問題をあぶり出す方法:在日外国人を課題にして
On Methodology of Promblem-Finding: "GAIJIN" in multi-ethnic Japan
問題 (註1):
在日外国人(註2)あるいは滞在外国人(3)(短期長期を問わず)について、日本社会(註4)はどのような「問題(註5)」を抱
えているでしょうか? 時間内に考えられうるすべての問題についてまず書き出してから、その後で、その重要度、緊急度に応じて配列してください。また、そ れらの個々の問題は、他の問題とどのように結びついているでしょうか、各グループで検討してください。 |
【註】
(1)設問は簡単ですが、答えは多様だと思います。問題点をある程度網羅的に挙げた時点で、その次のステップとして、問題群としてグループ 化することも必要かもしれません。
(2)平成19年末の在留資格者人口は約219万人、外国人入国者は約915万人(ウェブページ:総務省→白書・統計→出入国管理)。
(3)外国人の受け入れについて議論する際にその国民やコミュニティあるいは国家をホストと呼び、外国人をゲストと呼ぶことがあります。
(4)ホスト。ここでいう日本社会とは、市民から、地域コミュニティ、地方自治体、国家までの範囲のすべてを含みます。
(5)ここでいう「問題」の定義は、何らかの形で改善・改良・改革という対策が求められているものをさします。
===
教科書
「人種と階級差別」(Pp.86-96)
「病院代が払えずに死んだ外国人労働者」(p.123)
韓敬九・桑山敬己編『グローバル化時代をいかに生きるか:国際理解のためのレッスン』平凡社、2008年[→章別構成]
===
問題(→教科書 p.96を参考のこと)
1.生物学的人種と社会的人種は違うと言います。それらの違いを明確にしながら、それぞれの「人種概念」を定義してください。 2.共存のための「寛容」の精神をもつことが、差別を解消にすることにつながると言われる。なぜ、寛容の精神が、差別の解消につな がるのか、あなたの考えを述べなさい。 3.「差別は文化的に学習され社会化される」といいます。あなた自身がもつ、差別経験について、あなたの人生のどのような局面で、 どのようにして社会化されたのでしょうか。個人の経験から得られたことについて、「文化的、学習、社会化」などの概念的抽象化に使われる単語を使って、説 明することができるでしょうか? 4.差別することが当たり前という社会的態度を取ることを、その態度の不当性について気づかない状態、または「差別の態度が自然化 された」などと言います。このように自分の思想・信条が自然化する思想や信条を、政治学や社会哲学ではどのように名づけてきたでしょうか? |
===
◎ふりかえりの考察(想定された課題)
・ひとりで考えるより、みんなで考えるほうが多面的・多角的。
・でもメンバーの成員がもつ、文化的・社会的・歴史的な境界・限界・偏った見方(=レンズ)はある。
・にも関わらず、私たちの目的は完璧な問題析出と改善案を出すことが最終的なものではない。その目的は議論を通してそれらの限界に気づき、 それらを軽減しつつ、問題点の析出と、その解決に一歩を踏み出すことだ。
・そのためにはグループでのワークにおいて合意(コンセンサス)を出すには、知識や認識の共有が不可欠である。
・各人が行うこと・言うことに責任をもつことで、コンセンサスの持続性は担保(保証)される。
・これらの確認には多少時間がかかるが、各人の自由度を保証し(=責任を持たせることのもうひとつの側面)、他の人たちが別の人たちに対し て強制力を発動させることを最小限に抑えるという効用もある。
・問題を析出することは、その問題を解こうとする実践(=情報探索や解決への夢想あるいは具体的な行動の発動)を生み出しているようだ(→ 「問題にもとづく学習(PBL)」)。
▽ふりかえりの考察(想定外の課題:皆さんで埋めてください)
・
・
・
◆「氷山の一角セオリー」について
たとえば、私は「医療通訳」について関心がある。なぜだろう?
