マヤ人の病気観と動物
Cosmovicion Maya sobre las enfermedades y los animales
グアテマラ農耕民マム社会:「マ ムと動物世界」
エピグラム:「私たちはカテゴリーにもとづいて世界 を秩序づけているが、カテゴリーを自明のものとして信じて疑わないのは、それらがただあたえられてあ るからにすぎない。カテゴリーは私たちの思考に先立って存在するひとつの認識論的場を占めているから、おどろくほど強固である。しかしながら、経験を組織 する異質な方法にぶつかると、私たちは手持ちのカテゴリーのもろさを感じ、すべてが瓦解しそうになる」ロバート・ダーントン[1984]『猫の大虐殺』海 保真夫・鷲見洋一訳、p.243、岩波書店、1986年。
■家畜とは
-家畜の定義(1):
「家畜とは、なにか現実的な、あるいは理念的な利用のために、人間社会によって規則的にその保護の下に飼われている動物である」 (p.392)(エミール・ヴェルト『農業文化の起源:堀棒と鍬と犁』藪内芳彦・飯沼二郎訳、岩波書店。
-家畜の定義(2):
「家畜(domestic animal )とは「人間が利用するために野生動物から遺伝的に改良した動物」である。野生動物を捕らえて飼育し、人間の管理下で繁殖させ、長い年月をかけてその有用 性を高める方向に選択して育種し、野生の祖先種とは明らかに区別しうる遺伝的な特徴を備えるに至ったものが家畜である」(p.11)(正田陽一『家畜とい う動物たち』中央公論社、1983年)。
■新大陸の家畜
-「この地方[アメリカ大陸——引用者]は、その本来的な作物の種類が、大部分、アメリカ原産であるから、きわめて孤立的である。家畜の種 類も乏しい。犬、リャマ、アルパカ、テンジクネズミ、七面鳥、ジャコウガモで、ほとんどすべてである。これらの動物は(犬を除いて)、すべてアメリカ原産 である」(p.43)(エミール・ヴェルト『農業文化の起源:堀棒と鍬と犁』藪内芳彦・飯沼二郎訳、岩波書店。
-「古代アメリカ人の家畜の種類は、旧世界の鍬農耕地帯のそれよりも豊富である。しかし、その分布は、旧世界におけるほど一般的ではない。 農耕インディアンのもとに、シェンシ種の形で広く分布している犬を除けば、たとえ、旧世界におけるほど決して一般的ではないとしても、家畜はほとんどただ 「高度文化」に限られている。古代メキシコには、テワンテペク地峡のところまで七面鳥 Meleagris gallopavo とその亜種、/あるいは家畜七面鳥の原種とみなされるメレアグリス・メキシカーナ M. mexicana がいた(七面鳥は1524年にヨーロッパにもたらされた)。メキシコの原産地域以外では、プエブロ・インディアンのところにも、また、われわれは七面鳥を 見出す。さらに、メキシコには(コロンビアまで)、馴化されたカモ Cairina moschata がいて、ときどき羽根がもがれ、ディアス[訂正済]時代には重要な交易品として叙述されている(ラッツェル、第1巻、454頁)。
「古代メキシコ人は、すでにエンジュ虫と蜜蜂を馴化していた」(前掲書)。エンジュ虫 Cocus cacti は、本来、メキシコでウチワサボテン(Opuntia vulgaris, O. coccinellifera など)に寄生していたものだが、後には、他の地方、すなわちスペインやカナリア諸島に移され、1526年以来、ヨーロッパで染料として知られている。蜜蜂 についてはおそらく、ただ、アメリカの刺針のないメリポナ属 Melipona だけが問題となるにすぎない。古代ペルーでは、犬と同じく、はじめ食用として飼われていたテンジクネズミ(原種は、そこを原産とするカヴィア・クリテリ Cavia culteri)とともに(ラッツェル、第1巻、453頁)、原アメリカの最も重要な2つの家畜、リャマとアルパカにわれわれは出あう。南アメリカには、 野獣として2つの原始的なラクダ属の反芻亜属であるヴィクニャ Lana vicugna とグァナコ L. huanacus がいる。これから、家畜アルパカ Lana pacos とリャマ Lana glama が生じたが、その利用の範囲は、野獣の分布の限界にまで達していない。リャマは、ペルーとボリビア[訂正済]に限られており、アルパカはだいたい南緯 10〜20度の地域で、2400メートル以上の高地に住んでいる。アルパカもリャマも、ともに肉と毛が利用される。アルパカよりも大きいリャマは、そのほ か駄畜 Lasttier としても用いられる(そして、いわれているように、たしかに男性的な動物である)。だが、リャマはただ比較的軽い荷を運ぶだけである」(pp.61- 62)(エミール・ヴェルト『農業文化の起源:堀棒と鍬と犁』藪内芳彦・飯沼二郎訳、岩波書店。
