はじめによんでください
十字路にたつキャリア(原著:22)
A Career in the Balance
十字路にたつキャリア(原著:22)
博士論文をあと数ヵ月で完成させる段階になって、春樹(Peter)は同級生の草太(原文ではJimmy)の研究について何かおかしいと感じ始めていた。春樹は、草太 自身は測定したといっているけれど、実際には測定していないと確信するようになった。(a)二人は同じ実験室を使っていたが、草太はほとんどそこにいたことが なかったのだ。また(b)春樹は、草太の実験材料が開封されないまま放っておかれているのを何度も見ている。それに、草太が指導教官に提出した結果は、(c) あまりにきれいに整いすぎて本物とは思えなかったのである。
やっかいなことに、春樹が学部スタッフかポスドクのポストを得るためには、指導教官に推薦書を頼まなければならない。もし今草太の問題 をもちだせば、きっと推薦書に悪影響をおよぼすだろう。草太は指導教官のお気に入りで、彼の研究テーマが難関にさしかかると教官は何度も手助けしてい た。しかしここで春樹が問題を先送りにしたとしても、「草太を疑い始めたのはいつからか」という問題が必ず生じてくることもわかっていた。その理由 は、春樹の研究も指導教官の研究も草太の結果と関連しており、もし草太の結果が正しくなければ、2人ともできるだけ早くそれを知る必要があるから だ。
1.春樹が彼の指導教官に相談するためには、どのような証拠がなければならないか?
2.春樹が最初に相談すべきは、草太だろうか、彼の指導教官だろうか、それともまったく無関係の第三者だろうか?
3.春樹がどうすべきかを決めるうえで役立つ情報は、ほかに何かあるだろうか?
A Career in the Balance
Peter was just months away from finishing his Ph.D. dissertation when he realized that something was seriously amiss with the work of a fellow graduate student, Jimmy. Peter was convinced that Jimmy was not actually making the measurements he claimed to be making. They shared the same lab, but Jimmy rarely seemed to be there. Sometimes Peter saw research materials thrown away unopened. The results Jimmy was turning in to their common thesis adviser seemed too clean to be real.
Peter knew that he would soon need to ask his thesis adviser for a letter of recommendation for faculty and postdoctoral positions. If he raised the issue with his adviser now, he was sure that it would affect the letter of recommendation. Jimmy was a favorite of his adviser, who had often helped Jimmy before when his project ran into problems. Yet Peter also knew that if he waited to raise the issue, the question would inevitably arise as to when he first suspected problems. Both Peter and his thesis adviser were using Jimmy’s results in their own research. If Jimmy’s data were inaccurate, they both needed to know as soon as possible.
1.What kind of evidence should Peter have to be able to go to his adviser?
2.Should Peter first try to talk with Jimmy, with his adviser, or with someone else entirely?
3.What other resources can Peter turn to for information that could help him decide what to do?
[コメント]
1.春樹が彼の指導教官に相談するためには、どのような証拠がなければならないか?
春樹の確信を証明するためには、客観的証拠が必要である。それは、草太の研究倫理上に関する申し入れがあくまでも客観的なもので あり、個人攻撃になっていないことが必要だからである。
2.春樹が最初に相談すべきは、草太だろうか、彼の指導教官だろうか、それともまったく無関係の第三者だろうか?
草太が腹蔵なく春樹と話せる仲でなければ(状況説明や文脈からみると問題が生じた時には利害が衝突する可能性があるからだ)、メ ンターがその最初の相談相手になる。それは両名の研究をもっともよく理解しているからであり、状況に際して、もっとも冷静に行動しなければならない責任者 でもあるからだ。無関係の第三者は、その文脈を理解するには、一定の知識と情報を収集する必要があるので、最初の選択肢には含まれない。
3.春樹がどうすべきかを決めるうえで役立つ情報は、ほかに何かあるだろうか?
以前、ラボノートの効用について説明した。ラボノートは、研究者にとって自らの不正を犯すことを防いでくれるユースティティア(正義の女神:Lady Justice) であり、また他者から疑義をもたれた時には、自分の実験記録の正当性を保証する書類になることは間違いはない。
●出典:(教科書)
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、東京:化学同人、2010年
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition Committee on Science, Engineering, and Public Policy, National Academy of Sciences, National Academy of Engineering, and Institute of Medicine ISBN: 0-309-11971-5, 82 pages, 6 x 9, (2009) This free PDF was downloaded from:
http://www.nap.edu/catalog/12192.html
レクチャー
教科書
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、化学同人、2010年(原著はインターネットで講読できます:下記のリンク参 照)
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition
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