はじめによんでください

先住民の諸権利の国連宣言とアイヌ民族の位置

The Ainu Indigenous Peoples of Japan and The United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples (UNDRIP)


このページは、「先住民の権利に関 する国際連合宣言(2007)」に照らして、アイヌ民族はきちんと、日本政府が承認した「先住民の権利に関する国際連合宣言」 を国内の政治、ならびに国外への態度表明としてきちんと履行しているか。また、日本国内において、アイヌ民族を研究対象とする国内外の研究者たちが、きち んとアイヌ民族に対する、先住民と研究倫理上の契約をきちんと履行しているかどうかをモニターするために、その関連資料を提示することを目的としていま す。

先住民の権利に関する国際連合宣言(先住 民族を先住民に変えています→先住民の諸権利の国連宣言(2007)

先住民の権利に関する国際連合宣言(仮訳) 国連総会第 61 会期 2007 年 9 月 13 日採択 (国連文書 A/RES/61/295 付属文書)
アイヌ(樺太アイヌを含む)ならびに琉球民族と協働しておこなう研究倫 理に関するチェック項目(出典はこちら
先住民1の権利に関する国際連合宣言(仮訳) 国連総会第 61 会期 2007 年 9 月 13 日採択(国連文書 A/RES/61/295 付属文書)

 【前文第 1 段落】
 総会は、国際連合憲章の目的および原則、ならびに憲章に従い国家が負っている義務の履行における信義誠実に導かれ、
 【前文第 2 段落】すべての民族が異なることへの権利、自らを異なると考える権利、および異なる者として尊重される権利を有することを承認するとともに、先住民が他の すべての民族と平等であることを確認し、
 【前文第 3 段落】すべての民族が、人類の共同遺産を成す文明および文化の多様性ならびに豊かさに貢献することもまた確認し、
 【前文第 4 段落】国民的出自または人種的、宗教的、民族的ならびに文化的な差異を根拠として民族または個人の優越を基盤としたり、主唱するすべての教義、政策、慣行 は、人種差別主義であり、科学的に誤りであり、法的に無効であり、道義的に非難すべきであり、社会的に不正であることをさらに確認し、

 1 原語の“Indigenous Peoples”は、国連憲章、市民的及び政治的権利に関する国際規約および経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の共通第 1 条において自己決定権を有する人民の意で使用されている。 2(文中のアラビア数字は脚注あるいはソースpdfのページ番号として現れる)

