男にもつわりがあるのでしょうか?
解説:池田光穂
しつもん:
つわりは、妊娠する女性だけがかかるものだと思っていたのですが、男もつわりがある/あった社会があると聞きました。その真相は?
おこたえ:
妻の妊娠・出産にともなう夫の行動の社会的規制やそれに随伴する 身体症状について、文化人類学(民族学)の研究者は、擬娩ないしは 偽娩(共に、ぎべん、と読みます)と読んで、その理由について長い間 考えてきました。
最初は、無知蒙昧な「未開人」がおこなう奇習として、学者はその 風習について記載しました。やがて、夫が妻の妊娠・出産につき合う ことは、妊婦に心理的安心感をもたらしているのではないかという 機能的な解釈が登場しました(=奇妙なことも「本当は」何か役に立っ ているのではないという、ためして合点!的理解)。そして、今日では 妊娠出産は、人間社会の人口の再生産にとってはきわめて自然であり、 かつ社会現象であるから、そのような奇習は社会制度に組み込まれて いる限りきちんと意味をもっているという考え方が主流になりました。 このような最近の解釈に立てば、妊娠出産を純粋に生物医学的現象と して社会現象から切り離して考え、擬娩などを「奇妙」だと考える 我々のほうが人類の長い歴史にとっては一種の特殊な思考に生きてい るという「相対的な見方」ができるようになりました。
擬娩・偽娩については私が下記の文献で解説しています。ただし、 当該部分についてはネットで公開しています。
・池田光穂「出産」『世界史を読む事典』[共著]朝日新聞社編, 朝日新聞社,(担当箇所:出産, pp.223-228),1994年1月
■擬娩/偽娩(ぎべん)
■出産という文化:上記のポータルサイト
なお、出産の文化に関しては次の文献が幅広く取り扱っていて便利です。
松岡悦子『出産の文化人類学』海鳴社
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