多文化共生に関する大学・大学院教育の現状
授業コースとして「多文化共生論」といったものは、各地の大学で多数開講されているらしい。グローバルコラボレーションセンターの三田貴・特任 研究員の情報収集(2008年7月1日現在)によると大学教育には以下のようなものが見つかるらしい。(リンクが張っていない場所は各自でコピー&ペース トで対応してください)
立命館大学国際関係研究科多文化共生プログラム
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsir/jimu-oshirase/jimu-oshirase.html
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsir/jimu-oshirase/nyugakuannai07.pdf
甲南女子大学多文化コミュニケーション学科(多文化共生学科)
聖トマス大学多文化共生学科
広島市立大学国際学部 多文化共生プログラム
それ以外に大学関係の研究費(外部資金)関連のや特定の研究者によるサイトには以下のようなものがある。
群馬大学|多文化共生社会の構築に貢献する人材の育成(H17-20 特色ある大学教育支援プログラム)
明治大学国際日本学部山脇啓造教授の「多文化共生社会の構想」
静岡大学教育学部宇都宮研究室
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〈以下、ウェブから得られる情報にもとづいた批評〉(評者と文責:池田光穂)
立命館大学国際関係研究科多文化共生プログラム http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsir/jimu-oshirase/jimu-oshirase.html
まず、研究科長の挨拶に注目。つまり学科のカリキュラムは「現代国際社会の構造と動態を分析し、同時に国際協力あるいは地域研究などの個 別課題に挑戦することによって、自らが問題を積極的に発見し、解決する力量を培うことをめざ」し、「カリキュラム編成」そのものは「複眼的な国際感覚と現 代国際社会に対する専門知識を基にした深い分析力と洞察力、さらには優れた外国語運用能力と情報活用能力を総合的に併せ持つ学生、院生を養成していく」ら しい。要するに能力養成(それも研究能力の?)ばかりが主張されていて、実践などは興味がないようだ(出典: www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsir/jimu-oshirase/jimu-oshirase.html)。
多文化共生では「情報通信技術(ICT)の飛躍的な進歩によって、「世界は一つ」になりつつあります。本プログラムは、世界の一体化が、 各国・各社会の文化にどのような影響を与えているのか、文化の変容をどう考えればよいのか、文化の衝突ではなく共生のために、我々は何を努力していくべき か、について研究します」と抽象論が述べられていて、具体的にどんな人材を輩出するかが書かれていない (www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsir/jimu-oshirase/jimu-oshirase.html)。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsir/jimu-oshirase/nyugakuannai07.pdf
のなかに、多文化共生プログラムの科目一覧あり。以下のとおり……
【多文化共生プログラム】コメント:これがメインの科目
異文化間コミュニケーション論特講 NGO・自治体外交研究 現代民主主義研究 グローバリゼーションとジェンダー研究 グローバリゼーションと宗教研究 グローバリゼーションと地域文化研究 国際機関研究 国際言語文化研究 人権論研究 先進国政治論研究 比較社会史研究 文化人類学研究 民族と文化研究 民族紛争の法研究 メディアと国際社会研究 日本論
【Global Cooperation Program 】コメント:英語授業で他のプログラムとの共通科目?
African Studies Asia-Pacific Relations Cross-Cultural Communication Development Economics Development Strategies East Asian Studies Environmental Economics and Policy Globalization and Gender History of Global Governance International Law of Peace International Organizations International Political Economy International Relations Japan and the West Japanese Economy Japanese Politics&Foreign Policy Macro Economics Micro Economics Multinational Corporations NGOs,Local Governments&Development North-South Relations Planning Science and Technology Peace-Building and Preventive Diplomacy Policy Evaluation Regional Sustainable Development Social Development Socio-Cultural Studies South Asian Studies South East Asian Studies Sustainable Governance and Policy Information
ここからわかることは、多文化共生プログラムの科目は、多文化間コミュニケーション(言語研究をベースにした学際研究領域——関連学会あ り)、草の根外交、国際政治学、文化研究、紛争研究、地域研究(日本研究を含む)からなりたっていること。英語の科目群は、他のプログラムと共通サブジェ クトに英語のタイトルだけがついている雑多なものということでしょうかね。
以下、一部再掲。
【グローバル・ガバナンスプログラム】
環境経済論研究 経済統合論研究 現代民主主義研究 グローバリゼーションとジェンダー研究 コーポレート・ガバナンス研究 国際環境法研究 国際機関研究 国際機構論研究 国際金融論特講 国際経済法研究 国際貿易投資論研究 先進国政治論研究 地域統合論研究 南北関係論研究 比較政治論研究 平和構築と予防外交研究
【国際協力開発プログラム】
NGO・自治体外交研究 開発政策論研究 環境経済論研究 現代平和論研究 コーポレート・ガバナンス研究 国際機関研究 国際協力政策研究 国際金融論特講 国際経済法研究 国際貿易投資論研究 社会開発論研究 地域開発研究 途上国政治論研究 南北関係論研究 日本経済研究 比較政治論研究 平和構築と予防外交研究 マイグレーション研究
【多文化共生プログラム】
異文化間コミュニケーション論特講 NGO・自治体外交研究 現代民主主義研究 グローバリゼーションとジェンダー研究 グローバリゼーションと宗教研究 グローバリゼーションと地域文化研究 国際機関研究 国際言語文化研究 人権論研究 先進国政治論研究 比較社会史研究 文化人類学研究 民族と文化研究 民族紛争の法研究 メディアと国際社会研究 日本論
【Global Cooperation Program 】英語授業の共通科目?
