商業的営利チャンス(原著:42)
A Commercial Opportunity?
商業的営利チャンス(原著:42)
池田君は常にバイオインフォマテイクスに興味をもっており、彼が属する微生物遺伝学研究室のみんなが役立つと思ってくれるプログラムを書くこ とに自由時間を使おうと決めていた。彼はまず、大学が提供してくれたコンピュータにインストールされていた一般的な表計算ソフトを使って、ひと夏じゅうか かってプログラムを書き、表計算ソフトと彼自身のプログラムを結合したバンドルとして個人のWeb ページにそれをアップした。さらに1 年間かかって、彼のプログラムを使った研究室の仲間から得たフィードバックも参考にして、数回プログラムを改善した。
学会で、彼は、ほかの研究室の研究者が彼のプログラムパッケージをダウンロードして使い始めていることを知り、また友人からも、企業で彼のプ ログラムを使っている研究者を知っていると告げられた。この問題が学部の会議で提起されたとき、池田君の研究助言者は、池田君が大学の技術移転局とその商 業利用について相談するべきだと述べた。その助言者は、「結局、君が拒否しても、企業がおそらくそれをコピーして売って、君が苦労してつくったものから利 益を得ることになるだろう」というのである。
技術移転局の所長は、別の問題を非常に心配しているようで、あった。池田君が、使用許可に違反してみんなに表計算ソフトを配布してきたという 事実である。 「君がつくったものについては君は権利をもっているが、この表計算ソフトを販売している会社もまた権利をもっている。商業的利用について相談する前にこの ことについて話し合っておく必要がある」と所長は述べた。
1.元の表計算ソフトの開発者に対し、池田君にはどのような責務があるのだろうか? また、池田君に表計算ソフトとンピュータを提供した大学に対する責務はどうだろうか?
2.他人がつくったソフトを基礎にして作成したプログラムを商業化しようとするときの長所・短所は何だろうか?
3.池田君が学位論文作成中にビジネスを始めようとすれば、どのような利害対立や実行上の困難があるだろうか?
A Commercial Opportunity?
Ikeda was always interested in bioinformatics and decided to use some of his free time to write a program that others in his microbial genetics laboratory would find useful. Starting with a popular spreadsheet program on his university-provided computer, he wrote the program over the summer and posted it on his personal Web page as a bundle that combined the spreadsheet program and his own program. Over the next academic year, he improved his program several times based partly on the feedback he got from the people in his laboratory who were using it.
At national meetings, he discovered that researchers in other laboratories had begun to download and use his program package, and friends told him that they knew of researchers who were using it in industry. When the issue arose in a faculty meeting, Ikeda’s faculty adviser told him that he should talk with the university’s technology transfer office about commercializing it. “After all,” his adviser said, “if you don’t, a company will probably copy it and sell it and benefit from your hard work.”
The director of the technology transfer office was much more concerned about another issue: the fact that Ikeda had been redistributing the spreadsheet in violation of its license. “You do have rights to what you created, but the company that sells this spreadsheet also has rights,” he said. “We need to talk about this before we talk about commercialization.”
1.What obligations does Ikeda have to the developer of the original spreadsheet program? To the university that provided the spreadsheet and computer?
2.What are the pros and cons of trying to commercialize a program that is based on another's product?
3.What conflicts and practical difficulties might Ikeda encounter if he tries to operate a business while working on his dissertation?
コメント
1.この問題の解決は、池田君と彼の上司と、そして大学の技術移転局の三者の間での話し合いがきわめて重要になるケースである。
2.まず、池田君がアップロードした表計算ソフトの開発者ならびにその利益の帰属する会社に対して利益の侵害あるいは社会的利益の分配という問 題がある。
3.大学のコンピュータとソフトウェアを利用している点で、その研究開発の場を提供した大学も利益に与る権利があると主張する可能性もある。そ れは、池田君が大学という研究環境ではじめて成し遂げられたという〈知財のインキュベーター〉としての機能も考えられるべきである。
4.しかしながら、この問題の解決は上記の3者が誠実かつ真剣に話しあえば済む問題ではない。なぜなら、我々も無自覚に了承している、ソフト ウェアの許諾条件と、池田君が利益を主張できる範囲をこの三者が誰も知らないことがある。三者会談は、ソフトウェアの利用約款をよく読んで対処する必要が ある。
● 出典:(教科書)
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、東京:化学同人、2010年
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition Committee on Science, Engineering, and Public Policy, National Academy of Sciences, National Academy of Engineering, and Institute of Medicine ISBN: 0-309-11971-5, 82 pages, 6 x 9, (2009) This free PDF was downloaded from:
http://www.nap.edu/catalog/12192.html
レクチャー
教科書
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、化学同人、2010年(原著はインターネットで講読できます:下記のリンク参 照)
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1997-2099