ある組織での研究費の不正使用事例に対する組織の対応
Organization's response to a case of misuse of research funds at one organization
この資料はある組織での研究費の不正使用事例に対する組織の対応の事例(組織文書=公開)のものである。研究倫理2011の授業資料でもある。 (ある組織とは具体的に、大阪大学のことである。)
この組織は、不正使用の事案を検討、検証し、かつ、それが再発しないような、組織での必要かつ最小限の対応について触れており、本授業「研究倫理2011」にも重要なので、ここで公開する。
このような組織的対応の根拠は、研究機関における(実施基準)(平成19年2月15日 文部科学大臣決定)[資料にリンクします]など法令や通達にもとづくものである。なお、この文書を読む人は、まず次の3つの教訓にまつわるテーゼ (命題)を読んでほしい。
【教訓】
(1)組織というものは、たいてい悪い組織である。
(2)よい組織というのは、探究すべきものである。あるいは探究すべき価値があるものである。
(3)したがって「よい」ということが、我々がまず明確に定義しないと、よい組織構成や腐敗の排除プログラムというものははじまらない。
2017年における私の点検チェックの誤りとその解説
21問中19問正解。2問に回答に失敗しました。
【問題】< 7.科研費の研究分担者が分担金を使用しないこととなった場合、研究組織の研究分担者から外す手続きを事前に行う必要がある。 >
【正解】○
【解説】交付申請書において研究分担者として記載されていたものが、研究計画等の変更により分担金を使用しないこととなった場合には、「補助事 業者(研究分担者)変更承認申請書」(様式C-9、CK-9、F-9又はZ-9)により研究組織の研究分担者から外す手続きを行う必要があります。
【問題】< 12.一日における同一業者への発注合計金額が50万円未満の範囲内であれば、教職員は誰でも発注することができる。 >
【正解】×
【解説】部局長等(予算責任者)から予算の執行についての権限を委任されている教職員しか発注できません。発注できるものの詳細については、「公的研究費使用ハンドブック」の8〜9ページにも掲載されていますので、ご確認ください。
研究費の不正使用に係る再発防止策について(各部局等長宛の総長名文書:2011[平成23]年4月26日付 文書番号:なし )
本学においては、これまで「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(平成19年2月15日文部科学大臣決定)」に基づき、 研究費の適正な執行について、研究費の管理・運営体制や関係制度の整備、教職員の行動規範の策定等様々な取組みを推進してきましたが、それにもかかわら ず、今回、研究費の不正使用が行われ、本学が社会の信頼を大きく損なったことは、誠に遺憾であります。本学としては、二度とこのような事態を引き起こさな いという決意の下、研究費の不正使用を誘発する要因を除去し、抑止機能を有する環境・体制の更なる構築を図るという方針に基づき、別紙1のとおり再発防止 策を取りまとめました。
つきましては、本再発防止策の実施について、貴部局構成員に対し周知徹底していただくようよろしくお願いします。
なお、今回の事態が発生した要因を別紙2のとおり整理しましたので、再発防止策と併せてご承知おきください。
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編者註:※マル囲みの数字は片括弧、1),2)……としました。
別 紙 1
研究費の不正使用に係る再発防止策
1 教職員の研究費使用に関する意識改革の徹底
1) 今回の事案を踏まえた再発防止のためのリーフレットを作成し、全教職員、TA、RA等本学構成員全員に配布する。
2) 全教職員から研究費の不正使用を行わない旨の誓約書を提出させる。
3) 今後、研究費の不正使用を行った場合は、氏名を公表することを基本とし、厳しい処分 を行う。
4) 教員を対象とした研修会への参加を義務付ける。
