患者サイボーグ宣言
Patient as Cyborg Manifest, Patient-Cyborg Manifast
サイボーグ(cyborg)は、サイバネティック・オーガニズム (Cybernetic Organism)の略で、人工臓器等の人工物を身体に埋め込む等、身体の機能 を電子機器をはじめとした人工物に代替させることで、身体機能の補助や強化を行った人間のこと(Wiki in Japanese)です。
サイバネティックとは、サイネティクスという学問の形容詞です。サイバネティクスとは、自動制御学(SF的に電脳工学と訳される場合もある)と もいい、通信工学と制御工学を融合し、生理学、機械工学、システム工学を統一的に扱うことを意図して作られた 学問だと言います。その語源はギリシャ語で「(船の)舵を取る者」を意味するキベルネテスか ら来ています(by Wiki Japanese)。
人間が機械あるいは物質と一体になる必要性とは、それにより生命維持、生活の質の向上、さらには生命の伸張や増強(エンハンスメント)を可能に したいという人間の欲望から来ています。人間を機械として理解すること(それをソフトマシーンと表現しますが、これは売春婦・売春夫の隠喩的表現でもあり ます)は可能ですが、完全な機械になることはできません。人間の定義は、あくまでもソフトな身体をもつ生物種だからです。
人間の生活は、機械に取り込まれています。それを人間環境としての機械(machine as human environment)であるとみなすと、サイボーグはより身体に組み込まれた機械と人間という意味あいが強いものになります(machine build-in human body)。もちろん、先の生命維持、生活の質の向上、生命の伸展や増強という、夢を実現させるために、これらの間の関係の中に区分をつけることは難しく なってきました。しかし、体外にあった人工臓器が体内に組み込まれることが理想とされるのは、ユニットとして人間の身体の中に組み込む、あるいは身体と機 械の継ぎ目のない一体感(idealized seamless human-machine)が理想化されているからです。
つまり機械を身体のなかに組み込むというプロセスは、最終的に古典的な人間の身体イメージに回帰することを意味しています。このことを真っ向か ら対峙するのは、ネットワークのなかに自分の思考とアイデンティティを解放することですが、これは(身体抜きの)サイボーグ思考は可能かという新たな問題 を提起するので、ここではこれ以上踏み込みません。
宣言(マニフェストあるいは行為遂行)的要素をもつ先行研究としては、川口有美子「人工呼吸器の人間的な利用」(『現代思想』32(14): 57-77, 2004)およびそれをブレインマシンインターフェイス問題に展開させた同じ著者による「ブレインマシンの人間的な利用:接続と継続に関する政治経済」 (『現代思想』36(7):98-111, 2008)がある。
近年の日本人による議論のなかで、堂々と患者=サイボーグであると論じているのは山海嘉之(Sankai Yoshiyuki)と松原洋子(Matsubara Yoko)による対談集「サイボーグ患者宣言」(『現代思想』2008年3月号 36(3):48-67, 2008)ですが、読者にとって不幸なことに(ということはここでの提唱者である私=池田にとっては有り難いことに)、患者がどのような意味でサイボーグ であり、またそのような概念で何を宣言したのかについて記載されていないので——「宣言」は法的あるいは政治的な綱領などを提唱する時の言説行使の形式で すのでもともと対談のタイトルにはなじまず、たぶん編集者の思いつきで意味もなく命名されたようです、残念でした!——、私がサイボーグカフェ(サイボー グ・ドット・コム)で宣言した綱領から敷衍した患者=サイボーグ宣言なるものを開陳しておきます。
患者サイボーグ宣言(採択済) 生命活動を遂行する際に生じるさまざまな苦しみ(patience)を克服するために、本人じしんと援助者との協働作業により 本人の身体の内外に人工物を装着することにより、生命維持、生活の質の向上、さらには生命の伸張や増強(エンハンスメント)を可能にする人間の存在様式を 賞揚し、人間に加えられるあらゆるタイプの苦痛や不幸と闘うのみならず、人間の可能性を伸展する可能態と(比喩的な意味において)対話し、交渉、共存、克 服、解消などを通して、人間と人工物の存在様式を継続する人間の権利を保障するために闘うことを私たちサイボーグ=人間の永課題とすることを、ここに宣言 する。 サイボーグ2年(西暦2010年/平成22年)1月11日(→サ イボーグカフェ(札幌編)) |
今後、先の先駆的な研究に敬意を表しつつ、それぞれの論文および対談などについて検討を加えてゆく予定である
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