 【前文第 5 段落】先住民は、自らの権利の行使において、いかなる種類の差別からも自由であるべきことをまた再確認し、
 【前文第 6 段落】先住民は、とりわけ、自らの植民地化とその土地2、領域3および資源の奪取の結果、歴史的な不正義によって苦しみ、したがって特に、自身のニーズ (必要性)と利益に従った発展に対する自らの権利を彼/女らが行使することを妨げられてきたことを懸念し、
 【前文第 7 段落】先住民の政治的、経済的および社会的構造と、自らの文化、精神的伝統、歴史および哲学に由来するその生得の権利、特に土地、領域および資源に対する 自らの権利を尊重し促進させる緊急の必要性を認識し、
 【前文第 8 段落】条約や協定、その他の国家との建設的取決めで認められた先住民の権利を尊重し促進する緊急の必要性をさらに認識し、 2 個人の所有と取引の対象となる近代的土地所有権とは異なり、そこに住む民族と精神的なつながりを持ち、分かつことのできない結びつきを持った大地を指す概 念。 3 先住民の生活空間全般を指し、土地、海域、水域およびその上空を含む広範な空間概念。 3
【前文第 9 段落】先住民が、政治的、経済的、社会的および文化的向上のために、そしてあらゆる形態の差別と抑圧に、それが起こる至る所で終止符を打つために、自らを 組織しつつあるという事実を歓迎し、
 【前文第 10 段落】先住民とその土地、領域および資源に影響を及ぼす開発に対する先住民による統制は、彼/ 女らが、自らの制度、文化および伝統を維持しかつ強化すること、そして自らの願望とニーズ(必要性)に従った発展を促進することを可能にすると確信し、
 【前文第 11 段落】先住民の知識、文化および伝統的慣行の尊重は、持続可能で衡平な発展と環境の適切な管理に寄与することもまた認識し、
 【前文第 12 段落】先住民の土地および領域の非軍事化の、世界の諸国と諸民族の間の平和、経済的・社会的進歩と発展、理解、そして友好関係に対する貢献を強調し、
 【前文第 13 段落】先住民の家族と共同体が、子どもの権利と両立させつつ、自らの子どもの養育、訓練、教育および福利について共同の責任を有する権利を特に認識し、
 【前文第 14 段落】 4 国家と先住民との間の条約、協定および建設的な取決めによって認められている権利は、状況によって、国際的な関心と利益、責任、性質の問題であることを考 慮し、
 【前文第 15 段落】条約や協定、その他の建設的な取決め、ならびにそれらが示す関係は、先住民と国家の間のより強固なパートナーシップ(対等な立場に基づく協働関係) の基礎であることもまた考慮し、
 【前文第 16 段落】国際連合憲章、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、そして市民的及び政治的権利に関する国際規約、ならびにウィーン宣言および行動計画 が、すべての民族の自己決定の権利ならびにその権利に基づき、彼/女らが自らの政治的地位を自由に決定し、自らの経済的、社会的および文化的発展を自由に 追求することの基本的な重要性を確認していることを是認し、
 【前文第 17 段落】本宣言中のいかなる規定も、どの民族に対しても、国際法に従って行使されるところの、その自己決定の権利を否認するために利用されてはならないこと を心に銘記し、
 【前文第 18 段落】本宣言で先住民の権利を承認することが、正義と民主主義、人権の尊重、非差別と信義誠実の原則に基づき、国家と先住民の間の調和的および協力的な 5 関係の向上につながることを確信し、
 【前文第 19 段落】国家に対し、先住民に適用される国際法文書の下での、特に人権に関連する文書に関するすべての義務を、関係する民族との協議と協力に従って、遵守し かつ効果的に履行することを奨励し、
 【前文第 20 段落】国際連合が先住民の権利の促進と保護において演じるべき重要かつ継続する役割を有することを強調し、
 【前文第 21 段落】本宣言が、先住民の権利と自由の承認、促進および保護への、そしてこの分野における国際連合システムの関連する活動を展開するにあたっての、更なる 重要な一歩前進であることを信じ、
 【前文第 22 段落】先住民である個人は、差別なしに、国際法で認められたすべての人権に対する権利を有すること、およびその民族としての存立や福祉、統合的発展にとっ て欠かすことのできない集団としての権利を保有していることを認識かつ再確認し、
 【前文第 23 段落】先住民の状況が、地域や国によって異なること、ならびに国および地域的な 6 特性の重要性と、多様な歴史的および文化的背景が考慮されるべきであることもまた認識し、
 【前文第 24 段落】以下の、先住民の権利に関する国際連合宣言を、パートナーシップ(対等な立場に基づく協働関係)と相互尊重の精神の下で、達成を目指すべき基準とし て厳粛に宣言する。

 第 1 条 【集団および個人としての人権の享有】先住民は、集団または個人として、国際連合憲章、世界人権宣言および国際人権法に認められたすべての人権と基本的自 由の十分な享受に対する権利を有する。

 第 2 条 【平等の原則、差別からの自由】先住民および個人は、自由であり、かつ他のすべての民族および個人と平等であり、さらに、自らの権利の行使において、いか なる種類の差別からも、特にその先住民としての出自あるいはアイデンティティ(帰属意識)に基づく差別からも自由である権利を有する。

 第 3 条 【自己決定権】 先住民は、自己決定の権利を有する。この権利に基づき、先住民は、自らの政治的地位を自由に決定し、ならびにその経済的、社会的および文化的発展を自由に 追求する。 7

第 4 条 【自治の権利】先住民は、その自己決定権の行使において、このような自治機能の財源を確保するための方法と手段を含めて、自らの内部的および地方的問題に 関連する事柄における自律あるいは自治に対する権利を有する。

