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 安倍晋三首相による日本政府の国際保健に対する取組み声明について

On the "Japan’s vision for a peaceful and healthier world," by the Japanese Prime Minister Shinzo ABE, December 12, 2015

池田光穂

国連による「持続可能な開発のための2030アジェ ンダ(SDGs)」(2015年9月)において示されている「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」に日本政府は国際社会に対して積極的に関与す ることを決め、同年12月末に、英国の医学雑誌『ランセット』に「世界が平和でより健康であるために」なる文書を寄稿した。

日本政府が、これまで、世界の国際保健に対しては、 政府ODA協力やWHOを経由した専門家の派遣、あるいは日本財団を代表的とする民間による特定疾患対策プロジェクトなどで、多大なる貢献をしてきたこと は言うまでもない。しかしながら、日本の専門家派遣を主とするプロジェクトは、概ね、日本の先端医療技術を開発途上国の病院や地域保健プロジェクトに移植 するというタイプのものが多く、投下した国際協力予算に比して、(天然痘の撲滅などのケースを除いては)国際社会のなかで大きく評価されてきたものでな い(他方、酷い不評を買うこともないが)。

この時代は、米国のバラク・オバマ大統領が、オバマ ケアなどの一連の医療保険改革をしており、その「理想的なモデル」としてあげられるのは、日本の国民皆保険制度である。そして、国民健康保険制度とは、ま さに、国際社会が喫緊の課題としている、ユニヴァーサル・ヘルス・カヴァレッジなのである。

その意味で、2015年の安倍晋三首相の「世界が平 和でより健康であるために」の寄稿は、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」という国際的な開発トレンドという観点からみても、誠に時宜を 得たものであった。

そして、さまざまな形で、国際保健協力に関わる日本 ならびに全世界の人びとは、この安倍首相からのメッセージを真剣に受け取り、その後の国際社会に対する貢献の度合いを監視し、評価し、そしてアドバイスす ることで、日本政府の対応を促すことができる井上でも重要な文章である。

そのため、このページの運用者(池田)は、それを顕 彰し、また、今後の日本政府の施策にたいして、適切に評価し、思うところあれば助言(アドバイス)することが可能になると考え、その全文訳(厚生労働省 訳)をこのウェブページで公開する。

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世界が平和でより健康であるために(パラグラフ番号は引用者が付記した――引用 者)――安倍晋三総理のランセット誌寄稿(厚 生労働省 仮 訳)

1. 「保健」は根本的に地球規模の課題である。最 近のエボラ出血熱、MERSのアウトブレイクからも 分かるように、各国の協力が必要である。世界は団結し、各国は強靭で持続可能な保健システムを 整備し、可能な限り国民の健康水準を向上させなければならない。

2. 日本は長年、「人間の安全保障」構想を提唱 し、現場での具体的な取組を行ってきた。「人間の安 全保障」は、人間の自由、自己実現そして能力が発揮されるよう、人の人生において欠かすことの できない核心を守るものである。そしてそれは、我が国の「積極的平和主義」政策の基礎となってい る。日本は、「保健」を、人間の安全保障の中心的な要素と考えている。

3. 2015年9月、「ユニバーサル・ヘルス・カ バレッジ(UHC)」を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」が採択された。UHCは、交渉のプロセスで我が国が重視してきたも のである。 UHCの達成のためには、社会制度のみならず、人材の育成、国民の意識を変えていくという総合 的な取組が必要である。そうした変化をもたらすためには、保健の恩恵から一人も取りこぼさない、 という指導者の姿勢が最も重要である。SDGsは、様々なセクターを結びつけ、個人や家族、そして コミュニティを強化する機会となる。また、UHCの恩恵が投資に見合うものであることが目に見え、そ して達成可能なものであることが示されるためにも、モニタリングと評価の仕組みについて合意が形 成されることも大変重要である。

4. 日本は2016年5月にはSDGs採択後初め てのG7サミットを開催する。SDGs達成に向け我が国は、 神戸保健大臣会合、アフリカ開発会議とあわせ、G7各国・パートナー国に対して日本の経験を伝え つつ、具体的なステップを議論する機会を提供し、ともに前進していきたい。

5. 日本が国際保健分野で重要と考えているのは次 の2点である。@公衆衛生危機に対応する体制 を構築すること、A強靭で持続可能な保健システムの構築を、日本の経験と専門知識を活用するこ とにより推進すること。これらの実現に向けて、日本は新たな国際保健戦略として、「平和と健康の ための基本方針」と「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本方針」を策定した。2016 年のG7サミットを通じ、私はこれらの点の重要性を強調し、簡明で関連性の高い議論を促したい。 来年のG7サミットに向け、我々は第一に、公衆衛生危機への対応を議論する。公衆衛生危機に 迅速かつ効果的に対応するためには、国際保健の体制を再構築する必要がある。公的部門・民間 部門のパートナー、政府と市民社会が、世界、地域、国、コミュニティの各レベルで、危機発生時に 想定される役割について、前もって合意しておくべきである。

6. 世界保健機関(WHO)には更なる改革と能力 の強化が必要であるが、日本は、特に初期段階に おける迅速な検出と封じ込めにおいて、WHO に主導的役割を期待している。日本は、緊急対応基 金(CFE)の立ち上げを含め、WHO 改革のプロセスを支援する用意がある。

