専門分野の知識とクライアント分析能力と行動予測
これらの三者間をどのように考えるのか?
臨床コミュニケーション 2012年 2012年4月17日
担当:池田光穂(tiocaima7n【at】mac.com (【at】を@に変えて))・TA:
グループワークのやり方(→ワークショップ技法)
マイナス・ワン:本日は、予備知識やエクストラの情報なしで、いきなりグループ討論するトレーニングを主眼にします(=薬学・薬剤師コミュ ニケーション技法)。議論の内容よりも、メンバーが自由に意見が言える雰囲気にするには、それぞれの各参加者自身がどのようなことを試みればいいのかにつ いて気づくようになれば、今日の授業は成功であると判定します。
0.グループ学習は、一種の会話ゲームですので、なるべくこれまで話したことのない人ととお話するほうが学習効果があると言われています。 毎回グループ編成を変えますので、より好みなどせず、大人らしく振る舞いましょう。
1.同級生どうし顔見知りだとは思いますが、なるべく研究室の同僚や近しい友人でない人とペアをつくりましょう。ジェンダーバランスを考え て(少数派になる)男性は異性の方とのペアをつくることをお勧めします。
2.できたペアの方は、お二人で相談して、自分たちの組み合わせと異なるペアを探してください。ゲームのルールとして教室の中で一番遠くに いるペアを探してください。
3.ペアが3つ集まったら、その中から1名を、教師(=本日は池田)まで派遣してください。その方のお名前をチーム名と仮に名付けて、黒板 にチーム名を書きます。
4.指定された場所に集まって、先の議論をはじめてください。ただし、次のようなことを決めてください。
5.司会者を決める(司会者も意見が言えます)。書記(兼)報告者を決める(通称:レポーター、この役割も他の人と同様に意見が言えま す)。学期のあいだに、全員が司会者と「書記(兼)報告者」の経験をしますので、率先してやったほうが後が楽です!
6.知っている人どうしで自己紹介するのは、気恥ずかしいかもしれませんが、ゲームですので、未知の人がいる時のためにも、最低限の礼儀と フォーマルさを失わないように。
7.メモ書きでかまいませんが、座席配置と各人のお名前を記載しておきましょう。また今回は、おたがいに「(名前)さん」で呼称して議論す る練習も試みましょう!
【本日の課題】
患者が薬局のカウンターで次のような質問をしています。
「こないだまでなぁ、この病院になぁ、心臓の病気で入院してたんやけどな、退院のときにな、これまで飲んでいなかったこの薬※を今1ヶ月分 も、もらってんねん。せやけど先生は、な、2 週間後にもういっかい診察に来てぇ」と言いはってん。ここに薬は4週間分とあるから、どうもなかったら、1ヶ月でええと思うねんけど、それでええやろ?」
あなたは、初めて出会ったこの患者にどのように対応しますか?
短時間の間に患者に対する対処法を考えるだけでなく、中長期的にみた時に薬局内部のみならず病院や関連する医院のスタッフとの連携の方法の 模索。入手しなければならない情報などがありましたら、それらに関して箇条書きにしたり、また、それらの間の優先順位を考えたりしてください。
※ この薬は塩酸チクロピジンの製剤で商品名は「パナルジン」と書かれています。
グループ討論の時間は約30分を予定しています。グループ討論の後に各チーム3分程度の発表会(あっと言う間で、その場の情報をまとめて報 告すればとても楽な発表です)。教師やTAは、グループへの議論に参加することもありますので、その時はメンバーに入れてください、お願いします。その (=議論)後、教師とTAのコメント、および全体での意見交換、出席レポートの提出、という授業プログラムから構成されています。
【課題を解くヒント】
・今回は、専門職や専門家の例として「薬剤師」を使いますが、専門職と素人の間における〈臨床コミュニケーション〉として考えることが重要です。
・薬局における臨床薬剤師の職務と範囲とはなにか?
・薬剤に対する基本的な知識
・薬剤の知識の伝達、とくに患者(クライアント)に不利な状況とそれに対する対処法
・医療コミュニケーターとしての薬剤師の役割
・さまざまなタイプの患者(クライアント)がいること
・医療システムの中にあり(見えない)医療チームとの連携を想像する能力と、役割分担
・(以下:メモなど)
応答編:「専門分野の知識とクライアント分析能力と行動予測をどのように考えるのか?」
1)塩酸チクロピジンに関するどのような情報を知っておく必要があったか?
