医療的多元化の理論
Critical Notes on Medical Pluralism, by Mitzubishi Ikeda
- クレジット: 医療的多元化の理論
- 医療的多元化の理論(Sheila Cosminsky による)
- 医療的多元論(池田光穂の解説)
- 多元的医療化
以下のノートは引用者によるコメント込みです。原典にあたらないと後悔するでしょう。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++1.多元主義・多元論の2つのレベル
(1)パラレルまたは代替システムとして
(2)異なるシステムの要素の取り込み(incorporacion)として
2.現在までの人類学研究の問題点
(a)治癒の超自然的側面のみを強調し、それ以外の部分が疎かにされている
(b)現地のシステムの全体論が理解されずに、医学と宗教の固有のモデルを外挿
3.宗教と医学の(ヘゲモニーの)問題/葛藤
(a)メソアメリカ地域でシャーマンやクランデーロの利用が低下してきたのは、近代医療の普及よりも宗教ミッション(Accion Catrica, Evangelista etc.)の活動による。
(b)近代医療の普及は政治的システムによって援助される。
その例)グアテマラではクランデーロが公的に禁止されている(Velimirovic, 1978:181)。またエヴァンヘリコや近代主義的カトリック(アクション・カトリカ)なども呪術的治療を批判する。コスミンスキーによると、シャーマ ンやクランデロの利用頻度がメソアメリカで低下しているのは、西洋医療の普及よりも、上記のような宗教ミッションによる布教のためであると考えられる。
(c)エスピリティスモ(espiritismo)は、ヨーロッパの文化的伝統に由来し、メソアメリカでは近代的とも伝統的とも考えら れない。
(d)民間注射師(enyeccionista)のような民間医療セクターの存在
(e)治癒の超自然的面を強調し、それ以外の部分がおろそかになる。
(f)人類学の古典的な宗教/医療の概念枠組を無批判に流用している。
4.伝統と近代
医療資源としての2つの医療の選択のパターン(伝統+近代,近代のみ:伝統一本というのは少ない)
家庭内での処方:autotratamiento con remedios caseros
注射療法者(inyeccionistas)
スピリティズム:ヨーロッパの文化的伝統に由来し、メソアメリカでは、近代的とも伝統的とも言えない。
伝統と近代の関係は、2つの医療の選択であり、それらは人びとにとっての医療資源と なっている。
5.社会集団による選好性(Fabrega and Manning 1979)
インディヘナ/伝統的療法の選好
メスティーソ/近代的療法の選好
※ただし、メキシコのメスティソ社会の女性には2つの利用パターンがあり、伝統的志向の女性は、伝統的および近代的利用資源の両方を利 用する(重み付けは、前者>後者)。しかし、近代的志向の女性は近代的医療資源のみの利用するにとどまっている。[McClain 1977: Soc.Sci.&Med.11:341-7]
8. 病気=患者と治療のタイプの関係
Fabrega and Manning(1979)のサンクリストバルでの研究:伝統=先住民、近代=ラディノという二元論で説明される。
10.医療選好の経時的な利用パターン
複数の医療の利用はきわめて一般的にみられるが、それはシーケンシャルな形態をとるが、時に同時に利用されることもある。
11.多元主義の相互関係について
相互作用について「何が」関与するかについて示されるが、「どうして」とか「どのように」ということを説明する研究は少ない。
選択の決定因については次のようなものがある。
「多元的医療とは、患者によって利用される様々の伝統・専門家・イデオロギーや[医療の]実践の共存だけでなく、民間医療によっておこ なれる、それぞれの伝統の要素の統合でもある」(p.178)
8.ハイブリッド状況(池田)
通常に用いれるエックス線やビタミンの概念を検討すると、西洋医学用語やそのカテゴリーがますますよく利用されるようになったが、その ことと人びとが理解している概念の中身は全くの別物と考えてよい。すなわち、折衷主義という形で「開いている」民間医療システム
ビタミン注射(p.179)について
ビタミンが食物に含まれるという考え方がない
注射やトニックを与える重要性が、医師、薬剤師、クランデロなどによって(西洋医療の側からも)裏書きされている。このことにより、すくなくともイデオロギー的/表面的には相互に排除するようにみえても、西洋医療の医者も患者と認識 論的地平は共有しているのだ。
西洋医学の病気の用語とカテゴリーが、ますます利用されるようになっている。ただし、人びとはそれを(西洋医学的に正しく)理解する必 要はないのである。
そういう意味で、民間医療はオープンシステムである。
21.西洋医療[遂行上]の問題点/薬剤の不適切な使用
(1)医師が短い時間単位で患者に処置すること
(2)患者の経済的理由
(3)患者が西洋医療に対して現実とかけ離れた短期な効果を期待すること
23.保健の商品化の問題
医薬の消費の伸びが、皮肉なことに生活の質を向上させる消費を押さえつけている。あるいは近代医療の不適切な利用の効果として、精神的 治癒をねらうクランデーロやエスピリティスタの利用が高まることがある。
グアテマラでは1976年の薬剤の消費だけでも4000万ドルに及んでいる。
商品化を促進させるのが、マスメディアによる宣伝である。
【近代化の逆説的効果】
医薬の消費の伸びが皮肉なことに、人びとの生活の質を向上させる一般的な食品や生活の改 善に使われる消費を圧迫する。
26. 西洋医学の間接的社会効果
心理的=精神的不安の増加による、精神的治療を提供する治療資源(クランデロやエスピリトゥイスタ)への依存の増加傾向
●関連ノート
・治療をマネージする集団(therapy managing group)
patient-healer関係におけるpatient部分の拡張
"Therapy managing group"(Zaire:Janzen 1978; Tanzania:Feirman 1981)
・インドにおける医療的多元化(Colson 1971)
Colson, 1971, The differencial use of medical resorces in developing countries, Jornal of Health and Social Behavior 12:226-237
・タンザニアにおける医療的多元化
Feirman 1981, Alternative medical services in rural Tanzania: A physicians's view, Soc.Sci.Med. 15B:399-404
・ザイールにおける医療的多元化
Janzen 1978, Yhe quest for therapy in Lower Zaire, Berkeley, University of California Press
・エクアドルの医療的多元化
Pederson and Coloma, 1983, Traditional medicine in Ecuador: The structure of non-formal health sysytems, Social Science and Medicine 17:1249-1255.(paper in special issue "Some case studies in Latin America")
Medical
Pluralism in Mesoamerica,1983, In Heritage of conquest : thirty years
later / edited by Carl Kendall, John Hawkins, Laurel Bossen,
University of New Mexico Press , 1983
(ただし引用はEl puluralismo medico en Mesomareica, en "La Herencia de la Conquista", Fondo de Cultura Economica, 1986, Mexico による)
リンク
文献
その他の情報
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