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偽書・シオン議定書の来歴

Forgery, The Protocols of the Elders of Zion and its origin

池田光穂

「汎民族運動のイデオロギーが完成されたあと、政治 的に機が熟してそれが実際に応用されるまでの間にはかなりの時間が経っている。その理由をおそらく最もよく説明してくれるのは、〈シオンの賢者の議定書〉 の話だろう。これは周知の如く偽造文書であり、ロシア秘密警察の手先きによって世紀の交の頃パりで捏造されている。彼らは独力ででっちあげるだけの才覚を 持たなかったらしく、パリでたまたま入手した反ナポレオン三世の古ぼけた革命的パンフレットを利用したのだが、そのパンフレットではモーリス・ジョリなる 者が『マキァヴェッリとモンテスキューの地獄における対話』Dialogue aux Enfers entre Macchiavelli et Montesquieu という形でマキァヴェリズムのあらゆる政治原則を述べていた。偽造を命じたのはツアーリ、ニコライ二世の側近のロシア高官だったポピェドノスツェフで、権 勢ある地位にまでのぼった唯一の汎スラヴ主義者だった。面白いことに、世紀はじめのポグロームの正当化を狙いロシア政府のプロパガンダ用につくられたこの 偽造文書は全く注目を浴びぬままに忘れ去られていたのだが、それが第一次世界大戦後に突如として華々しく復活し無数の版を重ねてヨーロッパ中に広まるとい う勝利を祝ったのである。握造者もその命令者も、警察が社会における支配的勢力にまで実際にがこの議定書に「ユダヤ人の世界支配」の根本原則として掲げら れた原理に正確に合致するように組織され得る時代が来ようとは、予想していなかっただろう。真に徹底して遂行される警察支配に潜む巨大な可能性を最初に発 見したのは、おそらくスターリンだった。しかし、反ユダヤ主義を使えば人種の疑似ヒエラルヒー的原理を組織原理に転化し得ることを最初に理解したのは、師 シェーネラーよりはるかに頭の切れるヒトラーだったことは確かである。つまり「最悪」人種を確立すれば、「最良」人種を支配者としてその他の被征服民族・ 被抑圧民族を適宜変更可能なようにそのあいだに格付けした秩序を創り出すことが可能となり、そこでは「最良」人種を除くすべての人種は自分より上位の人種 を仰ぎ見ねばならず、だが「最悪」人種以外はどの人種も何ほどかの優越感を抱けるようになるわけである」(アーレント『帝国主義』pp.194-195、 大島通義・大島かおり訳、みすず書房、1972[2009]年)

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