7. 世界銀行のパンデミック緊急ファシリティ (PEF)についての努力も同様に日本は支援する。それと ともに、CFE とPEF が相互補完的な役割を果たすよう、WHO と世界銀行の連携も呼びかける。連 携により、危機対応時における有効性・効率性が高まることにつながる。 第二には、強靱で持続可能な保健システムの構築について議論したい。

8. 日本は、過去70 年間で、平均寿命は30 歳以上伸び、1980 年代初頭から健康指標は常に世界 のトップであり続けてきた。これらの成果は、1961 年の国民皆保険の達成、健康に大きな影響を与 える食生活や水が良好な状態であること、そして健康の社会的決定要因への取組の結果である。 全国民一人一人に平等に質の高い医療を受ける機会を提供し、健康を国として確保していくことで、 その後の高度経済成長、社会の安定、公平・公正、連帯につなげた。これは、社会経済の発展によ ってのみもたらされるものではなく、国の資源が乏しくとも、強い政策的な意思により達成できるもの である。現にケニアは、日本のODA 借款の支援を受け、UHC の達成に向けて動いている。 また、保健システムの構築には、各国が国際保健規則(IHR)を遵守するために必要な能力を確 保し、健康危機の発生リスクを軽減するとともに、危機発生時の被害を最小限にすることが含まれ る。この観点から我々は、IHR に定められた各国の能力強化に資する具体的メカニズムとしての世 界保健保障議題(GHSA)を支持する。

9. この目標を追求する上で、重要な課題として認 識しているものがある。それは、結核のような感染 症との戦いを進めるとともに薬剤耐性(AMR)の問題に取り組むことである。

10. 薬剤耐性の問題においては、G7エルマウ・ サミットで確認されたように、(ヒトや動物の健康、農 業、環境を包含する)ワンヘルス・アプローチが重要である。また、AMR に関するWHO の国際行動 計画を遵守するため、各国への支援を行うことも重要である。この点を改めて申し上げておきたい。

11. かつてないほどの国際的な経済統合の拡大、 とりわけアジア太平洋地域における進展を踏まえ れば、我が国はアジア地域において、各国がAMR に関する国際行動計画を策定し、AMR の脅威 に取り組む上で、大きな責任を担っているのである。

12. さらに、我が国では、世界最速の速度で高齢 化が進んでいる。我が国は、高齢社会に対応する 先駆者として、全ての世代のための生涯にわたる健康へのアプローチを通じ、保健システムの持続 可能性を維持しつつ、健康寿命を伸ばすことに挑戦する。

13. 厚生労働大臣の諮問委員会がまとめた報告書 「保健医療2035」では、2035 年を見据えた新たな 保健システムを提案しており、日本および世界中における持続可能でかつ繁栄に寄与する保健医 療を通じ、類を見ない良好な健康を提供する目標を提示している。

14. 保健システムの強化に関し、我々には見過ご してはならない共通の財産がある。疾患別のアプロ ーチにより確立されてきた健康情報システムや薬剤のサプライチェーンである。

15. このような理由から日本は、疾患別アプロー チで得られた知見や資源を含め、ドナー国やWHO、 世界銀行、世界エイズ・結核・マラリア対策基金、GAVI などの国際機関の持つ専門的知見やリソー スを一つに集め、開発途上国における保健システム強化を支援していくことを目指す。

16. 日本はこれまで、主催した2つのサミット (2000 年の沖縄サミット、2008 年の洞爺湖サミット)でも 国際保健を積極的に推進してきた。世界エイズ・結核・マラリア対策基金の設立は沖縄サミットにお ける感染症対策の具体的な成果であった。それ以降も、日本は、日本医療研究開発機構(AMED) やグローバル・ヘルス技術振興基金(GHIT)を通じ、国際保健分野でのイノベーションを主導してき た。また、日本は、ポリオ撲滅のような貧困に関連する感染症に対する対策のため、国際的な資金 調達、民間セクターの投資を促進する仕組みを支援してきた。

17. 保健に関する課題は各国の単なる国内の問題 にとどまらない。それは国境を超え、国際的な課 題であることを改めて申し上げる。世界的な連携の枠組みの構築は待ったなしである。

18. 国際保健の未来のために重要な分岐点である 本年、日本は、「新たな開発目標の時代における UHC」に関する国際会議を、12 月16 日に東京で開催する。2016 年のG7サミットにつながるものと して、この会議では、SDGs のもと、国際的な健康危機への備えと、強靱で持続可能な保健システム の構築に焦点を当てることが期待されている。

19. かつてないほど密接に結びついた世界におい て、指導者は、人間の安全保障と平和を実現し、 全ての人に健康と福祉をもたらす展望を持って、分裂ではなく、一層結束しなければならない。2016 年のG7の議長国として、日本は国際保健のこの新たなモメンタムを盛り上げ、全ての人々が必要 なときに良質の保健サービスにアクセスでき、財政的困窮に陥ることなく健康上の脅威から守られ るよう、一層の貢献をしていく。

20. 来年の一連の行事を通じて、こうした堅い決 意を示したい。

注記:平成27(2015)年12月11日付け大臣 官房国際課より発表(国際協力室長:山谷裕幸,課長補佐:江副聡):この時の厚生労働大臣は、塩崎恭久氏(1950- )である。

出典:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000106535.html

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