5) 特任教員、特任研究員及び事務補佐員を含め、新規採用時における事務部からの研究費 の不正使用防止、給与の一部戻し、内部通報制度の積極的活用、労働条件等に係る説明を 徹底する。
6) 新規採用者(特任教員及び特任研究員を含む。)を対象とし研究費の不正使用防止、給 与の一部戻し、内部通報制度の積極的活用などについて研修会を実施する。
7) 研究室の非常勤職員を対象に、研究費の不正使用防止、給与の一部戻し、内部通報制度 の積極的活用などについて説明会を実施する。
8) 教員を対象とした研究費の取扱いに関する理解度チェックを実施する。
9) ガイドラインや規程等の遵守及び周知を徹底する。
2 不正使用防止に係る制度の見直し
(1) 出張手続き
1) 研究費による出張について、出張報告書及び旅行の事実を証明するものの提出を義務化 する。【平成22年9月15日付け理事通知参照】
2)旅行の事実を証明するものとして例外的に認めていたコンビニ等の領収書について、今 後は一切認めないこととする。【平成22年9月15日付け理事通知参照】
3) 出張報告書に宿泊先及び用務先の記載を義務化し、追跡や確認ができるようにする。 【平成22年9月15日付け理事通知参照】
4) 他機関との旅費の二重払いの防止については、旅費システムの申請画面に「他機関から 経費が出ていない」ことを確認する確認項目を設ける。 【平成22年9月15日付け理事通知参照】
5) 外国出張に係る旅行事実の確認を強化するとともに、事後において地域別に出張旅費を 一覧にし、疑義のあるものについては、旅行会社に直接事務部より連絡し、適正な旅費の 支出か否かの確認を行う。
(2) 物品調達手続き
1) 教員が発注する全ての購入物品について、事務部門により納品事実の確認を行う。 【平成22年9月15日付け理事通知参照】
2) 事務部門による納品確認の際に疑義が生じた物品については、発注者に購入目的の確認 等を行うことを一層徹底する。
3) 取得価格が10万円未満のパソコンについて、大学の所有物であることを明瞭にするため、 別途作成したラベルを当該物品に貼付する。【平成22年9月15日付け理事通知参照】
4) 支払い手続きを行う際に行っていたチェックについても、資金の目的に沿った使用であ ることを確認するよう一層徹底する。
(3) 勤務時間管理
1) 勤務時間管理を再徹底する。【平成22年9月15日付け理事通知参照】
2) 管理監督者は、日常的又は不定期の調査等により、勤務時間管理が適正に行われている ことについて実証する。【平成22年9月15日付け理事通知参照】
3)管理監督者の補助者が長期不在となる場合は、予め当該補助者を一時的に補佐する者を 指定する。【平成22年9月15日付け理事通知参照】
(4) タクシーの利用
1) タクシーを利用することが効率的と認められる場合や緊急な用務等に該当する場合等、 タクシー利用に関する明確な基準を策定する。
2) タクシーチケットの管理方法について、管理簿においてタクシー利用の妥当性を確認す るなどにより厳格化を図る。
3 再発防止のための組織体制の強化
1) 監査室の体制を強化し、通常監査及び特別監査の対象数を拡大させるとともに、書面監 査に加えて教員、旅費受給者、秘書等に対するヒアリングに重点を置いた監査を実施する。
2) 今回の研究費の不正使用に対する防止策を踏まえて、従来の抽出方法に加えて、獲得件 数の多い研究者、獲得金額・獲得件数の多い研究室、消耗品や旅費の執行比率が高い研究 課題など、多視点からの監査を実施する。
3) 抜き打ち監査を実施する。
4 その他
1) 新規採用者(特任教員、特任研究員及び非常勤職員を含む)を対象とした説明会等を実 施し、雇用は研究室ではなく、あくまで大学による雇用であることを周知する。
2) 本学と取引のある業者に対して、研究費の不正使用に協力しないことや架空伝票の作成 等の依頼があった場合は直ちに本学に通報することを要請する。
3) 大学の債務額を適正に把握するため、毎年度、50社程度を対象に取引業者の債権額との 突合を行う。
4)今回の事案を踏まえた再発防止のためのリーフレットを作成し、取引業者に配布する。
