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アミロイド・マフィアについて

On Amyloid Mafia

カメレオン

池田光穂

プレセニリン1 (presenilin 1, PS1)、プレセニリン2 (presenilin 2, PS2)は家族性アルツハイマー病の原因遺伝子として、1995年に同定された。PS1(第14番染色体)、PS2(第1番染色体)はそれぞれ467、 448アミノ酸からなる8回貫通型の膜タンパク質で、両者の構造は非常によく似ており……アミロイドβ*56はアミロイドβの一種である。アミロイドβは 脳内に蓄積することが確認されているタンパク質で、その蓄積がアルツハイマー病の発症に関連するという。これは「アミロイドβ仮説」という形で提唱され て、多くの研究者から支持されてきた。

この報告は、Sylvain Lesné et al., A specific amyloid-β protein assembly in the brain impairs memory. Nature volume 440, pages352–357 (2006).であるが、おびただしい引用と継続研究がなされてきた。もっとも発表当初より長く疑惑がもたれていて、この一派を「アミロイド・マフィア」 と批判的な研究者たちは、そう呼んできた。それが、BLOTS ON A FIELD? A neuroscience image sleuth finds signs of fabrication in scores of Alzheimer’s articles, threatening a reigning theory of the disease, Science 21 JUL 2022, CHARLES PILLERによって、報告されるように、疑惑、捏造である可能性が指摘されている。

マーガレット・ロック氏は、この問題を医療人類学の 視点からながく、議論してきており、プリンストン大学出版 会から2013年に出版された『アルツハイマーの 謎』において、アミロイド・マフィアと呼んで、警鐘を発していた。

「冒頭の3ページ(pp.4-6)に書かれているこ れら3つの緊張が本書の通奏低音となっており、アルツハイマー病をめぐる学説的理解や、現在も論争中の説明仮説であるアミロイド・カスケード仮説——βア ミロイドとタウたんぱく質の蓄積とそれに伴う脳の病理的萎縮こそがアルツハイマー病の本質であるという主張——をめぐる、さまざまな識者の見解の相違など が、この3つの緊張関係を理解することは、重要な役割を果たしていると思われる。『アルツハイマー病の謎』とはこの疾病概念とその説明と、その診断に巻き 込まれる人たちをめぐるさまざまな社会現象——例えば医療の対象となることが病気の烙印化を軽減したり、人口構造の高齢化や人間の長寿化が新たな社会問題 として生成したりするなど——の総体に絡み合ってゆくことから生まれる「ぼやけた像」から派生するものなのである」マーガレット・ロック著『アルツハイマーの謎』プリンストン大 学出版会、2013年 の書評

2022年の報告では、バンダービルト大学マ シュー・シュラグ(Matthew Schrag)により、当該論文に画像の捏造がみられたというものである(→「アルツハイマー病研究の重要論文に改ざんの疑 い」)。今回の懸念は、初出論文と関連論文のあわせて20本にみられたという。医療人類学者のロック氏の指摘をのみならず、トーマス・スードフ (Thomas Südhof)も「アルツフォーラム(アルツハイマー病研究フォーラム)」でも"Sylvain Lesné, Who Found Aβ*56, Accused of Image Manipulation"(ALZFORUM)で指摘されている。

★アミロイド仮説の日本での卑近化の例(大同生命提供:2023年6月19日採集

アミロイドβとは?

アミロイドβとは、脳内で作られるたんぱく質の一種です。健康な人の脳 にも存在する物質で、通常は脳内のゴミとして短期間で分解、排出されます。しかし、アミロイドβ同士がくっついて異常なアミロイドβができると、排出され ずに脳に蓄積され、健康な神経細胞にアミロイドβがまとわりつきます。そしてアミロイドβの出す毒素で神経細胞が死滅して情報の伝達ができなくなり、徐々 に脳が委縮。その結果、アルツハイマー型認知症が進行していくことになります。

アミロイドβが脳に溜まると、「老人斑」と呼ばれる染みができることが分かっています。かつては脳に溜まったアミロイドβを確認することは困難でしたが、 現在ではアミロイドPET(アミロイドイメージング)という検査により、画像診断で脳内のアミロイドβの蓄積量が分かるようになりました。なおアミロイド PETは、健康保険の適用外のため自費診療となります。希望する場合は、事前に病院や健康センターなどに連絡をして、検査方法や費用の説明を受けましょ う。

アミロイドβが溜まる原因とは?

