第三部 感情の起源および本性について[De Origine et Natura
Affectuum]定理40
simple is best
定理40
自分が他人から憎まれていると表象し、しかも自分は憎まれる何の原因もその人に与えなかったと信ずる者は、その人を憎み返すであろう。
証明
人が憎しみに刺激されていることを表象する者はそのことによって自分も同様に憎しみに刺激されるであろう(この部の定理37により)。言いかえれば彼は
(この部の定理13の備考により)外部の原因の観念を伴った悲しみに剌激されるであろう。ところが彼自身は(仮定により)自分を憎んでいる人以外にこの悲
しみの何の原因も表象しない。ゆえに彼は、自分がある人から憎まれていると表象することによって、自分を憎む人の観念を伴った悲しみに刺激されるであろ
う。すなわち( 同じ備考により)その人を憎むであろう。Q.E.D.
備考
もし彼が憎しみに対する正当な原因を与えたことを表象するならば、彼は(この部の定理30およびその備考により)恥辱に刺激されるであろう。だがこうしたことは(この部の定理35により)稀にしか起こらない。
なおこの憎み返しは、憎しみにはその憎む相手に害悪を加えようとする努力がつきものだということからも生じうる(この部の定理三九により)。すなわち、他
人から憎まれることを表象する者は、その人をある害悪または悲しみの原因として表象するであろう。したがって彼は自分を憎む人をその原因として意識した悲
しみまたは恐怖に剌激されるであろう。言いかえれば、上述のごとく、その人を憎み返すであろう。Q.E•D.
系一
自分の愛する人が自分に対して憎しみを感じていると表象する者は、同時に憎しみと愛とに捉われるであろう。なぜなら、自分かその人から憎まれると表象する
限り彼はその人を憎み返すように決定される(前定理により)。ところが彼は(仮定により)その人をそれにもかかわらず愛している。ゆえに彼は同時に憎しみ
と愛とに捉われるでろう。
系二
もしある人が、前に自分がいかなる感情もいだいていなかった他人から憎しみのゆえにある害悪を加えられたことを表象するなら、彼はただちに同じ害悪をその他人に報いようと努めるであろう。
証明
他人か自分に対して憎しみを感じていると表象する者はその人を憎み返すであろう(前定理により)。そして(この部の定理26により)その人を悲しみに刺激
しうるあらゆることを案出しようと努め、かつそれをその人に(この部の定理39により)加えようと励むであろう。ところが(仮定により)この種のことに関
して彼の表象に浮かぶ第一のことは、彼自身に加えられた害悪である。ゆえに彼は同じものをただちにその人に加えようと努めるであろう。Q.E.D.
備考
我々の憎む者に対して害悪を加えようとする努力は怒りと呼ばれる。また我々に対して加えられた害悪に報いようとする努力は復讐と称される。
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