 第 5 条 【国政への参加と独自な制度の維持】先住民は、国家の政治的、経済的、社会的および文化的生活に、彼/女らがそう選択すれば、完全に参加する権利を保持す る一方、自らの独自の政治的、法的、経済的、社会的および文化的制度を維持しかつ強化する権利を有する。

 第 6 条 【国籍に対する権利】すべての先住民である個人は、国籍/民族籍に対する権利を有する。

 第 7 条 【生命、身体の自由と安全】 1. 先住民である個人は、生命、身体および精神的一体性4、自由ならびに安全に対する権利を有する。 2. 先住民は、独自の民族として自由、平和および安全のうちに生活する集団的権利を有し、 集団からの別の集団への子どもの強制的引き離しを含む、ジェノサイド(特定の集団を対象とした大量虐殺)行為または他のあらゆる暴力行為にさらされてはな らない。

 第 8 条 【同化を強制されない権利】 1. 先住民およびその個人は、強制的な同化または文化の破壊にさらされない 4 原語の “integrity”は、「人間が一体の存在として損なわれていないこと」の意。 8 権利を有する。 2. 国家は以下の行為について防止し、是正するための効果的な措置をとる: (a) 独自の民族としての自らの一体性、その文化的価値観あるいは民族的アイデンティティ(帰属意識)を剥奪する目的または効果をもつあらゆる行為。 (b) 彼/女らからその土地、領域または資源を収奪する目的または効果をもつあらゆる行為。 (c)彼/女らの権利を侵害したり損なう目的または効果をもつあらゆる形態の強制的な住民移転。 (d) あらゆる形態の強制的な同化または統合。 (e) 彼/女らに対する人種的または民族的差別を助長または扇動する意図をもつあらゆる形態のプロパガンダ(デマ、うそ、偽りのニュースを含む広報宣伝)。

 第 9 条 【共同体に属する権利】先住民およびその個人は、関係する共同体または民族5の伝統と慣習に従って、先住民の共同体または民族に属する権利を有する。いか なる種類の不利益もかかる権利の行使から生じてはならない。

 第 10 条 【強制移住の禁止】先住民は、自らの土地または領域から強制的に移動させられない。関係する先住民の自由で事前の情報に基づく合意なしに、また正当で公正 な補償に関する合意、そして可能な場合は、帰還の選択肢のある合意の後でなければ、いかなる転住も行われない。 5 原語の“nation”は、先住民の国家を指す場合もある。 9

第 11 条 【文化的伝統と慣習の権利】 1. 先住民は、自らの文化的伝統と慣習を実践しかつ再活性化する権利を有する。これには、考古学的および歴史的な遺跡、加工品、意匠、儀式、技術、視覚芸術お よび舞台芸術、そして文学のような過去、現在および未来にわたる自らの文化的表現を維持し、保護し、かつ発展させる権利が含まれる。 2. 国家は、その自由で事前の情報に基づく合意なしに、また彼/女らの法律、伝統および慣習に違反して奪取されたその文化的、知的、宗教的およびスピリチュア ル(霊的、超自然的)な財産に関して、先住民と連携して策定された効果的な仕組みを通じた、原状回復を含む救済を与える。

 第 12 条 【宗教的伝統と慣習の権利、遺骨の返還】 1. 先住民は、自らの精神的および宗教的伝統、慣習、そして儀式を表現し、実践し、発展させ、教育する権利を有し、その宗教的および文化的な遺跡を維持し、保 護し、そして私的にそこに立ち入る権利を有し、儀式用具を使用し管理する権利を有し、遺骨6の返還に対する権利を有する。 2. 国家は、関係する先住民と連携して公平で透明性のある効果的措置を通じて、儀式用具と遺骨のアクセス(到達もしくは入手し、利用する)および/または返還 を可能にするよう努める。

 第 13 条 【歴史、言語、口承伝統など】 1. 先住民は、自らの歴史、言語、口承伝統、哲学、表記方法および文学を再 6 原語の“human remains”は、遺髪など、骨以外の遺体全体を含む概念である。 10 活性化し、使用し、発展させ、そして未来の世代に伝達する権利を有し、ならびに独自の共同体名、地名、そして人名を選定しかつ保持する権利を有する。 2. 国家は、この権利が保護されることを確保するために、必要な場合には通訳の提供または他の適切な手段によって、政治的、法的、行政的な手続きにおいて、先 住民が理解できかつ理解され得ることを確保するために、効果的措置をとる。

