嘘あるいは学術的法螺話と遭遇する
Encounter with liars or scientific fabulists
臨床コミュニケーション II(10)20091203 担当:池田光穂
嘘あるいは学術的法螺話と遭遇する:Encounter with liars or scientific fabulists
■ 嘘の配線図
「神経活動を利用して嘘を発見することを目標として、大量の研究が行われているが、少なくとも一つの製品が市販されている。ペンシルヴェニ ア大学の精神医学者ダニエル・ラングリーベンは、嘘をつくことに関連する脳の領域を同定するためにfMRI を使っている。ラングリーベンのチームは、「嘘と真実との認識的な違いにはそれぞれ対応する神経活動があって、それはfMRI で検出できる」と結論づけた。「特に[嘘と]関連して、……前帯状回(anterior cingulate cortex / ACC)、上前頭回(superior frontal gyrus / SFG)、左脳の運動前野、左脳の運動野、左脳の前頭頂葉(anterior parietal cortex [sic=原文ママ])の活動が高まる」のだという。幸いなことだ。私たちは真実を語るように配線されているというわけか。fMRIを用いた嘘発見研究の レビューによれば、騙そうとする試みは、遂行機能中枢、特に前頭葉と前帯状回の活動と関係しているという。だが、真実を述べるときには特に活性化する領域 はないそうだ。シェフィールド大学の神経科学グループは「ということは、真実を述べるのが、人間の認識とコミュニケーションのベースラインになっているの かもしれない」と述べている。
このテクニックは、今のところ、特定の人物がいつ意図的に嘘をつくかを予測できるほどの効力をもつには至っていない。しかし、私たちにはも ともと正直であろうとする傾向があるために、嘘をつくときには脳ががんばらなくてはならないという事実をもとにして、fMRI を嘘発見用に改良するのは可能だと指摘する人もいる。ハーバード大学のジョージオ・ガニスとスティーヴン・コスリンは、巧みに仕組んだ嘘をつこうとすると 脳の多くの領域で活性化が起こることを発した(もっともらしい嘘をつこうと思えば集中しなくてはならないのだ)。また、前もって練習した嘘とその場でつく 嘘を識別することもできた。同様に、南カフォルニア医科大学のチームは、若い男性が嘘をつくときに前帯状回と眼窩前頭野の活動性が高まることを発見した。 科学捜査や国家安全保障にとって、信頼性の高い嘘発見用脳スキャンには潜在的な重要性があるのは明らかだ」(モレノ 2008:203-204)。
■ fMRI & Lie detection :上の訳文の英語原文
"A slew of studies and at least one commercial product are aimed at using neural activity in lie detection. Penn psychiatrist Daniel Langleben is using fMRI to identify brain regions associated with lying. He and his team have concluded that "cognitive differences between deception and truth have neural correlates detectable by fMRI;' with increased activity in the "anterior cingulate cortex (ACC), the superior frontal gyrus (SFG), and the left premotor, motor, and anterior parietal cortex [sic] ... specifically associated with [deception]' Happily, it's beginning to look as if we are wired to tell the truth. A review of studies on the use of fMRI to detect lying reports that attempts to deceive are associated with activation of executive function centers, especially the prefrontal and anterior cingulate cortices, but truthful responses don't activate any particular areas more than others. "Hence;' a University of Sheffield neuroscience group concludes, "truthful responding may comprise a relative 'baseline' in human cognition and communication.'
Techniques aren't yet specific enough to predict when a particular person is being intentionally deceptive. However, there are some indications that refinement of fMRI for lie detection is possible, based on the fact that our natural inclination to be truthful forces the brain to work harder when we lie. Harvard's Giorgio Ganis and Stephen Kosslyn have found that well organized lies involve activation of many parts of the brain -- a convincing lie requires concentration -- and rehearsed lies can be distinguished from spontaneous ones. Similarly, a Medical University of South Carolina team found increased activity among lying young males in the anterior cingulate and the orbitofrontal cortex. The forensic and national security implications of a reliable individual brain scan for lie detection are obvious"(Moreno 2006:103-104).
■ 用語解説
fMRI :functional Magnetic Resonance Imaging 翻訳は「機能的ー核磁気共鳴画像法」。fMRI とは、核磁気共鳴 (nuclear magnetic resonance, NMR) 現象を使って画像化する技術である。NMR(核磁気共鳴)とは、原子核(主に水素原子のそれ)がもつ磁石の性質(核スピン)を利用して、生体を磁場に置 き、さらにラジオ波という電磁波を照射することにより生ずる原子核の固有の動きのことである。ここで言う機能的(functional)とは、MRIの特 に血流の状態を調べることで、大脳のどの部分——脳には機能局在(きのうきょくざい)と言い大まかに身体感覚や運動を含めた知的機能の働きがそれぞれの部 分によって分業していると言われ、その働きには個人差がないと研究者は信じている——が働いているのかをビジュアルで見せる方法である。このような方法は ひろくイメージングあるいはニューロイメージング(神経画像化)と言われているもののひとつである。
■ 参照図版
■ 課題
(1)この解説には、我々の日常感覚から考えるとおよそ首肯しがたい——ということは論争のネタになる——いくつかの論証抜きの指摘(=暗 黙の前提)をいくつか見つけることができる。神経科学的な知識の有無にかかわらず、参加者はお互いに協働しながら、この文章の奇妙と思われる点をピック アップして、なにが、どのようにおかしいのかを指摘してください。
(2)もしこの文章で指摘されている脳科学者たちの主張が「仮に」正しいとすると、嘘発見のための脳スキャンが開発されることは、好ましい と考えるか否かについて、グループのメンバーのひとりひとりの賛否を聞き、それぞれどのような点が主張されたのか、報告しなさい。
■ 文献
■【ジョナサン・D・モレノの書誌情報】
210pp. ; 24 cm 内容: DARPA on your mind ; Of machines and men ; Mind games ; How tothink about the brain ; Brain reading ; Building better soldiers ; Enter the non-lethals ; Toward neurosecurity. 注記: Includes bibliographical references and index. ISBN: 9781932594164. 著者標目: Moreno, Jonathan D..分類: LCC : UH399.5 ; DC22 : 355/.07, 件名: Medicine, Military -- Research ; Medicine, Experimental ; Brain -- Research ; National security ; Human experimentation in medicine. DARPA: Defense Advanced Research Projects Agency.
■ リンク[授業]
■ 関連[人によっては非関連]リンク
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099