ローカル・グローバル・コネクション
La conexion entre el local y lo global, Local Global Connection, LGC
本誌(※)12月号(1998年)(『市場史研究』)に 引き続いてグアテマラ共和国西部のクチュマタン高原のマヤ系先住民族の生活を通して、我々とは無縁とも思える人びとの生活について考察することの重要性に ついて考えてみる。今回のテーマは、民族観光(ethnic tourism)という社会現象である。
解説(リンクします)[左:観光客][町の遠景]
1980年代初頭に内戦によって殺戮と破壊を受けたこの町も、今やグアテマラ国内でも知名度の高い観光地の一つになった。ただし、観光といっ ても大衆観光ではない、民族観光の目的地であり、欧米を中心とした外国人観光客は、エキゾチックな衣装を身にまとった先住民族の生活風習や文化に触れに、 3000メートルを超えるクチュマタン高原をバスに揺られながらやってくる。観光客が期待するのは、一方では、昔ながらの伝統的な生活や、マヤ先住民族の 土地に結びついた土着の思想に触れることである。また、他方では過酷な内戦の傷あとや貧困の生活の片鱗に触れることである。観光客は冒険旅行をして先住民 の“素朴な”生活や彼らの現在を見にくるために休暇を使って苦労しながら観光地に到着する。先住民族の人たちに対するこのような観光客の過剰な思い込み は、滑稽に映り取るに足らないものとも思えるが、観光収入を得たり、援助プロジェクトに従事する当事者たちにとっては、観光客が抱く印象や偏見は、それ自 体で利益を生み出す源となる。そのため先住民族は、観光のさまざまな局面において観光客が見たい、知りたい欲望の対象になっているばかりか、その役割を積 極的に演じるということもある。
ところが、当の先住民族の生活は、海外に出稼ぎ労働者を多数送り出し、グローバル化した通信や金融を利用してグアテマラの外貨稼ぎに大いに貢 献している。民芸品や民族衣装の意匠には新しい要素が加わり、それらの生産と流通の様式は日々革新している。先住民族の人びとは先進国に出かけ、その国を 支える低賃金労働に従事し、出身地に戻っては先進国のライフスタイルを持ち込むことに貢献する。民族観光というのは、観光の対象そのものが、先住民族の人 間の実存であり意思をもつ存在であるために、このような皮肉的な状況が生じるのである。
ローカル・グローバル・コネクション(LGC)とは、文化表象学(Cultural Studies)における研究戦略の方向性を示唆した用語である。これは、地球の局所的でミクロな場で生起している文化現象を、地球規模におけるマクロ的 現象からの影響関係のみで捉える従来の研究の反省の上に立ち、ミクロ・マクロの相互反映過程として捉える研究視座のことである。こ のような研究領域の開拓は、私の専攻する文化人類学の分野(※※)のみならず、歴史・経済研究における世 界システム論、社会学におけるルーマン・システム、より広い学問領域では複雑系など、さまざまな学問分野で現在進行中の知識生産の新たな潮流の一つなので ある。
池田光穂「商品としての民族・文化・定期市——グアテマラ西部高地における民族観光」 『市場史研究』第17号、pp.93-99、 1997年
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