 第 14 条 【教育の権利】 1. 先住民は、自らの文化的な教育法および学習法に適した方法で、独自の言語で教育を提供する教育制度および施設を設立し、管理する権利を有する。 2. 先住民である個人、特に子どもは、国家によるあらゆる段階と形態の教育を、差別されずに受ける権利を有する。 3. 国家は、先住民と連携して、その共同体の外に居住する者を含め先住民である個人、特に子どもが、可能な場合に、独自の文化および言語による教育に対してア クセス(到達もしくは入手し、利用)できるよう、効果的措置をとる。

 第 15 条 【教育と公共情報に対する権利、偏見と差別の除去】 1. 先住民は、教育および公共情報に適切に反映されるべき自らの文化、伝統、歴史および願望の尊厳ならびに多様性に対する権利を有する。 2. 国家は、関係する先住民と連携および協力して、偏見と闘い、差別を除去し、先住民および社会の他のすべての成員の間での寛容、理解および良好な関係を促進 するために、効果的措置をとる。 11

第 16 条 【メディアに関する権利】 1. 先住民は、独自のメディアを自身の言語で設立し、差別されずにあらゆる形態の非先住民メディアへアクセス(到達もしくは入手し、利用)する権利を有する。 2. 国家は、国営メディアが先住民の文化的多様性を正当に反映することを確保するため、 効果的措置をとる。国家は、完全な表現の自由の確保を損なうことなく、民間のメディアが先住民の文化的多様性を十分に反映することを奨励すべきである。

 第 17 条 【労働権の平等と子どもの労働への特別措置】 1. 先住民である個人および先住民は、適用可能な国際および国内労働法の下で確立されたすべての権利を全面的に享受する権利を有する。 2. 国家は、先住民の子どもたちを経済的搾取から保護するため、および危険性があり、もしくは子どもの教育を阻害したり、子どもの健康もしくは肉体的または精 神的、スピリチュアル(霊的、超自然的)、道徳的もしくは社会的な発達に対して有害であると思われるようないかなる労働にも従事しないよう保護するため、 彼/女らが特に弱い存在であることと、そのエンパワメント(能力・権利の強化)のために教育が重要であることを考慮に入れつつ、先住民と連携および協力し 特別な措置をとる。 3. 先住民である個人は、労働や、特に雇用、または給与のいかなる差別的条件にも従わせられない権利を有する。 12

第 18 条 【意思決定への参加権と制度の維持】先住民は、自らの権利に影響を及ぼす事柄における意思決定に、自身の手続きに従い自ら選んだ代表を通じて参加し、先住 民固有の意思決定制度を維持しかつ発展させる権利を有する。

 第 19 条 【影響する立法・行政措置に対する合意】国家は、先住民に影響を及ぼし得る立法的または行政的措置を採択し実施する前に、彼/女らの自由で事前の情報に基 づく合意を得るため、その代表機関を通じて、当該の先住民と誠実に協議し協力する。

 第 20 条 【民族としての生存および発展の権利】 1. 先住民は、自らの政治的、経済的および社会的制度または機関を維持しかつ発展させる権利、生存および発展の独自の手段の享受が確保される権利、ならびに自 らのすべての伝統的その他の経済活動に自由に従事する権利を有する。 2. 自らの生存および発展の手段を剥奪された先住民は、正当かつ公正な救済を得る権利を有する。

 第 21 条 【経済的・社会的条件の改善と特別措置】 1. 先住民は、特に、教育、雇用、職業訓練および再訓練、住宅、衛生、健康、ならびに社会保障の分野を含めて、自らの経済的および社会的条件の改善に対する権 利を差別なく有する。 2. 国家は、彼/女らの経済的および社会的条件の継続した改善を確保すべく効果的な措置および、適切な場合は、特別な措置をとる。先住民の高齢者、女 13 性、青年、子ども、および障がいのある人々の権利と特別なニーズ(必要性)に特別な注意が払われる。

