か ならずよんでください
ティーチング・ポートフォリオ

Teaching Portfolio, 教育構成自己資料


解説:池田光穂

■大学教育におけるポートフォリオとは?

大学教育の分野では、ティーチング・ポートフォリオ (Teaching Portfolio, TP)と呼ばれる、授業の実践記録——当然この中にはシラバス内容が含まれる——と、それに関する教員の省察を加えた書類を用意し、FD (ファカルティ・ディベロップメント)に役立てようとする動きがある。ポートフォリオは、紙ばさみや書類フォルダーの意味である。教育・教授のポートフォ リオは、教育上の資料の構成・編制のことをさす。従って、ポートフォリオに適当な訳語を与えるとすると「教 育構成自己資料」というふうになるだろう。ポートフォリオが作成される理由は多岐にわたるが、(1)大学 教員のため、(2)受 講する学生や院生のため、(3)教員と学生を管理する大学当局のため、という3つの角度から理解するとわかりやすい。

(1)大学教員のため

その都度の授業についての反省や改善点を含めた授業 記録を残しておくことは、本人の今 後の授業改善に多いに資する。また、さまざまな改善をおこなった時の、主観的評価を、同僚や上司に相談する際に利用することで、迅速で効率的な改善をおこ なうことができる。

(2)受講する学生や院生のため

学生や大学院生は、自分が受けたい授業を最高で最善 なものであることを期待する(なぜ なら学習要求があるからである)。あるいは、自分の学習に関する熟度や知識レベルと、開講されるレベルのことに心を砕く傾向が強い(なぜなら成績評価が気 になるからである)。また、できるだけ楽しく、また快適に、有益な知識と成績(単位)が得られることを期待する(誰しも抱く安直なものへの希求:教師はそ れをお気楽と言うことなかれ、かつての自分がそうであったことを忘るるな!)。このようなことを授業前に知る最大の手がかりは、印刷かウェブメディアで提 供さえるシラバスである。シラバスをみて興味をもち、安心し、そして夢を抱くのである。シラバスを改善するためには、ティーチング・ポートフォリオ手法は 欠かせないものとなる。

(3)教員と学生を管理する大学当局のため

ポートフォリオは、大学管理手法の手段になる。ま た、研究業績とならんで、教育上の業 績を、ティーチング・ポートフォリオによって判断することによって、職位や給与の引き上げや引き下げに使うことができる。もちろん、ディフェンスする教員 の側にもポートフォリオによる根拠ある反論を構築することができる。また、優秀なポートフォリオの開示により、職場のFDに役立てることができる。また優 秀賞などの設置により、教員にやる気をおこさせ、授業改善への積極的取り組みに動員することができる。

この部分の参照文献

土持ゲーリー法一『ティーチング・ポートフォリオ』 東信堂、2007[TPの概略について学ぶにはよい本だが、大学文化の異なる日米の差異や 文化の翻訳に切り込んでいない点が残念である。]

セルディン、ピーター『大学教育を変える授業業績記 録』大学評価・学位授与機構監訳、玉川大学出版部、2007[翻訳本であるが、執筆者の分 野や経験談が豊富で、非常に有益な参考書である。1であげた「大学文化の異なる日米の差異や文化の翻訳」という観点から、日本の読者が読み替えたり改良し たりすれば、もっともTPの話題に容易に接近できる良書である]

●参照:ポート フォリオ portfolio【→出典はこちら

ポートフォリオはsheet carrier 、紙ばさみや書類フォルダーの意味であるが、金融業界では、個人や機関の投資家がもっている有価証券[資産]の一覧表のことをさす。つまり、象徴的には ポートフォ リオ(紙ばさみ)に入っている個々の証券や株券のことの集合体のことである。さてこの資産は、将来にわたってリターンをもたらすと同時に、その価値が変動 するかもしれないというリスクをもつ。

ハリー・マルコヴィッツは、投 資の個々の戦略を複数の組みわせからなるもの(=資産 構成, portfolio)とし、有 価証券への分散投資をすることで、利益を最大に、リスクを 最小にすることが重要であることを理論として提唱 した(これをポートフォリオ理論という)。すなわち、期待収益率と期待収益の分散という2つの変数により、通常の効用の極大化の手法で資産選択行動を説明 することができるようになった。(図を参照)。ここでそれぞれの経済主体は、【期待収益】と【収益の分散】からなる平面に描かれる無差別曲線で表現され る。危険資産(C〜Dの曲線)を組み合わせることにより、収益が高く分散が小さくなるような資産構成(ポートフォリオ)を作ることができる。安全な資産と は収益がゼロで名目価値変動もしない貨幣と、危険資産を組み合わせれば、その接点Bが、有効なフロンティアになる。有効フロンティアと無差別曲線の接点A が、最適な資産構成となる。

このことから、ポートフォリオ は、戦争する主体が動員できる兵器・戦術・補給資源な ど の総体をさすと同時に、それが明細表の形で表記さ れ、分節化され、有機的な組合せにより、戦術レベルでの効果を発することができる潜在性をもった潜在的配置図であることがわかる。ここで重要な運用原理 は、〈運用効率〉と〈リスクの回避〉とである。

経済学におけるポートフォリオ選択 (portfolio selection)は、資産選択というふうにも訳される(岩波経済学辞典)。

- Tobin, J., 1958. Liquidity perference as behavior towards risk, The review of economic stdies. (水野正一・山下邦男監訳「危機に対する行動としての流動性選好」『現代の金融理論(I)』1965) 

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