[自己反省的推論]
第三世界の保健や医療の現場について私は知っている。また珍しい言語を話すことができる。日本にもその言語を話す留学生や結婚により在留 している人たちがいることを知っている。その人たちのお役に立ちたい。でも他方で、お役に立つためには、その言葉をもっと勉強する必要がある。また臨床現 場で使う医学用語について、私は十分知っているだろうか。現地の医療状況と日本の医療状況は違う。でも彼らは日本で生活をしている。まてよ、彼らは国民健 康保険などの医療を保障する保険に入っているだろうか。手術を受けるときに、本人以外の誰の同意が必要だろうか。インフォームドコンセント(説明を受けた 上で自分で決める納得同意)については大丈夫? ひょっとしたら、よい医療通訳になるためには、語学的能力だけでなく、臨床コミュニケーションについても 勉強したほうがいいかしら。日本に家族があまりいない「外人」(ガイジン)の患者は不安も大きいだろう。日本人と結婚したガイジンの花嫁の自殺率が高いと 聞いたけど。そういう精神的なケアって、いったい誰がどのようにしておこなっているのだろう。でも何もなく、不幸な結果になるのなら、これって社会問題で は? そういえば、Aさんは「ガイジン」って言われることをいやがっていたな。日本国籍を取得したのに。でも日本は二重国籍を認めないのでしょう? 日系 人の人たちは、特別在留資格を認められているし、親や祖父母が日本人なのに、どうしてブラジル人=ガイジン扱いされるのだろう。ブラジル人は何語を話すん だっけ?。ブラジル語?そうだポルトガル語。でもブラジルのポルトガル語と本国のポルトガル語は違うよね。どうしてブラジルはポルトガル語?。それはとも かく日系ブラジル人には医療通訳が必要じゃない?。いや医療者はポルトガル語を学ぶべきじゃない? でも、医療者は忙しいし、無理かな。その通訳は病院が サポートすべきでしょう。それとも自治体? それだけじゃなかった……えっと……
[解説]
と、まぁ、「日本社会における医療通訳の課題」に関してさまざまなテーマを私(あるいは、みなさん)は析出することができます。
私たちは、社会の問題を考えるときに「そんなのは政府がきちんとすべきだ」としばしば腹を立てたり、義憤に駆られることがありますが、政 府のいったい誰がどのように対応すべきでしょうか。また、それを実行させるための命令、法的根拠、財源、あるいはその施策のチェック(監査)などを回して いかねばなりません。このようなことは、グローバル共生に関する、いっけん単純そうな問題をとりあげても、網の目のように複雑に絡み合い、また、テーマの 下に大きく伏在しているのです。
このようななりたちから得られる教訓を、私たちは「氷山の一角セオリー」と呼んでおきましょう。
「氷山の一角セオリー」という標語にすることにどのような効用があるでしょうか? まず(1)問題解決についてそれがしばしば(想定以上 の)長い射程にある見込みであると考え、ゆっくりと落ち着いて考える必要性を喚起します。また同時に、(2)深い領域つまり重要だが深いところにあるの で、なかなか実態がつかみにくい、あるいは直接ではなく間接情報に頼らなければならないものと、中ぐらいの深度、あるいは浅いところにあって、自分ですぐ に調べられる、調べなければならないものなどの区別や見通しをつけることができます。
私たちは、この「氷山の一角セオリー」をさまざまな問題について適用することで、具体的にどのように取り組むのかについて、ある程度を見 通しをもって考えることができます。
[次のステップ]
では、そのような単語や短い文章の束をどのように整理すればよいでしょうか? たとえばKJ法ケー・ジェイ・ほう)や意味論ネットワーク分 析などの手法があります。
KJ法(ケー・ジェイ・ほう)
(1)一枚のカードにテーマを要約し、単純な命題やキーワードを書き、それらのカードが出尽くした点で、カード間の類似点や相違点をみ つけ複数のカードからなるグループ化をおこなう。(3)グループにそれぞれ命名し、グループ間の関係について考察する。(4)そこから導き出される関係に ついて、別の用紙に図式化する。その際には、カードという要素がその図式のなかでどこに位置し、どの程度占めるか(重要度や時間や論理的推移など)につい て考察する。(5)図式化と平行に、あるいは独立して、グループ間の関係や、グループ内部での関係について文章を書き、議論を叙述化する。(文献:川喜田 二郎『発想法』中公新書、中央公論社、1967年)
意味論ネットワーク
「ある特定の単語からの連想語や、一連の会話のなかにおける単語や動詞、目的語などのつながりには、ゆるやかに関連性のつよいものから 関連 性の全くないものがある。これらの関連性をある尺度(例:頻度)や基準(統語の中で論理的繋がり)によってグループ化し、ネットワーク上の配列できる意味 の関連図 が意味論ネットワークあるいは意味ネットワークである」(→「意味論ネットワーク)。
グローバル共生社会論(大阪大学大学院コミュニケーションデザイン科目 2009)
CAIM OFFRAT CO[N] ABEL SACRIFICIUM REPROBATUR, Cain and Abel, Reprobatur, The Palatine Chapel, Palermo, Sicily, 12th century
グローバル共生社会論02 担当:池田光穂(メールアドレス) April 20, 2009
(c) Mitzub'ixi Quq Chi'j. Copyright 2009-2011