 第 22 条 【高齢者、女性、青年、子ども、障がいのある人々などへの特別措置】 1. この宣言の実行にあたって、先住民の高齢者、女性、青年、子ども、そして障がいのある人々の権利と特別なニーズ(必要性)に特別の注意が払われる。 2. 国家は、先住民と連携して、先住民の女性と子どもがあらゆる形態の暴力と差別に対する完全な保護ならびに保障を享受することを確保するために措置をとる。

 第 23 条 【発展の権利の行使】先住民は、発展に対する自らの権利を行使するための優先事項および戦略を決定し、発展させる権利を有する。特に、先住民は、自らに影 響を及ぼす健康、住宅、その他の経済的および社会的計画を展開し決定することに積極的に関わる権利を有し、可能な限り、自身の制度を通じてそのような計画 を管理する権利を有する。

 第 24 条 【伝統医療と保健の権利】 1. 先住民は、必要不可欠な医療用の動植物および鉱物の保存を含む、自らの伝統医療および保健の実践を維持する権利を有する。先住民である個人は、また、社会 的および保健サービスをいかなる差別もなく利用する権利を有する。 2. 先住民である個人は、到達し得る最高水準の身体的および精神的健康を享受する平等な権利を有する。国家はこの権利の完全な実現を漸進的に達成する 14 ため、必要な措置をとる。

 第 25 条 【土地や領域、資源との精神的つながり】先住民は、自らが伝統的に所有もしくはその他の方法で占有または使用してきた土地、領域、水域および沿岸海域、そ の他の資源との自らの独特な精神的つながりを維持し、強化する権利を有し、これに関する未来の世代に対するその責任を保持する権利を有する。

 第 26 条 【土地や領域、資源に対する権利】 1. 先住民は、自らが伝統的に所有し、占有し、またはその他の方法で使用し、もしくは取得してきた土地や領域、資源に対する権利を有する。 2. 先住民は、自らが、伝統的な所有権もしくはその他の伝統的な占有または使用により所有し、あるいはその他の方法で取得した土地や領域、資源を所有し、使用 し、開発し、管理する権利を有する。 3. 国家は、これらの土地と領域、資源に対する法的承認および保護を与える。そのような承認は、関係する先住民の慣習、伝統、および土地保有制度を十分に尊重 してなされる。

 第 27 条 【土地や資源、領域に関する権利の承認】国家は、関係する先住民と連携して、伝統的に所有もしくは他の方法で占有または使用されたものを含む先住民の土地 と領域、資源に関する権利を承認し裁定するために、公平、独立、中立で公開された透明性のある手続きを、先住民の法律や慣習、および土地保有制度を十分に 尊重しつつ設立し、かつ 15 実施する。先住民はこの手続きに参加する権利を有する。

 第 28 条 【土地や領域、資源の回復と補償を受ける権利】 1. 先住民は、自らが伝統的に所有し、または占有もしくは使用してきた土地、領域および資源であって、その自由で事前の情報に基づいた合意なくして没収、収 奪、占有、使用され、または損害を与えられたものに対して、原状回復を含む手段により、またはそれが可能でなければ正当、公正かつ衡平な補償の手段により 救済を受ける権利を有する。 2. 関係する民族による自由な別段の合意がなければ、補償は、質、規模および法的地位において同等の土地、領域および資源の形態、または金銭的な賠償、もしく はその他の適切な救済の形をとらなければならない。

 第 29 条 【環境に対する権利】 1. 先住民は、自らの土地、領域および資源の環境ならびに生産能力の保全および保護に対する権利を有する。国家は、そのような保全および保護のための先住民の ための支援計画を差別なく作成し実行する。 2. 国家は、先住民の土地および領域において彼/女らの自由で事前の情報に基づく合意なしに、有害物質のいかなる貯蔵および廃棄処分が行われないことを確保す るための効果的な措置をとる。 3. 国家はまた、必要な場合に、そのような物質によって影響を受ける民族によって策定されかつ実施される、先住民の健康を監視し、維持し、そして回復するため の計画が適切に実施されることを確保するための効果的な措置をとる。 16

