さまざまな国家論
a kind of state
「国家」にはさまざまなとらえ方とその歴史的変遷があります。また、どのような国家観をとるか は、国家を操縦し、国民をなにがしかの生活空間に置き留めるのか、という(国家に帰属する)人々の理念の反映でもあります。しかしながら、国家という意味 も、現在の我々がいうそれと、マキャベリのそれが同じであるという保証はない。西洋思想のなかに国家に相当するものに以下のような語彙がある;ポリス(ギ リシア語)、コイノニア(ギリシア語)、レスプブリカ(ラテン語:res pibulica)、インペリウム(ラテン語: imperium)そして、中世のコムニタス・コムニタートゥム(ラテン語:comunitas communitatum)として、ステイト(英語:state)
ここで多様な国家観をあげ、皆さんがどのような国家間をもっているのか、チェックしましょう。
野獣的国家
トーマス・ホッブスのリヴァイアサンに代表される国家観です。国家は強制力を国民に誇示して、恐怖や暴 力を通して支配を貫徹します。国歌や国旗は、愛国=郷土(patria)のシンボルであり、それらのシンボルを通して国家は国民に対する従属を要求し、国 民は国家に対する忠誠を誓います。(→「国家は我々自身を形づくる」)
国民は国家との契約において、国民の自由の一部を担保にしてでも、国家において国民の身体を 保護してしてもらうことに合意しており、国家による合法的な暴力——警察や軍隊——を容認できるものとする。
この国家観の変奏が「夜警国家 night watchman state」です。
夜警国家 night watcher state, Nachtwa‾cherstaat
ドイツのフェルディナント・ラッサール(Ferdinand Lassalle, 1825-1864)が、近代国家(ブルジョアの利益を守る)の役割を揶揄して表現したもので ある。つまり、夜警国家とは、外敵に対する防衛、国内治安の維持、そして最低限の福祉政策に国家機能を限定しする自由放任の国家観である。福祉国家の対概 念とされてきた。
福祉国家 welfare state
1930年代の英国がナチスドイツの戦争国家に対抗して自国の国家を表象した宣伝用語に由来 する。それが冷戦期に共産主義や全体主義国家に対する概念用語として洗練されていった。国民保険などに代表される社会福祉サービスを中心として民主主義を維 持するという国家運営形態を理想としている。
したがって福祉国家論はルーツとしてはナショナリズムから出発し、制度を含めた諸概念の発達 は反共産主義な後期資本主義的国家(マルクス主義的な批判用語では「国家独占資本主義期の国家形態」)においてなされた。
搾取的国家
国家はおしなべて国民の利益を蹂躙し、すきあらば国民から搾取をおこなうものとみなされる。国民にとっては、国家のこのような不道徳に対して常に警戒し、場合によっては、国家にとって反乱し、暴力をもって国家の主宰者を権力から引き下ろす権 利を有すると考える。
したがって国家は、そのような暴力が暴発しないように、国民の福祉を謳い、そのような暴発が おこらないように、ソフトに管理しようとする。
人民的国家
野獣的国家観における国家と国民が同じものであるとき、国家は国民の持ち物になり、国民は国 家と同一視されます。国家は眼にみえる実体つまり郷土(patria)などを強力なシンボルとして動員して、国民管理をおしすすめます。かつての共産主義 国家はこのようなシステムを極度に押し進めました。国民どうしを、身分制を超えて〈同志〉としてお互いに呼び慣わすやり方は、宗教共同体における〈兄弟= 姉妹〉とおなじように、情念に裏付けられたつよい精神的共同体性をメンバーに押しつけます。
多元的国家観
多元的国家における多元とは、国家を構成する諸団体の多元的共存状態のことをさす。つまり、 自由主義にもとづく利害諸団体の調整が、国家の役割である。国家は、多様な目的をもつ、それらの団体の調整に熱意を注ぐことに、民主主義の存在意味を見い だす。したがって、この社会の経済システムは新古典派経済学を軸とする自由主義経済である。経済のグローバル化に対しては、自国内の諸団体が不利益を生じ るときに権力を行使するが、通常は放っておかれる。
これからの研究課題
「21世紀の国家は、これからどうなるのか?——国家の衰退か?国家機能の強化か?」
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