健康と病気に関する文化的および社会的現象を研
究対象とする人類学研究を、医療人類学(medical
anthropology)と呼ぶ。この授業は、健康と病気に関する人間のさまざまな諸実践(これが考え得る最も広義の「医療」の定義である)が、文化人
類学の基本的な概念と方法を用いれば、研究と分析が可能となり、その時代や社会の価値評価になり得る基礎資料を呈示できることを、講義と演習(文献読解)
を通して明らかにする。今年は「授業の目的」の3.に掲げた、医療実践を、身体と心の変調(=病気経験)を媒介にするコミュニケーションプロセスに他なら
ないという観点とり、社会学者のアービング・ゴッフマンを中心に象徴的相互作用論や現象学的社会学の知見などを絡めつつ考察したい。
*【おことわり】当初のタイ
トルは「医療人類学」でしたが、このサイトには医療人類学と表記したページが無数あります。そのため利用者に混乱をきたしますので、今後は、このページを
「ゴッフマン/ゴフマンの医療人類学」と呼ぶこととします。
■科目名:医療人類学
■キーワード:医療人類学、身体、文化、心、ヒューマン・コミュニケーション
■授業の目的:
1.医療人類学の基本的な知識と研究法について学ぶ。
2.人間中心の医療を召喚することができるか/否かの吟味をおこなう。
3.医療実践が文化の文脈依存という社会的拘束性を受けるという理論的根拠を理解する。
■教科書:
■参考書:
ウェブページ http://bit.ly/X9TCSD
(このサイトの圧縮URLです)で適宜示します。
■課題文献:
パスーワードがかかっています。必要な方以外はダウンロードされても無駄です!
■成績評価
出席点を重視(70%)します。就活や所属ゼミなどでのやむおえない欠席にはアドホッ
クな(=臨時の/応急の/状況に即応した)課題レポートを課しますので、それらを提出し合格することで出席点に代えるなど、配慮します。
■スケジュール
4月11日(木)6限ー7限 18:00-17:30 17:40-21:10
オレンジショップ [→
ア
クセス:オレンジショップ](変更の可能性あり)
医療人類学の基礎(基本レクチャー)
Singer, Merrill and Hans Baer, Introducing Medical Anthropology : A
Discipline in Action. 2nd ed., Lanham, MD: Altamira Press.
2011.の旧版(2007)から抽出したレジュメ(
パスワードあり:
MMedAnthroSinger07-01.pdf)
4月25日(木)6限ー7限 18:00-17:30 17:40-21:10 オレンジショップ
5月16日(木)6限ー7限 18:00-17:30 17:40-21:10 オレンジショップ
5月30日(木)6限ー7限 18:00-17:30 17:40-21:10 オレンジショップ
6月13日(木)6限ー7限 18:00-17:30 17:40-21:10 オレンジショップ
6月27日(木)6限ー7限 18:00-17:30 17:40-21:10 オレンジショップ
7月11日(木)6限ー7限 18:00-17:30 17:40-21:10 オレンジショップ
7月25日(木)※まとめの授業ですが、日にち時間帯の変更の可能性もあります。授業担当者にお問い合わせください。
■コメント:我々の常識を解体する文化人類学的想像力:
アービング・ゴッフマンを手がかり
に!
・「昨日までの医療(the Medicine before
yesterday)」はそんなんじゃない?!
この授業は、学部高学年ならびに大学院生(博士前期レベル)にふさわしい医療人類学
の基本的な知識と研究法について学ぶものです。では皆さんの抱いている「常識的な現代医療」についてはどう思われるでしょうか。例えばこういうものです:
まじないや呪術的治療に代表されるように、医療の原型には、宗教的でいわゆる迷信的な要素が多く含まれていましたが、近代医療の先覚者たちは、それを実験
と実証により合理的に克服して、今日のような科学的な医学を気づいたと。これらは、近代科学の進歩史観と呼ばれる説明の方法で、現代の医学史研究や医療社
会学においては、このような素朴な説明だけでは、医療・医学の発展を説明できるものではないことが指摘されています。
・今の医療が、最適で完全なものではありません!
現代の我々は科学的合理性の世界を生きているように確信していますが、それも、そのような信念の結果に基づいてのみ我々は生きているわけではありませ
ん。合理性の証明のみならず、すでに社会的に承認を得て、あたかも当たり前になっているもの(例:科学的信頼性、医療保険制度、医療行為の倫理原則)は、
いちいちその確実性などを個別に証明してから、それを使っているのではなく、慣習的にあるいは惰性のごとく我々は利用しているに過ぎません。それゆえに、
例えば、医療費の自己負担を現行の3割から5割に変更すると政府が仮に決定したとすると、私たちは怒りを覚えますが、では当たり前で自然だと思われている
3割負担の根拠が何に基づいているか適切に説明することができません。また高齢者や小学生未満の乳幼児が2割であることも(当事者ですら)忘れています。
それどころか、かつては2割(それ以前には1割)負担で済んでいた歴史的経験すら忘れられています。
・人間の苦悩と向き合う医療とは?
このように、医療と医療を受ける態度については「人間にとって医療とはこうだ/こうあるべきだ」という主張を経験的事実という手がかりになしに、勝手に
推論しても時間の無駄なのです。皆さんが、現代の医療について便利で高度に進歩したものだと思われるは、皆さんの自由ですが、病気や老化が人間の苦悩の原
因であり続ける限り、医療に対する人々の不満はなくならず、よい医療や人間らしい医療を成就するためにもっと資金が必要だという主張は、増大する医療費を
正当化したい医療職専門家や、治療のための研究開発が必要だという基礎ならびに応用の医学研究者の口実にすら覚えてきます。
・何が人間にとって理想的な医療なのか?
何が人間にとって必要な医療なのか、何が人間にとって理想的な医療なのか、このことに関する議論に具体的な根拠を与えてくれるのは、医療従事者の観念的
な理念からではなく、現在地球上で行われている医療ないしは医療らしきものの具体的な観察と、それらを比較検討することから出てくる経験的知識に他なりま
せん。そのためには、どのようにして生物医療中心主義の現代医療を、その客体化(objectification)過程を通して理解可能なものとし、人間
中心の医療を召喚することができるか/否かの吟味が不可欠になります。
・医療は文化依存で社会的非拘束性の下にある!
そして、医療実践とは、身体と心の変調(=病気経験)を媒介にするコミュニケーションプロセスに他ならないという観点にたつ必要が生じます。それゆえ授
業では、インターパーソナルなコミュニケーション理論——今学期に取り扱うのはアービング・ゴッフマン(1922-1982)という社会学者のそれ——の
知見を紹介し、医療実践が文化の文脈依存という社会的拘束性を受けざるを得ないという理論的根拠を理解できるようにします。
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ゴッフマン著作の検討