論文の草稿ができました読んでください!に対する垂水センセイのアドバイスメーまたは、〈学術論文の添削メール〉
解説:池田光穂
【質問】
提出論文の草稿ができました! 先生に読んでもらって、コメントをいただければ幸いです。
【おこたえ】
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窮鼠猫を噛む?で書きまくりましたね。ご苦労様です。
論文というものは、それだけで完結した論理のある文章のまとまりです。
とくに学術論文の場合、(1)先行研究のとりまとめを通し て問題点の指摘があり、(2)その問題点を論文の中で筆者はどのように展開するのかが予告され、(3)それをフィールドデータ(ないしは文献的論拠=証 拠)を通して論証し、(4)最後にそれらをまとめ、その議論を先鋭化されるためには、さらにどのような研究が必要になるのか、ないしは、研究の展開の将来 的可能性をまとめて、終了します。
そういう観点で見るとあなたの論文には以下の点が欠けています。提出までに以下の点を補充 しましょう。
(1)先行研究の紹介
とくに今回のテーマであるネットコミュニティの研究や、ひいてはコミュニティ研究の紹介 を行えば、あなたの研究がどういう点で過去の研究の蓄積の上にあり、どういう点でそのような伝統から脱出して、オリジナルなものを提示しているのかが明ら かになります。
文献の引用については、
◆印刷文献の引用方法
040107cite.html(ここではローカルリンクしています)
◆オンライン文献の引用方法
031008cite.html(ここではローカルリンクしています)
を参照してください。
サイバーコミュニティ論は研究途上ですが・・・
◆サイバースペースにおける身体構築の変容
99033vira.html(ここではローカルリンクしています)
に幾つかのヒントになるページをリンクしています。
(2)資料提示のやり方
インターネットの様々な情報が画像つきで紹介されています。たぶん、論文本文中にカラー画 像で挿入することになるかもしれません。この点は画期的で期待しております。ただし、今回の草稿の資料提示のやり方は、速射砲のようにあれもこれも、とい う感じで、雑ぱくな感じを与えます。資料提示の際には、あらかじめ順序や階層性について整理し、その章の冒頭で、「これこれの論理で以下に資料を提示す る。それぞれの資料は……」、というふうな紹介文から始めるのがよいでしょう。
(3)結論を明確に
結論はまだ書かれていないそうですが、結局この論文であなたが何を言いたいのかということ を明確にしておかねばなりません。そうでないと、論文の読者からは「著者はいろいろな資料の提示をしているが、結局何を言いたいのかわからない?」と思わ れますし、審査する側に立ってみると、まず論文の中で著者が言いたいことを見つけだし、それが資料の提示、議論の仕方など、バランスよく「論証」されてい るかを判断します。
ということは、結論や序論などでほのめかされる「著者がやろうとすること」が提示されてい ない今の状態では、査読者が適切にアドバイスしようにも、できないのです。
(4)レトリックは重要!
論文は自分の主張を的確に相手に伝えるための媒体です。それを効果的にするためには、文章 の技巧の向上は不可欠です。だからと言って今から修辞(レトリック)について勉強せよとは言うつもりはありません。繰り返し推敲することです。あなたが読 んできたこれまでの文章は記憶のどこかに(=当然、脳にありますが)ストックされており、さまざまな修辞の技巧が詰まっています。それを、音読などの推敲 を通して、呼び起こすこと(=文章が向上するのは、あなたの知識のなかにある技巧のストックが呼び起こされるからです)、これ以外にありません。
ご健闘をお祈りします。