情報であり、それぞれの属性情報
から成る」という表現は、ウルトラクソバカな意訳である。だった素直に、アイデンティティをIDにして(なぜなら認証に関わることを言及しているわけだか
ら)素直に翻訳して「デジタル ID
は、コンピュータ・システムが外部のエージェントを表すために使用する実体に関する情報である。そのエージェントは、人、組織、アプリケーション、または
デバイスである。ISO/IEC 24760-1 は、ID を『ある実体にかんする一連の属性』と定義している」としたほうがよろしい。
●デジタル化と主体(→「ラカンの欲望グラフ」)
「デジタル化によって脅かされているのは、自由な人格としてのわれわれの自己経験ではなく、仮想的な/実在
しない大〈他者〉それ自体である。こうした大〈他者〉は外面化/物質化されることによって、現実の一部とし
て実質的に存在する機械になってしまうのだ。より明確にいえば、デジタル化は主体を脱中心化するのではなく、
主体の脱中心化を廃棄するのである。主体は「脱中心化」されることによって構築される、というラカンの主張
の要点は次のようなことではない。すなわち、わたしの主観的な経験は、わたしの自己経験に関して「脱中心
化」されているメカニズムによって、したがってわたしのコントロールを超えている客観的な無意識のメカニズ
ムによって規制されている(これはどんな唯物論者も主張する点だ)ということではない。ラカンの要点はこれよ
りはるかに不穏である。つまり、わたしのもっとも内奥の「主観的」経験、物が「本当にわたしにはそう見え
る」という経験、わたしという存在の核を形成し保証する根源的空想という経験、わたしはこうした経験すら奪
われているということだ。というのも、わたしはこれらを意識的に経験することはできず、当然のこととして前
提することもできないからである。通常の考え方によれば、主体を構築するのは現象としての〈自己〉経験という
う次元である」「わたしの行為、知覚、思考を支配している未知のメカニズムが何であれ、わたしがいま見て
感じていることを誰もわたしから奪うことはできない」とわたしが自分自身に言う瞬間にわたしは主体となる」——ジジェク『性と頓挫する絶対』中山徹・鈴木英明訳、p.238 、青土社、2021年
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