かならずよんで ね!

スティグリッツ+グリーンウォルド『学習する社会を創造する』を読む

Reading "Creating a Learning Society"(2015) by Joseph Eugene Stiglitz & Bruce C. Greenwald

池田光穂

スティグリッツとグリーンウォルドによる『学習する 社会を創造する:成長・開発・社会的発展の新しいアプローチ』"Creating a Learning Society: A New Approach to Growth, Development, and Social Progress," Columbia University Press, 2015. は、安倍「成長戦略」政権下における、政府による介入の成長戦略が、市場主義万歳なのか、それとも従来の許認可と開発投資による「日本的イノベーション」 かが不明瞭——私はその両方のマイナスの面のみを引き受ける一番こまったハイブリッド政策に思えるが——な現今の、政治経済状況のなかで、明確に、政府に よる介入は、職域と教育現場つまり社会全体に対する政府の教育的投資こそが、今後の日本の経済発展を引き続きつづけ、日本が世界に冠たるサステイナブル持 続開発(SDGs)のリーディング社会になることを主張した上で、とても元気づけれる本である。

ここでは、第1章学習革命(ラーニング革命):The Learning Revolutionから、第8章幼稚経済保護論——学習を促進する環境での貿易 政策:The Infant-Economy Argument for Protection: Trade Policy Trade Policy in a Learning Environmentまでを紹介する。スティグリッツは、工業部門を促進させ学習経済と学習社会を構築することが重要と言ってる(第8章の終末で)。




1.学習革命:The Learning Revolution 1.1 市場の非効率性
・学習はすくなくとも内生的
・ケネス・アロー「学習過程」(7)
・知識と学習の伝播環境は、市場が効率的とは言えない
・アローは、パレート効率のための十分条件を提示した(10)
・学習と、そのスピルオーバーが重要(11)

1.2 学習社会促進における政府の役割
・ワシントンコンセンサスに反対する(16)

1.3 比較優位論の再定義
・幼稚経済保護論(→第8章)
・比較優位論のリビジョニズム
2.学習の重要性について:On the Importance of Learning 2.1 マクロ経済学的視点

・最先端技術はどこでも利用可能。にもかかわらず差がうまれるのは、知財と要素供給の所有にレントが発生すること(27)
・なぜ、生活の質に国別に差が生じるのか?

2.2 ミクロ経済学的視点

・効率性が下回る労働現場の存在

2.3 急速な生産性上昇事例にみる証拠



2.4 成長に関する代替理論

・政府の歪んだ税(38)
・市場の失敗がないしゃかいは貯蓄が少なすぎる(40)

2.5 おわりに ・国が成長率をあげるには、企業が学習する必要性と、ラーニング・スピルオーバーを促進させ、R&Dと学習方法を学ぶ機会と投資を増やすことである(44)
3.学習経済:A Learning Economy 3.1 学習の対象

ラーニング(学習)の機会は、企業内でうまれている(50)
・生産性に貢献する学習
1)比較優位に関する学習
2)組織と社会を管理する学習
3)学び方を学ぶという学習(→大学が貢献できる可能性

3.2 学習のプロセス

・経験による学習(56)
ジャスト・イン・タイム(57)→「生産過程において、各工程に必要な物を、必要な時に、必要な量だけ供給することで在庫(あるいは経費)を徹底的に減らして生産活動を行う技術体系(生産技術)」
・学習による学習(58)
・他者からの学習
・貿易をとおした学習

3.3 学習の決定要因

・ソーシャル・ラーニング(63)
・知識アクセス(66)
・カタリスト(66)
・認知フレーム(69)

邦訳(78): L(労働量?)とK(資本/コスト?)が示されておらず不親切な説明である。Bは従来型技術で、Aは労働集約型技術。その国に疾病が流行し、労働力が不足 すると、賃金が上昇し、会社はB→Aに移行して効率よく生産しようとインセンティブが働く。技術はますます改善されA→A'→A"へと移行する。
3.4 学習のスピルオーバー(=漏出、圏外波及)の検証