第 30 条 【軍事活動の禁止】 1. 関連する公共の利益によって正当化されるか、もしくは当該の先住民による自由な合意または要請のある場合を除いて、先住民の土地または領域で軍事活動は行 われない。 2. 国家は、彼/女らの土地や領域を軍事活動で使用する前に、適切な手続き、特にその代表機関を通じて、当該民族と効果的な協議を行う。

 第 31 条 【遺産に対する知的財産権】 1. 先住民は、人的・遺伝的資源、種子、薬、動物相・植物相の特性についての知識、口承伝統、文学、意匠、スポーツおよび伝統的競技、ならびに視覚芸術および 舞台芸術を含む、自らの文化遺産および伝統的文化表現ならびに科学、技術、および文化的表現を保持し、管理し、保護し、発展させる権利を有する。先住民は また、このような文化遺産、伝統的知識、伝統的文化表現に関する自らの知的財産を保持し、管理し、保護し、発展させる権利を有する。 2. 国家は、先住民と連携して、これらの権利の行使を承認しかつ保護するために効果的な措置をとる。

 第 32 条 【土地や領域、資源に関する発展の権利と開発プロジェクトへの事前合意】 1. 先住民は、自らの土地または領域およびその他の資源の開発または使用のための優先事項および戦略を決定し、発展させる権利を有する。 2. 国家は、特に、鉱物、水または他の資源の開発、利用または採掘に関連して、彼/女らの土地、領域および他の資源に影響を及ぼすいかなる事業の承認にも 17 先立ち、先住民自身の代表機関を通じ、その自由で情報に基づく合意を得るため、当該先住民と誠実に協議かつ協力する。 3. 国家は、そのようないかなる活動についての正当かつ公正な救済のための効果的仕組みを提供し、環境的、経済的、社会的、文化的またはスピリチュアル(霊 的、超自然的)な負の影響を軽減するために適切な措置をとる。

 第 33 条 【アイデンティティと構成員決定の権利】 1. 先住民は、自らの慣習および伝統に従って、そのアイデンティティ(帰属意識)もしくは構成員を決定する集団としての権利を有する。このことは、先住民であ る個人が、自らの住む国家の市民権を取得する権利を害しない。 2. 先住民は、自身の手続きに従って、その組織の構造を決定しかつその構成員を選出する権利を有する。

 第 34 条 【慣習と制度を発展させ維持する権利】先住民は、国際的に承認された人権基準に従って、自らの組織構造およびその独自の慣習、精神性、伝統、手続き、慣 行、および存在する場合には司法制度または慣習を促進し、発展させ、かつ維持する権利を有する。

 第 35 条 【共同体に対する個人の責任】先住民は、自らの共同体に対する個人の責任を決定する権利を有する。

 第 36 条 【国境を越える権利】 1. 先住民、特に国境によって分断されている先住民は、スピリチュアル(霊的、超自然的)、文化的、政治的、経済的および社会的な目的のための活動を含 18 めて、国境を越えて他の民族だけでなく自民族の構成員との接触、関係および協力を維持しかつ発展させる権利を有する。 2. 国家は、先住民と協議および協力して、この権利の行使を助長し、この権利の実施を確保するための効果的な措置をとる。

 第 37 条 【条約や協定の遵守と尊重】 1. 先住民は、国家またはその継承者と締結した条約、協定および他の建設的取決めを承認し、遵守させ、実施させる権利を有し、また国家にそのような条約、協定 および他の建設的取決めを遵守し、かつ尊重させる権利を有する。 2. この宣言のいかなる規定も、条約や協定、建設的な取決めに含まれている先住民の権利を縮小または撤廃するものと解されてはならない。

 第 38 条 【国家の履行義務と法整備】国家は、本宣言の目的を遂行するために、先住民と協議および協力して、立法措置を含む適切な措置をとる。

 第 39 条 【財政的・技術的援助】先住民は、本宣言に掲げる権利の享受のために、国家からおよび国際協力を通じての資金的および技術的な援助を利用する権利を有す る。

