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他者の痛み(苦悩)を理解すること:課題

On understanding other's "pain" or suffering

池田光穂

クオリティー・オブ・ライフの問題(オリヴァー・サックス)

「オッ クスフォードの医学部予科で解剖学と生理学を勉強しただけでは、実際の医療を行なう心の準備はまったくできていなかった。患者と対面し、患者の話を聞き、 患者の経験と苦境を察し(あるいは少なくとも想像し)、患者のことを心配し、患者に対して責任を負うことは、私にとってまったく初めての経験だった。(1)患者 は目の前にいて、たいてい現実の苦しい問題を抱え、ときに選択肢に悩む、怒りっぽい人間だった。診断して治療すればいいというものではな い。もっと深刻な 問題が生じることもある。(2)生活の質の問題、 その状況で人生は生きる価値があるのかどうかの間題だ。

  私がこのことを痛切に感じたのは、ミドルセックスでインターンをしていて、水泳仲間だった若いジョシュアが(3)足に奇妙で不可解な痛みを感じて入院してきたと きのことだ。血液検査から暫定的な診断が下され、さらなる検査結果を待つあいだ、彼は週末を自宅で過ごすことを許された。土曜の夜、医学生も含めて大勢の 若者たちとパーティーを楽しんでいるとき、学生のひとりがジョシュアに、なぜ入院したのかと尋ねた。よくわからないが薬をもらったと彼は言った。そして(4)質 問した学生は薬瓶を見せられ、ラベルの「6MP」(6メルカプトプリン)を見て、うっかり口走った。「大変だ、きみは急性白血病にちがいない」

  週末の外泊からもどってきたとき、ジョシュアは絶望的な気持だった。診断は確かなのか、どんな治療ができるのか、自分はこれからどうなるのかと疑問をぶつ ける。(5)骨髄検査が行なわれ、診断が確定され、投薬治療に よって少し時間は稼げるかもしれないが、症状は急速に悪化し、余命は一年か、たぶんもっと短いだろ う、と告げられた

  その日の午後、私はジョシュアが(6)バルコニーの手すりを乗り 越えようとしているのを見つけた。病室は二階にある。(7)私は手すりに駆けより、彼を引きもどし、そ んな病気にかかっても人生は生きる価値があるのだということについて、思いつくかぎりのことを話した。決定的な瞬間をのがし、ジョシュアは しぶしぶ納得し て病室にもどった。

  奇妙な痛みは急速に激しくなり、足だけでなく腕や胴体にもおよびはじめた。(8)白血病の浸潤が脊髄に入り、感覚神経を侵しているせいであることは明 らかだ。経 口と注射で強い鎮静剤が投与され、最後にはヘロインも使われたが、痛み止めの薬は無駄だった。彼は昼も夜も痛みに悲鳴を上げるようになり、この時点で唯一 の頼みは(9)亜酸化窒素(笑気ガス)を与えるこ とだった。しかし麻酔が切れたとたん、彼は再び叫び声を上げた。

(10)先 生は僕を引きもどしてはいけなかったんだ」と彼に言われた。「(11)でもそうするしかなかったんでしょうね」。数日後、 彼は痛みに苦しみながら亡くなった」 (サックス 2015:62-63)。

番 号のないプレーンなテキストを読みたい方はこちらです→「他者の痛み(苦悩)を理解すること

グ ループ実習の前に(I)のカラムの問題に答えましょう(記述できる範囲でよい)

(I) 実習問題:左のテキストをよく読んでから、その番号に符合する質問に簡潔に応えなさい。

(II) インフォームド・コンセント制度の導入以降、医療者は、患者(当事者)のプライバシーが確保できる診療室ないしは別室において、その分野の医療水準に準拠 しつつ(すなわち標準的で正確な医療情報にもとづいて)、患者が理解できる言葉で、病状の説明、予後見込み、選択可能な治療手段等について、説明し、治療 の選択権に関するイニシアチブを患者との対話を通して合意形成すべきであるということが標準的になりつつある。ジョシュアの病気の発見と闘病に関わったオ リヴァー・サックス医師(研修医)のこのエッセーの表題は「生活の質」と題されている。ジョシュアの痛みと苦悩は、ジョシュアの生活の質とどのように関 わっているのか? 先の練習問題の自分の回答をもとに、グループで自由に討論しなさい。議論がグループで展開しない場合は、それぞれの設問の内容につい て、個別に紹介し、類似点と相違点があれば、なぜそのようなことが生じたのか、話しあいなさい。

●番外:「痛みの類推として「カブトムシ」を提供することでヴィトゲンシュタインは、痛みの事例は本当は哲学者の使用に耐えないと主張している。「すなわち、私たちが『対象と意味』のモデルに則って感覚の印象の文法を解釈するならば、対象は思考から滑り落ちて無意味になる」

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