■新大陸の農作物
-「インディアンの鍬農耕地域はチロエ島[南アメリカ南部西海岸——引用者]とアラウカン族の地域に達し、北はアメリカ合衆国の西南(プエ ブロ)から、大きく彎曲してメキシコ湾沿岸の後背地を含み、さらにアパラチア山脈を越えてニューイングランド諸州に達し、そこで、スペイン人の到着当時、 なお栄えていた、考古学的に把握しうる盛土文化 Moundkultur を形成していた。サウアー[著者名]は、種子栽培者[栄養体によって栽培をおこなう者に対する概念]文化の発生地として、メキシコと中央アメリカとの境界 地域を考えているようであり、彼によれば、その地域で、カボチャ、ソラマメ、ヒユ Amaranthus、アカザ Chenopondium、ヒマワリ、トウガラシ Capsicum の野生の近縁種が、同時に一層多くの種類とともに栽培されているのを、認めることができるという」(p.51)(エミール・ヴェルト『農業文化の起源:堀 棒と鍬と犁』藪内芳彦・飯沼二郎訳、岩波書店。(→「コロンブスの交換」)
こちらはアステカの図像
■羊(ひつじ・ヒツジ)の種類
-「ヒツジの学名としては一般にオヴィス・アリエス(Ovis aries, Linnaeus 1758)が使われている。そして現存する祖先種として、ムフロン羊(Ovis musimon, Pallas 1811)、ウリアル羊(Ovis orientalis, Gmelin 1774)、アルガリ羊(Ovis ammon, Linnaeus 1758)の3種が野生しており、これらがそれぞれ交雑して各地の家畜羊が成立しているとされている」(p.12)(正田陽一『家畜という動物たち』中央 公論社、1983年)。
■サラマンカの牧夫の話
-正田陽一(1983:44)がスペインのサラマンカ地方を旅行中に牧夫から聞いた話に「ヒツジは群居性の強い動物で、必ずリーダーの後に 従って一群となって行動する。その群にヤギを一頭入れておくと、活溌なヤギが群れのリーダーになる。だからそのヤギをを人間がリードすれば、どんな大きな 群れでも1人で思うがままに動かせるのだ」(p.44)(正田陽一『家畜という動物たち』中央公論社、1983年)
1 |
|
2 |
|
3 |
|
4 |
|
5 |
|
6 |
|
7 |
|
8 |
|
9 |
|
10 |
|
11 |
|
12 |
|
13 |
|
14 |
|
15 |
|
16 |
|
17 |
|
18 |
|
19 |
|
20 |
|
21 |
|
22 |
|
23 |
|
24 |
|
25 |
|
26 |
|
27 |
|
28 |
|
29 |
|
30 |
|
31 |
|
32 |
|
33 |
|
34 |
|
35 |
|
36 |
|
37 |
1.
2.
◎W・マクニール・テーゼ(1976)
(1)従来の病原菌による「ミクロ寄生」に加えて、政治・経済・軍隊などの社会システムによる「マクロ寄生」の概念を考案し、人間の病気に なる社会的条件について指摘したこと。
(2)人間の伝染病の起源を、人獣感染症とする学説をもとに、中間宿主を省略できる農耕による集住化であるとしたこと。
(3)旧大陸人間の疾病に対する抵抗性をユーラシア大陸循環という観点から説明し、(北米・中米・太平洋島嶼地域など)疾病処女地における 開拓初期における高い死亡率を説明できたこと。
◎A・クロスビー・テーゼ(1972, 1986)
(1)コロンブスの交換(Columbian exchange)の用語のもとに、作物、動物、疾病の旧大陸と新大陸の循環と、それが世界の人々にもたらした影響について生態学的要素のグローバリゼー ションについて提唱した。
(2)非ヨーロッパ地域の植民地の環境改変の結果を新ヨーロッパ(Neo-Europe)と呼ぶことで、ヨーロッパ人が行使する権力の作用 がもたらした環境変化について論じた。
◎J・ダイアモンド・テーゼ(1997)
(1)フリードリヒ・ラッツェル(1844-1904)以来の地理的環境決定論の刷新理論で、栽培植物の誕生、家畜の選択、経度よりも緯度 による伝播効率の優先性、人類の技術革新などを組み合わせて総合的に説明したこと。
(2)鉄と銃という文明衝突時における技術的要因の他に、環境と関係の深い地方病(endemic)を潜在的だが強力な武器として考えた。
3.
4.
5.
6.
● マムと動物世 界