・学習の集中化(72)
・新しい学習が生まれると年配者の知識は時代遅れになる。

3.5 学習の障害

・経験からの認知は偏る(80)
・信念体系(81)
・認知フレームと学習
・知識伝達の阻害要因(84)

3.5 学習の動機づけ

・専有可能性

3.6 トレード・オフ

・学習は未来への投資なので現在の消費を犠牲にしなければならない。つまり、異なる時点でのトレードオフが生じる

3.7 おわりに


4.学習を促進する企業と学習を促進 する環境の構築:Creating a Learning Firm and a Learning Environment 4.1 学習を促進する企業
・学習を促進させる
・大企業のほうが効率がいい(106)
・この箇所では、スピルオーバーに関心をもたせている(109)

4.2 学習する社会の構築するためのマクロ経済的条件 ・政策インプリケーション(117)
5.市場構造・厚生・学習:Market Structure, Welfare, and Learning 5.1 イノベーションがある市場構造
・学習が重要である市場は、不完全競争になりやすく、価格は平均費用と限界費用よりも高くなる
・レント・スティーリング
・資本主義そのものがイノベーティブで、独占は不可避だった。
・シュンペーターは独占に対しては容認。
・イノベーションがあると完全競争にはならない(123)
・ナッシュ=クールノーモデル(124)
・R&Dはサンクコスト(132)

5.2 競争の増加がイノベーションに与える影響
・市場での競争(144)
6.シュンペーター的競争の厚生経済学:The Welfare Economics of Schumpeterian Competition 6.1 知識の特徴的性質
・経済効率を確保するために市場を席巻する競争が、市場内の競争にとってかわる=「シュンペーター的競争」
・イノベーションを生み出すために市場経済が効率的などうかは証明されていない。
・スミス流だと、競争市場経済が神の見えざる手によりパレート最適を達成する。が、このケースではテクノロジーは外生的である。
・アロー=ドブリュー理論もだめで、
・シュンペタリアンも説明に成功していない。
・結論からいうと、イノベーションが内生的である市場が効率的であるという根拠はない。
・情報が内生的=リスク市場が不完全では、市場は効率的ではない。
・情報の経済学と知識の経済学は酷似。
・知識が内生的である経済も非効率
・R&Dはリスクが高く、保険がかけられない。
・知識の生産は、鉄の生産のような論理ではまわらない
・現在の消費と、将来の消費にはトレードオフの関係がある。すなわち異時点間でのトレードオフの意味がある
《知識は公共財》サミュエルソン流の公共財
・知識から便益をえるための限界費用はゼロで、非競合的である。
・スピルオーバー=外部性への着目が重要である
・公共財の生産と分配は、市場は効率的でない(161)
・基礎科学者は知的財産にこだわらない→スピルオーバーという外部性への貢献する
・公共財には、非競合性と非排除性という「徳」がある(池田)
・ラーニングの社会的価値>>ラーニングの私的価値
・競争の不完全性(163)
・不完全なリスク市場と資本市場(167)

6.2 イノベーション市場が非効率になる他の理由
・私的報酬と社会的収益
・調整の失敗
・市場の失敗のあいだの相互作用
・セカンド・ベスト理論、イノベーションの資金調達
・なぜ類似品イノベーションが起こるのか?→特許を回避し保有者の利潤(レント)の一部を横取りするためである(170)
・独占と高価格維持をやりすぎると、レントを自分で消費することにより非効率的なスパイラルに入る可能性がある
・知識のコモンプール問題(172)
・特許のホールドアップ(174)
・消費者余剰:イノベーションモデルでは、スピルオーバーにより、企業は学習と研究の便益を専有できない。
・つまり、イノベーションへの資源配分が社会的に最適にならない。

6.3 社会的に非生産的イノベーション:イノベーションはいつも厚生を向上させるのか?
・イノベーションへの抵抗=ラッダイト(180)