African Studies Asia-Pacific Relations Cross-Cultural Communication Development Economics Development Strategies East Asian Studies Environmental Economics and Policy Globalization and Gender History of Global Governance International Law of Peace International Organizations International Political Economy International Relations Japan and the West Japanese Economy Japanese Politics&Foreign Policy Macro Economics Micro Economics Multinational Corporations NGOs,Local Governments&Development North-South Relations Planning Science and Technology Peace-Building and Preventive Diplomacy Policy Evaluation Regional Sustainable Development Social Development Socio-Cultural Studies South Asian Studies South East Asian Studies Sustainable Governance and Policy Information
お次の分析対象は……
甲南女子大学多文化コミュニケーション学科(多文化共生学科) http://www.multiculturalworld.org/tabunka/index.html
多文化共生の定義は次のとおり。「世界がグローバル化するということは、世界が「多文化社会」になっていくということです。こうした多文化社 会において人々が、さまざまな摩擦を克服して、 共に暮らしていくことを「多文化共生」といいます」(出典: www.multiculturalworld.org/tabunka/contents/what_symb.html)。
ここでは、多文化状況になることはオートマチックに「摩擦」を生むという前提があるようだ。コンフリクトの人文学が研究費をもらっている口実 と同じように問題が起きる(起きている)から研究や教育が必要だという主張。そして危機管理能力としての〈多文化共生力〉の育む必要性があるというのが、 このトーンである。しかし、実践的動機としてはなかなか悪くないし、こういう言挙げは不可欠だ——大切なことは実践的動機のなかに不問にされた潜在的な前 提があることを自覚していることである。
さて肝心のカリキュラムだが、なんか開国前の日本人向けというべきか、次のような受講の動機付けの仮想的文言にびっくり!「パック旅行ではわ からない本当の海外。見てみたい。寮のおばちゃんにしかられたり、子供たちと星を見上げたり、 まるでそこにすんでいるみたいな体験がしたい!」(出典: www.multiculturalworld.org/tabunka/contents/courseitem.html)。しかし、このようなトホ ホでも、まだなにがしかの実践的動機があることは評価したい。
しかし当該の文言が載っているカリキュラムをみると語学文化教育に以下のような「多文化行動科目」がついているだけのしろものである。だがカ リキュラム科目の名称は注目に値する。
(出典:同上)
この「行動科目」は先の立命館の雑多な既存科目の羅列よりも、多少なりとも学際化への離陸を試みようとしていることが科目名から推測される (ただし教育の中身がどのようなものであるのかは、ウェブページからは不詳である)。
ポータルのニュースの欄には「途上国の水不足問題に取り組んでいる学生プロジェクトグループ「ウォータープラネット」が多文化コミュニケー ション学科コモンルームで資金集めの白玉あずきを販売し、1時間で完売しました」(出典: www.multiculturalworld.org/tabunka/index.html)とあるのは、ほほえましいが、天下の?大学教育のサイト で完売実績報告とは、ちょっと情けなくなる(ホントはメンバーの紐帯の志気を高め、新入生を確保するための宣伝文句として誠実な報告なのだろうが……)。 私(=評者)は、保守的で時代遅れのアナクロニストなのだろうか?
総括
● 多文化共生はじめの一歩(池田光穂)