道具と人間の身体がつくる世界
The World that We
make with our Body and Tools
◆【道具という用語の定義から】小学館『国語大辞典』
◆【定義】Wikipedia in English, 写真は日本語のウィキペディア「道具」より(モノクロ処理)
A tool or device is a piece of equipment which typically provides a mechanical advantage in accomplishing a physical task, or provides an ability that is not naturally available to the user of a tool. The most basic tools are simple machines. For example, a crowbar[かなてこ、バール] simply functions as a lever. The further out from the pivot point, the more force is transmitted along the lever. When particularly intended for domestic use, a tool is often called a utensil.
画 面をク リックすると拡大します(この写真そのものが道具を使って加工 したものです——加工の詳細は授業で説明しました)
Secret stash of Moon artifacts found hidden in Neil Armstrong's closet. Picture from http://bit.ly/177ifM1
野菜のピーラー(皮むき器)の刃の形状は同じだが、握りのデザインが多様である(ナターシャ・ジェン)
◆【分析】
「紀元前1世紀ころのローマの建築家ウィトルウィウスは、『建築十書』で「……これらのうちにメーカネー(器械)として作動するものとオル ガノン(道具)として作動するものとがある。器械と道具の間には次の差異があると思われる。器械は多くの人手と大きな力で効果を発揮するように組み立てら れている、……道具は一人の手で慎重に操作することによって企図されている目的を成就する」と述べている」(『Super Nipponica professional X』この節、以下同様)。
「アメリカの文明批評家マンフォードLewis Munford(1895—1990)は、道具と機械の区別は、それを操作する人の熟練や動力からその操作がどれだけ独立しているかの程度に依存する、つ まり道具は手加減と器用さの融通性に依存し、機械は自動作用による機能の専門化によるものである、という。そして、これらの中間に工作機械があり、工作機 械は精巧な機械の正確さと熟練した職人の介添えをあわせもっていると述べている」。
◆【考察】
ツールやデバイスが、プログラミング用語になるように、道具(ツール)とマシーン/メカニズムというものの区別がしにくくなっている。ある いはそれらのあいだで混同されるようになった(例「どらえもんの道具」)。今日では、メカニズムの一部(デバイス)や手仕事の補助を想起するものにツール を、より大きなシステムやその仕組みや原理を示す全体論的なものをメカニズムと呼んでいるようだ。マシーンにいたっては、即物的な要素が強調され人間的要 素が極小化されたものを指す言葉になっている。
◆【質問】これまでの解説のなかで不明瞭だった言葉、あるいは想起した疑問
◆【本日の3つのワーク】
(1)あなたが日常使っている「道具」を思いつくままにあげてください。(先の「道具/ツール」の定義に縛られる必要はありません)
(2)道具とあなたの身体や意識との関係の中で、もっとも印象的であった経験をひとつ語って(=ここでは記載)してください。印象的であっ た経験というのは、かならずしもうまくいったということだけではなく、失敗や誤解などでも構いません。あるいは、あなたの身体や意識は、必ずしも個人的な ものだけでなく他の人や集団的なものでもかまいません。
(3)グループ討論を通して、前項でとりあげた経験を他の人にも披瀝し、それらの経験の多様性、それぞれのあいだの共通点や相違点を明らか にしてください。グループ討論の結果の報告は、(i)さまざまな経験の要約、と(ii)討論をへて到達した何らかの抽象的(=理論的)な主張やまとめ、と いう2つにまとめてください。
◆【参照解説】
「道具という言葉は日本人にとって大変親しみのある言葉です。どんな新しい時代が日本に訪れても、この言葉は日本人の陰になり、日向になっ て消えることはありません。たとえ親子のつながりが消え、兄弟と別れ、夫、妻が離別しても、道具はぴったりと人の側に仕えています。悲しみも喜びも超え て、腕にある時計の針は秒を休みなく刻んでいるのです。土器、石器に始まる道具の歴史は、そのまま人類史であるといって過言ではありません。物言わない道 具の歴史は、いわば影のように人間の歴史につき、従ってきたといってもよいのです。影の動きが止まれば、それは恐らく人類史の終りをも意味するといってよ いでしょう。博物館に陳列されている道具類はそのまま各時代のドラマの再現なのです。それは人類の足跡であり、人類の残した拇印でもあるのです。この、一 見もの静かな道具が一度人間の生活に触れると、いかに逞しく人間の生活と結びつき、口をもたない道具がいかに雄弁であるか、耳をもたない道具がいかに聞 き、目をもたない道具がいかに観察力があり、そして足をもたない道具がいかによく走り廻るかに気がつきます。その種類も量もいかなる生物のそれよりも遥か に多く、しかも年々際々増加の一途を辿っているのです。あたかも人間の欲望が際限ないように、道具世界は際限なく膨張しているのです。この道具世界が人間 の喜怒哀楽に対して人間の内部から外部から影響を与え、自に見えない力がさまざまなかたちをとって、人間の生活現象の上にあらわれています。個人、家族、 社会、民族、国家とどれ一つを取り上げても影響を受けないものはありません」榮久庵憲司(えくあん・けんじ、1929-2015)「道具世界導入」『道具 考』p.9、東京:鹿島研究所出版会、1969年
◆【参照解説】
《プロダクト・デザイン・コミュニケーション》
3Mのスコッチテープは、もともと本の修理のために売り出されたという。ところがメーカーの意図とは関係のない利用を消費者がしているのに気づく。例え
ば、髪留め、包装につかう、ポスターを壁に貼る。これらは今日では当たり前のものなので、1940年代に3Mは調査を開始し《消費者の利用の実態》をもと
に、今度は、(僕らにはなじみ薄いが)髪留め用、医療用、道路の反射用などのさまざまなテープを開発して世に送りだしたということなのだ。
ウィノグラード、テリー『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』瀧口範子訳、pp.170-171、東京:ピアソン・エデュ
ケーション、2002 年(→反省的実践家)
◆【リンク集】
◆授業のフィードバックあるいは照会先(池田光穂):
印刷用ハンドアウト(2007.11.13, pdf 864k)