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実験プロトコルの変更(原著:26)
A Change of Protocol
実験プロトコルの変更(原著:26)
柚月(ゆずき)はがん治療を研究するラボでポスドクとして働いている。彼女が行っている実験では、がんにかかりやすいハツカネズミの家系に目に見える腫 瘍を発症させ、そして腫瘍治療の効果をみるために実験試薬を与えている。
柚月(ゆずき)は、腫瘍によってハツカネズミの食べたり飲んだりする能力が阻害される場合があることに気づいた。また彼女は、ハツカネズミのあるものは ほかのものより弱くてやせ細っていることにも気づき、それはそれらのネズミが餌をうまく摂ることができないためだろうと推測した。実験のプロトコルには、 ハツカネズミが明らかな痛みや不快の兆候を見せたときのみ手当てをすると書かれている。
彼女が仲間のポスドクに自分の心配していることを話すと、彼は研究室のほかの者にはその問題をいわないよううながした。ハツカネズミは実験が 終わるとただちに安楽死させられるだろうし、おそらくネズミの栄養状態はほとんど、あるいはまったく薬品の効果に影響しないだろう。さらに、もし実験のプ ロトコルを変更することが必要だとわかったら、これまでの仕事がまったく無意味になるし、研究所の動物管理・使用委員会に知らせなければならない。
1.柚月(ゆずき)は、この問題に関する情報をもっと得るためにはどうすればよいだろうか?
2.彼女がこの問題をほかの者に提起すると決めたとして、その最善の方法は何だろうか?
3.もともとのプロトコルは承認されるべきではなかったのだろうか?
A Change of Protocol
Hua is doing a postdoctoral fellowship in a laboratory that studies cancer treatment. In the experiment she is overseeing, a cancer-prone strain of mice is allowed to develop visible tumors and then receives experimental drugs to observe the effects on the tumors.
Hua notices that the tumors are interfering with the ability of some of the mice to eat and drink. She also notices that some of the mice are weaker and more emaciated than the others, which she suspects is a consequence of their feeding difficulties. The protocol for the experiment states that the mice will be treated only if they exhibit obvious signs of pain or discomfort.
When she mentions her concerns to another postdoctoral fellow, he suggests not raising the issue with the rest of the lab. The mice will be euthanized as soon as the experiment is over, and their nutritional status probably has little or no effect on the drug treatment. Furthermore, if it proved necessary to change the experimental protocol, the previous work would be invalidated and the Institutional Animal Care and Use Committee would need to be notified.
1.What can Hua do to get more information about the issue?
2.If she decides to raise the issue with others, what is the best way to do so?
3.Should the original protocol have been approved?
[考え方]
1.柚月(ゆずき)は、この問題に関する情報をもっと得るためにはどうすればよいだろうか?
柚月(ゆずき)が考える「腫瘍によってハツカネズミの食べたり飲んだりする能力が阻害される」ことの客観的説明が必要。また、研究所の動物管理・使用 委員会が想定する実験動物への取り扱い方に関する倫理コードやプロトコルであり、柚月(ゆずき)が扱っている動物がその手続きが必要な状態であることについての客観 的説明の有無に関する情報。
2.彼女がこの問題をほかの者に提起すると決めたとして、その最善の方法は何だろうか?
彼女の同僚のポスドクの態度決定と柚月(ゆずき)への秘密の隠蔽指示は、柚月(ゆずき)の心配が杞憂であった——直ちに安楽死の該当ケースではない——として も、同僚のやり方は、研究における倫理的規範を逸脱すれすれの助言——なぜなら隠蔽は仮に不正義であれば破壊的状況を引き起こすゆえ——であり、他の者へ の助言を考えるのは当然である。物事をより正確に伝えるためには、柚月(ゆずき)は上記(1.)の情報収集をしておく必要が生じるかもしれない。
3.もともとのプロトコルは承認されるべきではなかったのだろうか?
プロトコルは、想定外の出来事に対処するものではないので、場合によっては中断や実験計画の変更もあり得ることは、研究倫理の遂行上いたし かたのないことである。そのような身近な倫理的行為の積み重ねが、研究の公正にとって重要な役割を果たしているとすれば。
● 出典:(教科書)
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、東京:化学同人、2010年
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition Committee on Science, Engineering, and Public Policy, National Academy of Sciences, National Academy of Engineering, and Institute of Medicine ISBN: 0-309-11971-5, 82 pages, 6 x 9, (2009) This free PDF was downloaded from:
http://www.nap.edu/catalog/12192.html
レクチャー
教科書
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、化学同人、2010年(原著はインターネットで講読できます:下記のリンク参 照)
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099