6.4 進化的プロセス
・この検証では、楽観的ではいられない。
・進化的プロセスをうまく回すための留意点、1)利潤が社会的貢献を示す尺度になること、2)市場が近視眼的であることを知ること、3)非合理的企業は他者に負の外部性を与え、他者を潰す、4)死の不可逆性(ゾンビ経済はありえない)。
・シュンペタリアン=創造的破壊を容認するが、金融危機以降、シュンペタリアンに社会正当性の大義が失われた。

6.5 革新的経済システム
・社会におけるイノベーションの量は、経済システムや社会システム全体に依存する(190)
・北欧型モデルは、追随者によく、北米モデルはフロンティアーにいる国に便利
・QCサークルや、ジャスト・イン・タイムは特許なし、だが労働現場のインパクトは米国知財ビジネスモデルよりも意義は大きい。
・累進課税はレントシーキングへのインセンティブを下げる

6.6 イノベーションと社会の特質についてのより広い考察


6.7 おわりに
・学習とイノベーションの特質:1)固定費用、2)サンクコスト、3)公共財的役割、スピルオーバー
1)市場がおこなう研究と学習の量は少なすぎるか?、2)知的所有権、3)研究と学習のパターン、4)イノベーションと厚生の両立
7.閉鎖経済における学習:Learning in a Closed Economy 7.1 基本的競争モデル
・学習は、閉鎖社会もふくめて、すべての経済社会において重要
・前提、工業や製造〈対〉農業や手工芸
・生産性が向上するのは、経験によるラーニングがあること。
・工業部門の成長が、農業部門にスピルオーバーする(仮定)

7.2 独占
・ラーニングがあると、収益は逓増で、自然独占になる

7.3 おわりに

7.4 補論
・CAは、農産品の消費量、CMは工業品の消費量。ラーニングは工業部門でのみおこる。
AとBでは、工業部門のスピルオーバーが、第二期の生産可能曲線の量を増大させる。
8.幼稚経済保護論——学習を促進する環境での貿易 政策:The Infant-Economy Argument for Protection: Trade Policy Trade Policy in a Learning Environment 8.1 幼稚産業保護論

・学習の文脈では国内産業間のスピルオーバーが、成長のプロセスにとって基本的な要素になる(→「最近接発達領域(ZPD)」)
・途上国は、未発達部門を保護し、それにより生産性を向上させる——保護貿易擁護論。
・自国の未発達部門を選別保護し経験による学習をとおして競争力が生まれるという善意のパターナリズム論。
・その根拠:資本市場の不完全性、不完全情報
・イノベーションが重要となる市場と経済は、市場の失敗がいたるところにある。
・市場が競争的であるかぎり、価格低下によりすべての国が学習から便益を得る。

8.2 幼稚産業論から幼稚経済論へ

・保護政策→学習社会の構築→幼稚経済を支える

8.3 簡単なモデル



8.4 最適な貿易介入

1)割り当て、2)租税介入、3)為替レート

8.5 非定常状態の分析 ・外国との知識ギャップを埋める
知識フロンティアにある国のイノベーション政策は、キャッチアップ国のそれとは異なる
・フォロアーであること、そのものが最適であることもある。

8.6 競争の不完全性
・学習が重要である市場は、不完全競争になりやすく、価格は平均費用と限界費用よりも高くなる(再掲:5章)
・トレードオフが、異時点間で生じる

8.7 おわりに
・国が学習する最善の方法が貿易である——
・ワシントンコンセンサス批判(257)
比較優位の変化(260)
・比較優位はかわらない(260)が、韓国のように変わることもある。
・工業部門を促進させ学習経済と学習社会を構築することが重要。


このページは、その著作を教材にして(インターネッ トのさまざまな知識リソースを利用して)自分で、その精神を身に付けることを目的として、解放/開放されたサイトである。

さて、これは、スティグリッツによるケネス・アロー(Kenneth Joseph Arrow, 1921-2017)を顕彰する連続公演から出発する。ケネス・アローの業績は、社会的選択論、一般均衡理論、内生的成長理論、情報の経済学(=情報の非 対称性があっても市場が働くような市場の付加的構造の創造)など多岐にわたる。

まずは、章立てをみていこう:

