かならずよんで ね!

奥山家の祭壇について

The Alter of the Okuyama family in the Amami island

池田光穂

「奥山家にもどると、宵闇が迫ってきたというのに部屋には昼間からつけ放した裸電球が唯一つで、織機(主人の奥山サチエさんは大島紬を織る)の上に掲げた靖国神社の額がぼうとかすんでいる。軍属としての勲八等瑞宝章を受けた父親がまつられているのであった。

 靖国神社を正面から写してその左端に父親の顔写真をはめこみ、空白の部分には、

  ふる里は山野しげりてゆるぎなし

  折ふし帰れ夢の家路に

 と毛筆で書き入れてある。戸棚の上にマリア像と十字架を背負ったキリストの額があり、次の間には仏壇があった。奥山さんとしてはすがれるだけのものにすがったのかであろうか。

『原爆さえ落ちなければと思ったり、死んだものに弔慰金くらい欲しいと思ったりもしたけど、思ってみてもどうにもならないから』

と万事控え目に、ながれにさからわず生きているかに見える奥山サチエさんであった、毎年八月九日の原爆投下の日に名瀬市で開催される平和祈念と慰霊の集いには、今後とも参加するつもりはないという。

『どういうわけか、その日がくると気分がすぐれない』

と体調を理由にしたが、かたくななまでのその姿勢に彼女の意思がうかがわれる」(上坂 1987:)


ふる里は山野しげりてゆるぎなし折ふし帰れ夢の家路に(上記のものとは関係ありません)

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