はじめによんでください
研究資金申請書における捏造(原著:17)
Discovering an Error in the CFP/ Fabrication in a Grant Proposal
研究資金申請書における捏造(原著:17)——A Guide to Responsible Conduct in Research、からの事例
大学院の1年目を終えたばかりの夏樹(Natsuki)は、ドクターコースの学生対象の奨学金を米国科学財団に申請中である。彼の所属する研究室においては 交代で研究計画を推進しており、その研究は次に交代した研究者によって成功し、夏の終わりまでには発表用の論文原稿が完成する見込みになった。しかし、奨 学金の申請締切は6月1日であり、夏樹はこの論文を「進行中」とするより「投稿中」としてリストにあげるのが有利だと考えた。その研究に関与した教室 のスタッフや同僚に相談もせず、夏樹は「投稿中」としてその論文の標題や著者リストを書き、申請書で引用した。
研究申請書:CFP, Contingency Funding Plan(なぜコンティンジェンシー=臨時の「資金調達計画(Funding Plan)なのか?——それは通常の大学校費の研究費とはことなり当選すれば「臨時」の歳入になるからです!)
申請書が送られた後で研究室の同僚がそれを見つけ、「投稿中」の論文原稿について指導教官に問いただした。夏樹は、論文を投稿中とするの は虚偽であることを認めたが、そのようなことは科学においてはふつうのことだと思っていた、と釈明した。
夏樹の教室の教員たちは、夏樹に奨学金申請を取り下げ、大学院から去るよう命じた。
1.ふつう研究者が書類に研究成果の出版状況を書く際、夏樹のいうように誇張して書いていると思うか?
2.夏樹を大学院から追放した教室は、あまりに厳しすぎると思うか?
3.もし、夏樹が後にほかの研究機関の大学院プログラムに応募した場合、その研究機関は何が起こったかを知る権利があるだろうか?
4.夏樹の助言者が申請書を提出する前に検討したとすると、どのような責任があるだろうか?
Fabrication in a Grant Proposal
Natsuki, who has just finished his first year of graduate school, is applying to the National Science Foundation for a predoctoral fellowship. His work in a lab where he did a rotation project was later carried on successfully by others, and it appears that a manuscript will be prepared for publication by the end of the summer. However, the fellowship application deadline is June 1, and Natsuki decides it would be advantageous to list a publication as “submitted” rather than “in progress.” Without consulting the faculty member or other colleagues involved, Natsuki makes up a title and author list for a “submitted” paper and cites it in his application.
After the application has been mailed, a lab member sees it and goes to the faculty member to ask about the “submitted” manuscript. Natsuki admits to fabricating the submission of the paper but explains his actions by saying that he thought the practice was not uncommon in science. The faculty members in Natsuki’s department demand that he withdraw his grant proposal and dismiss him from the graduate program.
1.Do you think that researchers often exaggerate the publication status of their work in written materials?
2.Do you think the department acted too harshly in dismissing Natsuki from the graduate program?
3.If Natsuki later applied to a graduate program at another institution, does that institution have the right to know what happened?
4.What were Natsuki’s adviser’s responsibilities in reviewing the application before it was submitted?
● 考え方のヒント(池田による)
夏樹への処罰の重さを感じて大学院のやり方が酷すぎると思う人は、夏樹が科学研究の 領域において「誠実であることの原則」について十分理解できていない可能性があります。[→「研究倫理の3つの公理」を今一度よく読んでください]
夏樹は、投稿準備中と投稿中の2つの行為が示す根本的な違いについて理解がなさすぎま す。なぜでしょう?
投稿中は、学会誌などの編集部に送って、原稿受領の電子メールや郵便書留や宅配便などの書類 の受け渡しなど「証拠があるものです」。それに対して「投稿準備中」は、まだ論文草稿を一字も書かなくても、また実験データがほとんどなくても名乗ること もできます。ということは、投稿準備中は、ほとんどそのことについて考えているという以上の社会的意味を持たないことになります。
そのような2つのカテゴリーの区分ができなくても、夏樹は単純に「嘘」を言っている事に なります。嘘を容認する組織は、嘘を認めることになるわけですから、そのことに対して処罰をされることは厳しいのです。剽窃についても、同様です。
「剽窃(ひょうせつ)とは、他人の考えや主張をことわりもなしに盗むことです」[出典]
夏樹を放逐した大学院が、将来彼が改めて別の大学院応募した時に、その組織からの照会に 応じるかどうかは意見が分かれるところです。照会に応じないのは「プライバシーの保護」という観点ですが、前の大学院は、なぜ放逐されたということについ て説明することに対して先方の大学院に進んで情報提供をする必要はありませんが、かつての夏樹は、研究者集団に対する背任をしたと考えると、その情報 照会に応じることは「公益の有害情報の共有」が夏樹のプライバシー秘匿よりも重要であることも考えられます。
それ以上に、夏樹は新たに応募した大学院が、前の大学での出来事について不審に思い、説 明を求められた時に、決して嘘をいうことは許されません。
以上のようなことから、研究上において、たとえ軽微でだれも知らないからいいだろうという思 いこみで、嘘をつくことの代償は想定以上に大きいことを、感じてください。
●出典:(教科書)
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、東京:化学同人、2010年
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition Committee on Science, Engineering, and Public Policy, National Academy of Sciences, National Academy of Engineering, and Institute of Medicine ISBN: 0-309-11971-5, 82 pages, 6 x 9, (2009) This free PDF was downloaded from:
http://www.nap.edu/catalog/12192.html
レクチャー
教科書
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、化学同人、2010年(原著はインターネットで講読できます:下記のリンク参 照)
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition
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