第1部 学習する社会を創造する:(本書の副題):基本概念と諸分析

1.学習革命(ラーニング革命):The Learning Revolution

2.学習(ラーニング)の重要性について:On the Importance of Learning

3.学習(ラーニング)エコノミー:A Learning Economy

4.学習(ラーニング)を促進する企業と学習を促進 する環境の構築:Creating a Learning Firm and a Learning Environment

5.市場構造・厚生・学習:Market Structure, Welfare, and Learning

6.シュンペーター的競争の厚生経済学:The Welfare Economics of Schumpeterian Competition

7.閉鎖経済における学習:Learning in a Closed Economy

8.幼稚経済保護論——学習を促進する環境での貿易 政策:The Infant-Economy Argument for Protection: Trade Policy Trade Policy in a Learning Environment

第2部 学習社会の政治学

9.学習する社会構築における産業貿易政策の役割: The Role of Industrial and Trade Policy in Creating a Learning Society

10.金融政策と学習社会の構築: Financial Policy and Creating a Learning Society

11.学習する社会のためのマクロ経済政策と投資政 策:Macroeconomic and Investment Policies for a Learning Society

12.知的所有権:Intellectual Property

13.社会変革と学習社会の構築:Social Transformation and the Creation of a Learning Society

14.あとがき:Concluding Remarks

1.学習革命(ラーニング革命):The Learning Revolution GG-SI-2017-2015_Part1.pdf JSBG_CR_LER_SOC_2015_Part1.pdf
2.学習(ラーニング)の重要性について:On the Importance of Learning

3.学習(ラーニング)エコノミー:A Learning Economy GG-SI-2017-2015_Part2.pdf
4.学習(ラーニング)を促進する企業と学習を促進 する環境の構築:Creating a Learning Firm and a Learning Environment
JSBG_CR_LER_SOC_2015_Part2.pdf
5.市場構造・厚生・学習:Market Structure, Welfare, and Learning

6.シュンペーター的競争の厚生経済学:The Welfare Economics of Schumpeterian Competition GG-SI-2017-2015_Part3.pdf
7.閉鎖経済における学習:Learning in a Closed Economy

8.幼稚経済保護論——学習を促進する環境での貿易 政策:The Infant-Economy Argument for Protection: Trade Policy Trade Policy
in a Learning Environment

JSBG_CR_LER_SOC_2015_Part3.pdf
9.学習する社会構築における産業貿易政策の役割: The Role of Industrial and Trade Policy in Creating a Learning Society

10.金融政策と学習社会の構築: Financial Policy and Creating a Learning Society GG-SI-2017-2015_Part4.pdf
11.学習する社会のためのマクロ経済政策と投資政 策:Macroeconomic and Investment Policies for a Learning Society

12.知的所有権:Intellectual Property GG-SI-2017-2015_Part5.pdf
13.社会変革と学習社会の構築:Social Transformation and the Creation of a Learning Society

14.あとがき:Concluding Remarks

脚注(途中から)

JSBG_CR_LER_SOC_2015_Part4.pdf


日本語版への序文

・日本に必要なことは新しい産業政策。iv

・日本のジレンマ:製造物で培った能力を、他の分野 に回せない。スティグリッツ先生の課題、1)地球温暖化、2)人口の高齢化、3)格差拡大。iv

・国の成否を決めるのは、1)動学的比較優位、2) 人や研究への投資、3)ラーニング。iv

・規制のない市場は、情報・イノベーション・知識社 会での成功には結びつかない。

    1. GG-SI-2017-2015_Part1.pdf
    2. GG-SI-2017-2015_Part2.pdf
    3. GG-SI-2017-2015_Part3.pdf
    4. GG-SI-2017-2015_Part4.pdf
    5. GG-SI-2017-2015_Part5.pdf

Creating a learning society : a new approach to growth, development, and social progress / Joseph E. Stiglitz and Bruce C. Greenwald, New York : Columbia University Press , c2015 . -  (Kenneth J. Arrow lecture series)

CHARTING A NEW COURSE FOR GROWTH:  Recommendations for Japan’s Leaders (PDF), by ACCJ

リンク

文献

その他の情報

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