→正確な情報の在りか
2)そのような情報はどのように仕入れることができるのか
→知識、コミュニケーション能力、現場力など
3)「パナルジン(R) 」の重篤な副作用には、「血栓性血小板減少性紫斑病,顆粒球減少症,重篤な肝障害など」がある。
→副作用の病態のチェック:発症率、予後、作用機序などの知識
4)副作用の時間的スケール:「これらの副作用の90%」は投与開始後の2ヶ月以内に発現する」と言われている。
→薬と付き合う患者の行動パターン:コンプライアンスが悪い人の投与の習慣を放棄するときの行動やその人の認知などにも関連するだろう。
5)副作用を発見するためにどのようなスクリーニングの基準があるのか:「2週間に一度の、血球算定や肝機能検査」など
→薬は正しく使われて「薬」になる。ファルマコン(Φαρμακον)の語源には薬、ドラッグの他に毒の意味がある。
文献:
村上元庸ほか編『新人薬剤師・研修医 薬と臨床コミュニケーション』金芳堂、2007年(資料に使ったのは高田恵による記述 Pp.51-52)
注意書き:
塩酸チクロピジン製剤およびその商品名「パナルジン(R) 」に関する説明は、授業資料作成のためにつかった情報であり、実際の薬物に関する最新で最適な正確な情報でないことがあります。この医薬品について関心が ある方は、かならず製薬会社が提供する最新で最適な情報について学んでください。この資料の作成者(池田光穂)は、この薬剤の使用に関する本資料に関する 実際の運用やその説明責任に関して一切の責任がない(=無条件な免責がある)ことを御理解ください。また、本ページ全体や情報の更新に関する助言やコメン トはtiocaima7n【at】mac.com (【at】を@に変えて)にお願いします。
さまざまな答え方集
「そうですか、お薬はもらってはるんですもんね。それなら来月に行かれてもええんとちゃいますか。でも,先生が言ってはるんやったら、やっぱり 念のため2 週間後に診察に行きはったらええのとちゃいますか」
【コメント】→2週間後の再度の診察(再診)の方針を中和化するアドバイス(=「来月に行かれてもええんとちゃいます」)は、不適切であ る。
「そうですか、それは大変でしたね。お薬はもらってはるので、その必要があるのか、こちらからたのんでみましょか? その時に、こっちから先生 に尋ねてあげましょうか?必要やったらそうしますけど」
【コメント】→2週間後の再度の診察(再診)の方針を中和化するアドバイス(=「その必要があるのか、こちらからたのんでみましょか?」) は、不適切である。
「そうですか。新しく飲みはじめるこのパナルジンというお薬は血管内で血液が固まり、血流を止めてしまう状態、つまり血栓(けっせん)を防ぐ薬 ですので、正しく飲み続ける必要があるのですよ。でも飲みはじめから2ヶ月間は副作用があるので、定期的に検査する必要があるのですよ。先生が2週間後に 来て欲しいと言ってはるのは、その安全の確認のためだと思います。お薬は1ヶ月分ですが、先生の指示どおり2週間後にはかならず受けてくださいね、お願い します」「お薬のせいで、どんなことでも調子が悪くなったりすることがあると気をつけてください。とくに、出血したり、血が止まりにくくなることがありま す。眼が充血したり、歯ぐきからの出血や、鼻詰まりや、そのために皮膚に紫色の斑ができることがありましたら、それ以外に異常がなくても早めに受診してく ださいね。お大事に」
【コメント】→薬の作用機序、副作用があらわれる期間の示唆、危険回避情報の伝達、コンプライアンスの遵守、医師の指示をまもることの意味 (認知行動的介入)、副作用に関する一般状況(とくに薬の作用機序との関連性による説明)、正確に情報を確保することによる、患者の安心の確保が最低限説 明されている。でもいつもいつも、ここまで過不足なく説明できるだろうか?
新たな問題:でもいつもいつも、ここまで過不足なく説明できるだろうか?
答えの探究へのヒント:フェイルセーフとフールプルーフの考え方を適用する。フェイルセーフとは、コミュニケーションに失敗しても、それを フォローする伝達手段があるかどうかを探究する方法である。フールプルーフとは、いわゆる猿でもわかる方法で、言葉の正確さを失わずに、だれにでもわかる ように簡略化して説明したり、イラストなどを使ったわかりやすい文書などを準備しておくという方法である。
Copyright Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2011-2012