5) 内部通報制度を一層有効なものとするため、ポスター等を作成・配付し、通報者の保護 及び通報窓口や相談窓口について周知徹底を図る。
別 紙 2
今回の事態が発生した要因
○ 当該教員の研究費の使用に関する意識
・ 私的流用を行っており、研究費が税金によって賄われていることに対する著しい意識の欠 如があった。
・ 当該教員は、研究室の講座で保管される金銭は、予算の使途からは形式的には外れるとこ ろはあるものの、研究室の教育研究活動を一段と活発に行うためのものであると釈明してお り、カラ出張等不正な会計処理であっても結果的に研究のために使用していれば許されると いう認識の甘さがあった。
・ 年度内に研究費を使い切らねばならないという意識があり、それが預け金やカラ出張を行 った一因となっている。
・ 研究費の不正使用を行った場合どのような処分を受けるかについて理解していないなど、研 究費の使用に当たってのルールの認識不足があった。
・ 教授以外の研究室構成員は、研究室責任者が研究費の不正を行っていても、それが結果的 に研究のために使用していれば許されるという意識の甘さがあり、一方で、上司の意でもあ り逆らえない状況にあったことから、不正窓口に対して通報できなかった。
○ 研究費の使用に関する関係制度
【出張手続き】
・ 出張について、旅行の事実の確認を行う方法として、従来は、乗車日が確認できる特急券 又は航空券の半券等の提出が困難な場合は、旅行先でのコンビニ等の利用の際に発行される 領収書でも可としていたところであるが、その例外措置を悪用された。
・ 旅費支給の際に、本学以外から旅費の一部又は全部が支給されていないかの確認が行われ ていなかった。
・ 外国出張について、出張伺いに記載された大学や研究機関等を訪問していない場合が見ら れたが、当時、旅行の事実の確認が十分なされていなかった。また、海外出張旅費の支払い の根拠となる旅行会社発行の航空運賃の領収書について、家族の旅費が含まれた領収書が提 出されたが、チェックができていなかった。
【物品調達手続き】
・ 物品の調達について、10万円未満の物品については消耗品として事務部による納品事実の 確認を行っていない取扱を悪用し、研究上使用するものではあるが学外でも自由に使用した いという観点から、実際はパソコン等を業者から購入していながら、消耗品を購入したよう に書類を業者に作成させ、そのパソコンの代金を支払っていた。
・ 支払手続きにおいて、購入物品が当該財源の使途目的に沿ったものであるかの確認が十分 でなかった。
【勤務時間管理】
・ 当該研究室における特任研究員の勤務時間管理が厳密に行われていなかった。
【タクシー利用】
・ タクシー利用に関する大まかな基準しか存在しなかったことから、タクシーの利用が可能 な場合について、当該教員の理解が不十分であった。
・ 出張中におけるタクシー利用についての突合がなされていなかった。
○ 内部監査
・ 研究費に係る監査対象数が文部科学省が示す基準は満たしていたが、抽出方法として、外 部資金の獲得額の多い研究者に係る研究課題又は12月時点で執行残額が多い研究課題(70% 以上の残額がある課題)を重点的に対象とし、その他は任意に抽出としていたが、当該研究 室の研究課題は重点的な対象には該当せず、任意抽出の監査の対象からも外れていた。
○ その他
・ 当該研究室の特任研究員、事務補佐員及び技術補佐員は、雇用された際研究室から示され た給与の額と実際に大学から支払われた給与の額の差額を研究室に戻していたが、これら非 常勤職員は大学ではなく研究室に雇用されているという意識を有しており、その意識が給与 の戻しを行った一因となっていた。
・ 物品の調達に関する研究費の不正使用の防止について、取引業者に対するルールが曖昧で あったこと、また、研究費の不正使用に対する働きかけが不十分であった。
・ 法人化後の事務量の増加で多忙化が進み、事務部門による入念なチェックが困難になって いた。
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