クレジット・サイクル・モデル(CSM)
Credit Cycle Model in Knowledge Production
Infant Samuel, by Sir Joshua Reynolds, 1776
池田光穂
クレジットとは、信用のことである。「確かなものと信じて受け入れること」が信用の定義である。クレジットサイクルモデルとは、研究者の成功を、科学的成果 の信用が増大、展開することで説明しようとする社会モデルのことであり、日本のバイオサイエンス研究者の文化人類学的研究をおこなったサミュエル・コール マン(2002)が、その分析に使った。
ビジネスや資本主義経済をかじった人ならすぐにわかると思うが、実体経済は「資本」を投下しそれ を展開させて利潤を回収するしくみで動いている。他方、科学の世界は(経済的利潤を生むような社会的営為ではなく)、むしろ外部から資金などが投入される のので、実体経済とは縁もゆかりもないような活動に見える。しかし、資金というかたちで投下され、利潤というかたちで回収されるものが「信用=クレジッ ト」であるとみると、資本主義のメカニズムに関する批判的研究の枠組みが、科学者の営為の分析にも使えるという単純な類推の発想を応用したものである。
このクレジットサイクルモデルは一見オリジナリティがあるようだが、じつはデミングとシュハート のマネジメントサイクルであるPDCAと類似のものである。PDCAで管理されるものは生 産物の品質であるが、クレジットサイクルで保証される ものは研究者・研究集団の名声(文化資本)である。下図の両者を見比べてほしい。
クレジット・サイクル・モデルは、次の4つのプロセスからなる
である。このうち、リソース発掘プロセスと、創発プロセスは、(1)研究者集団が関与する知的生 産と評価システム、である。そしてセールスプロセスと、被評価プロセスは、ファイナンス集団が関与するクレジット生産と評価システムである。
●サムエル記(上)
「10 サムエルは王を立てることを求める民に主の言葉をことごとく告げて、
11 言った、「あなたがたを治める王のならわしは次のとおりである。彼はあなたがたのむすこを取って、戦車隊に入れ、騎兵とし、自分の戦車の前に走らせるであろう。
12 彼はまたそれを千人の長、五十人の長に任じ、またその地を耕させ、その作物を刈らせ、またその武器と戦車の装備を造らせるであろう。
13 また、あなたがたの娘を取って、香をつくる者とし、料理をする者とし、パンを焼く者とするであろう。
14 また、あなたがたの畑とぶどう畑とオリブ畑の最も良い物を取って、その家来に与え、
15 あなたがたの穀物と、ぶどう畑の、十分の一を取って、その役人と家来に与え、
16 また、あなたがたの男女の奴隷および、あなたがたの最も良い牛とろばを取って、自分のために働かせ、
17 また、あなたがたの羊の十分の一を取り、あなたがたは、その奴隷となるであろう。
18 そしてその日あなたがたは自分のために選んだ王のゆえに呼ばわるであろう。しかし主はその日にあなたがたに答えられないであろう」。
19 ところが民はサムエルの声に聞き従うことを拒んで言った、「いいえ、われわれを治める王がなければならない。
20 われわれも他の国々のようになり、王がわれわれをさばき、われわれを率いて、われわれの戦いにたたかうのである」。
21 サムエルは民の言葉をことごとく聞いて、それを主の耳に告げた。
22 主はサムエルに言われた、「彼らの声に聞き従い、彼らのために王を立てよ」。サムエルはイスラエルの人々に言った、「あなたがたは、めいめいその町に帰りなさい」」(サムエル上 8:10-22)。
リンク
文献
コールマン、サムエル 2002 『検証 なぜ日本の科学者は報われないのか』岩館葉子訳、東京:文一総合出版。