かならず 読んでください

科学情報を批判的に読む訓練

ingles..

カメレオン

池田光穂

《ヘッダー/リード文》
ヒトとチンパンジーの脳の違いを発見
〜霊長類脳の遺伝子発現変動とエピジェネティック変動の網羅的解析〜
本研究成果は,2018年8月1日に米国コールド・スプリング・ハーバー研究所発行の学術誌Genome Research誌に掲載されました.

自然科学研究機構 生命創成探究センターの郷 康広 特任准教授(自然科学研究機構生理学研究所・特任准教授 併任)らは,中国科学院上海生命科学研究院,スコルコボ科学技術大学,自然科学研究機構基礎生物学研究所,京都大学霊長類研究所,京都大学野生動物研究セ ンター,新潟大学脳研究所との国際共同研究として,ヒト,チンパンジー,ゴリラ,テナガザル,およびマカクザルの死後脳を対象とした遺伝子発現データおよ びクロマチン修飾データの分析を実施しすることで,ヒトの脳において特異的な発現変化を示す複数の遺伝子群(モジュール)を発見し,そのモジュールに分類 される遺伝子の数がチンパンジーと比べて7倍以上に及ぶことを明らかにしました.さらに,ヒトとチンパンジーの種の違いは,主に転写因子の発現状態・結合 状態の差に起因するものであり,一方で,脳の領域間の差には,プロモーター領域におけるクロマチン修飾状態の違いが主に関与していることも明らかにしまし た.

ヒトの脳の肥大化,特に前頭前野の肥大化と,その結果としての高次認知 機能の獲得や言語使用などによる複雑なコミュニュケーション能力の獲得は,ヒトが他の霊長類と大きく異なっている部分です.本研究グループは,ヒトの最も 大きな特徴である脳の進化を「ヒトとは何か?」という問いに対するひとつの切り口として捉え,ヒトとヒトに近縁な霊長類(チンパンジー・ゴリラ・オラン ウータン・テナガザル・マカクザル)を対象とし,それぞれの脳において遺伝子の発現がどのように時空間的に制御され表現型として現れるのか,その分子基盤 を解明することを目的として研究を行いました.

研究グループは,ヒト脳の生物学的な特異性を明らかにすることを目的と し,ヒトの脳内における遺伝子の発現地図を作成した上で,ヒト6個体,チンパンジー6個体,ゴリラ2個体,テナガザル1個体の死後脳8領域(運動前野,前 頭前野背外側部,前頭前野腹外側部,一次視覚野,前帯状皮質,線条体,視床,小脳)を対象とした比較トランスクリプトーム解析を行い,その結果を比較しま した.遺伝子発現が共に変動している共発現遺伝子の類似性をもとにクラスター解析を行ったところ,24のモジュールが発見され,そのうち4つがヒトに特異 的,1つがチンパンジーに特異的なモジュールであることが分かりました.240個の遺伝子がチンパンジーの系統でのみ変動したのに対し,ヒト特異的な発現 変動を示す遺伝子は1851個にも及ぶことが明らかとなりました.さらに,ヒト特異的な遺伝子の半数以上が,ヒト海馬のニューロンおよびアストロサイトに おいて遺伝子発現上昇を示すことも明らかになりました(図1).

また本研究グループは,遺伝子発現の制御に重要なエピジェネティック変 動,特に転写を促進すると考えられているヒストンのアセチル化状態の変動を調べるために,先行研究において得られたデータを用い,遺伝子発現の統合的な解 析を行いました.その結果,ヒトとチンパンジーの種間において遺伝子発現の差を生み出す主な要因は転写因子の発現状態・結合状態に起因するものであり,一 方で,脳の領域間の差には,プロモーター領域におけるクロマチンのアセチル化の状態の違いが主に関与していることを明らかにしました(図2).

この研究成果は,2018年8月1日に米国コールド・スプリング・ハー バー研究所発行の学術誌「Genome Research」に掲載されました.

図1.ヒトとチンパンジーの死後脳における発現変動遺伝子の解析.ヒト とチンパンジーにおいて遺伝子発現変動を示す9726遺伝子を発現パターンの類似性をもとにクラスター解析した結果,24個のクラスター(モジュール)に 分類することが可能となった.そのうち4つがヒト特異的,1つがチンパンジー特異的なモジュールであり,それぞれに分類される遺伝子の数の合計はヒトがチ ンパンジーの7倍以上(それぞれ1851遺伝子と240遺伝子)を占めていた.

図2.種差・脳の領域差を生み出す遺伝子発現制御機構.ヒトとチンパン ジーの間の遺伝子発現の差には,転写因子の発現状態変化や結合状態の変化が主な要因となっているのに対して,脳の異なる領域における遺伝子発現の差を生み 出す主な要因は,プロモーター領域のクロマチン修飾状態の違いであることを明らかにした

発表論文
Xu C, Li Q, Efimova O, He L, Tatsumoto S, Stepanova V, Oishi T, Udono T, Yamaguchi K, Shigenobu S, Kakita A, Nawa H, Khaitovich P, Go Y.
Human-specific features of spatial gene expression and regulation in eight brain regions.
Genome Research 28: 1097-1110.

《出典》
http://www.koseisouhatsu.jp/activity/release/20180806_research/index.html


この練習は、ロラン・バルト『モードの体系』に倣っ て言説の分析をおこなうのであり、(分析のための情報量が多い)図像データはその分析の対象にしない。

リンク(授業用)

リンク

文献



(c)Mitzub'ixi Quq Chi'j. Copy&wright[not rights] 2018