嘘あるいは学術的法螺話と遭遇する:解説編
Encounter with liars or scientific fabulists
臨床コミュニケーション II(10)20091203 担当:池田光穂
嘘あるいは学術的法螺話と遭遇する:Encounter with liars or scientific fabulists
■ 課題(→課 題文が収載された本編はこちらです)
(1)この解説には、我々の日常感覚から考えるとおよそ首肯しがたい——ということは論争のネタになる——いくつかの論証抜きの指摘(=暗 黙の前提)をいくつか見つけることができる。神経科学的な知識の有無にかかわらず、参加者はお互いに協働しながら、この文章の奇妙と思われる点をピック アップして、なにが、どのようにおかしいのかを指摘してください。
(2)もしこの文章で指摘されている脳科学者たちの主張が「仮に」正しいとすると、嘘発見のための脳スキャンが開発されることは、好ましい と考えるか否かについて、グループのメンバーのひとりひとりの賛否を聞き、それぞれどのような点が主張されたのか、報告しなさい。
■ 始まる前:チーム編成のために移動
■ 板書の前でプレゼンテーションする
■ 書かれた情報(この見本は第3班のものです)
■ 院生たちの取り組み
1班
1)脳の活動がわかるわけがない:言うことがあいまい、そもそも「うそ」って何? 何を見ているのかも分からない
2)投票で決めた:好ましくない(6/7):場合による容認(1/7)「嘘を見つける面白さや新しいコミュニケーションの可能性」
好ましくないと判断した意見:この装置が信頼できない機械に脳が分かるか→冤罪を産むのでは? 必要な嘘もあるでしょう!
2班
1)嘘の定義が曖昧。話しを盛る、勘違いなどは、嘘に入るのか入らないのかが不詳。一概に機械によって判断できるのか?
2)好ましくない:まだ曖昧なものを科学的に判断できるのかという問題がある。絶対的なものになってしまう危険性
3班
1)真実を述べる時にも活性化する脳の領域はある→例)PTSD 嘘それ自体をネガティブに捉え過ぎている。真実とは?嘘とは? そもそも 実験手法は? 正直であろうとする傾向は本当にあるのか?
2)【ノー】理由:嘘イコール悪ではない。人間はデジタルではない。文脈、状況など総合的に判断する必要がある。
【ノー】理由:実用化できない。嘘は個人のフィルターを通され、客観的なものたりえない。(脳の)活性化が定量化されていない。
4班
1)課題文11行目:だが真実を述べる時には、特に活性化する。課題文15行目:しかし私たちはもともと正直であるとする傾向がある。
知識がないと嘘はつけない? 嘘はよくないは、文化的影響か。相手のことを思っての嘘(例:建て前と本音) 人間の本質(正直+経験) 嘘 =言ったあとの状況を想定している(それで活性化する?)
2)答えは【否】:プライバシー(→本能?)・人権・偏見・差別などの問題
5班
1)4行目:それぞれ対応する神経活動ある::11行目:真実…活性化…ない。 6行目:嘘と関連して…高まる::8行目:真実を語るよう に(同様:13行・15行目)
2)【イエス】犯罪捜査など。学術的に面白い。【ノー】嘘もあってコミュニケーションはうまくいく。思い込みと嘘を区別できない。
池田光穂(主催者のコメント)
1)嘘と真実の二元論あるいは原理主義的区分に神経科学の研究者は嵌まってしまっている。それに対する疑問。血流とシナプスの活動の関連づ けがはもっと複雑である。例えば、抑制性ニューロンというものがある。これが活発だと、その標的になる興奮性のニューロンを抑えたりするような複雑な動き がある。またこの議論は、微小局在説と脳の部分の組み合わせである。どうも嘘を言うメカニズムは、局在説でもなく、また完全な配線だけの問題ではないよう だ。つまり、非常に複雑なものを極端に単純化していないだろうか。嘘とジョークや、誇張表現との差異をどのように区分するのか? 結論として、仮構の上に 仮構を置くような不可思議な議論を構成している。
2)嘘の脳スキャンを使うためには、どこまで正確なのか、また何を測定できてなにができないのかを明確に区分されなければならない。また権 力をもって使う側には「新しい倫理」が要求されようし、またそれによって検査される側の人達には、うまくやりおおせるように、〈新たな脳トレ〉が必要にな るかもしれない。
■ 関連[人によっては非関連]リンク
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099