アミロイドβの蓄積は認知症を発症する十数年前から起こると言われていますが、蓄積が起こる原因は大きく分けて2つあります。

1つ目は運動不足です。運動をすることによってアミロイドβの蓄積が少なくなることが研究で明らかにされています。[注1]

逆に、日頃から運動不足の方はアミロイドβが蓄積しやすい状態にあると考えられます。

2つ目は、認知的活動の減少です。日頃から考える・記憶する・判断するといった認知機能の活用を怠っていると、アミロイドβが蓄積し、認知機能の低下につながる可能性があります。
ある実験では、刺激の多い環境で飼育したラットと、単調で刺激の少ない環境で飼育したラットを比較した結果、前者のラットの方がアミロイドβの蓄積が少なかったことが報告されています。[注1]

[注1]厚生労働省「認知症予防・支援マニュアル(改訂版)」(平成21年)

認知症とアミロイドβの関係

認知症の原因については複数の仮説があり、はっきりした原因は分かって いません。そんな中、「脳に蓄積したアミロイドβの毒性で神経細胞が死滅して脳が委縮し、認知症を発症する」という「アミロイドβ仮説」は、2010年に 提唱されて以来、最も有力な説として注目を集めました。今日におけるアルツハイマー型認知症の新薬開発においても、このアミロイドβ仮説が主流となってい ます。
今後開発される新薬などによって、沈着したアミロイドβの排出を促進できれば、認知症を改善する効果が期待できます。

また、他にもアルツハイマー型認知症の原因として「神経原線維変化」という現象があげられます。これは健康な神経細胞にタウたんぱくという物質が絡み合って起こるもので、アミロイドβ同様、不要な物質が溜まることで神経細胞の働きを悪くし、死滅させます。

このように、アミロイドβや神経原線維変化によって神経細胞が次々に死滅して正常に働かなくなると、脳が萎縮します。これが認知症のメカニズムといわれています。

アミロイドβと今後への期待

脳内で作られるアミロイドβは、アルツハイマー型認知症の発症に関係す るとして、大きな注目を集めている物質です。アルツハイマー型認知症における薬物療法は、できるだけ症状を軽くし、進行を遅らせることが目的となっていま す。もし将来アミロイドβの蓄積を阻害する治療薬が開発されれば、アルツハイマー型認知症の進行を完全にストップできる可能性もあります。高齢化社会が進 む中で認知症を治す薬につなげられるのか、今後もアミロイドβのさらなる研究が期待されています。

しかし、現在、完全な認知症治療薬の開発を目指して世界中で研究が進められていますが、なかなか実用化には至っていません。今できることとして、認知症になる前から生活習慣を見直し、認知症予防へとつなげましょう。


※「さらなる研究が必要」言説
生活習慣を見直して認知症を予防しよう

アルツハイマー型認知症の発症には、生活習慣が影響するといわれています。例えば、高血圧・肥満・糖尿病といった生活習慣病や、偏った食事、過度の飲酒、喫煙、運動不足、睡眠不足などです。

特に質のよい睡眠を取ることは、脳の働きを保つためにとても大切です。睡眠時間を十分に取るだけでなく、寝る前はカフェインの入った飲み物は控える、部屋 を暗くする、パソコンやスマートフォンなどの明るい画面を見ないようにするなど、質のよい睡眠を取るための環境を整えましょう。朝すっきりと起きれば、一 日の生活リズムも整えやすくなります。

また生活習慣病を予防するには、食事と運動が重要です。食事は1日3食規則正しく、バランスのよいメニューを心がけます。運動はなかなか時間が取れない、 という方もいらっしゃるでしょう。しかし、わざわざ運動のための時間を取らなくとも、駅で階段を使う、テレビを見ながらストレッチするなど、日々の隙間時 間を使ってできることはたくさんあります。無理のない程度で、できることから始めてみましょう。

出典:https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/009.html


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