 第 40 条 【権利侵害に対する救済】先住民は、国家もしくはその他の主体との紛争および争議の解決のための相互に正当かつ公正な手続きを利用し、迅速な決定を受ける 権利を有し、また自らの個人的および集団的権利のすべての侵害に対する効果的な救済を受ける権 19 利を有する。そのような決定には、当該先住民の慣習、伝統、規則、法制度および国際人権を十分に考慮しなければならない。

 第 41 条 【国際機関の財政的・技術的援助】国際連合システムの機関および専門機関ならびにその他の政府間機関は、特に、資金協力および技術援助の動員を通じて、本 宣言の条項の完全実現に寄与するものとする。先住民に影響を及ぼす問題に関して、その参加を確保する方法と手段を確立する。

 第 42 条 【宣言の実効性のフォローアップ】国際連合および先住民問題に関する常設フォーラムを含む国連機関、各国に駐在するものを含めた専門機関ならびに国家は、 本宣言の条項の尊重および完全適用を促進し、本宣言のフォローアップ(追跡措置)を行う。

 第 43 条 【最低基準の原則】本宣言で認められている権利は、世界の先住民の生存、尊厳および福利のための最低限度の基準をなす。

 第 44 条 【男女平等】ここに承認されているすべての権利と自由は、男性と女性の先住民である個人に等しく保障される。

 第 45 条 【既存または将来の権利の留保】本宣言中のいかなる規定も、先住民が現在所有している、もしくは将来取 20 得しうる権利を縮小あるいは消滅させると解釈されてはならない。

 第 46 条 【主権国家の領土保全と政治的統一、国際人権の尊重】

 1. 本宣言のいかなる規定も、いずれかの国家、民族、集団あるいは個人が、国際連合憲章に反する活動に従事したり、またはそのような行為を行う権利を有するこ とを意味するものと解釈されてはならず、もしくは、主権独立国家の領土保全7または政治的統一を全体的または部分的に、分断しあるいは害するいかなる行為 を認めまたは奨励するものと解釈されてはならない。

2. 本宣言で明言された権利の行使にあたっては、すべての者の人権と基本的自由が尊重される。本宣言に定める権利の行使は、法律によって定められかつ国際人権 上の義務に従った制限にのみ従う。そのような制限は無差別のものであり、もっぱら他者の権利と自由への相応の承認と尊重を確保する目的であって、民主的な 社会の公正でかつ最も切実な要求に合致するためだけに厳密に必要なものでなければならない。

3. 本宣言に定められている条項は、正義、民主主義、人権の尊重、平等、非差別、よき統治、および信義誠実の原則に従って解釈される。

 【市民外交センター仮訳 2008 年 7 月 31 日】改訂 2008 年 9 月 21 日 7 原語は “territorial integrity”。その他の部分では “territory” をすべて「領域」と訳したが、この部分については「領土保全」が日本語訳として定着しているため、「領土」とした。




□ 国連憲章、世界人権宣言、国際人権法で定められる 人権と基本的自由を尊重している(第1条)——これは人間を対象とする調査研究に遵用されるルールである。

□ 出自またはアイデンティティによる差別をうけない 権利(第2条)——先住民であるという出自やアイデンティティは当事者の意識をもっとも尊重する。

□ 自決の権利、政治的地位の決定、経済的社会的文化 的発展を自由に追求する権利(第3条)——自決の権利を侵害していないか、それらの発展の自由追求権を侵害していないか?

□ 自律または自治の権利(第4条)——自決・自律・ 自由の追求に対して先住民当事者に対して意見の強制を求めてはならない。

□ 帰属する国への参加の権利を保有すると同時に、自 己の独自の政治的・法的・経済的・社会的・文化的制度の維持と強化をする権利(第5条)——学問的見地からといえども、制度の維持と強化をする権利を侵害 してはならない。

□ 国籍に対する権利を有する(第6条)——国籍への 帰属という個人的権利に介入してはならない。

□ 健全であることが保障され、あらゆる暴力から自由 になり安全にすごせる個人ならびに集団的権利を有する(第7条)——先住民が被ってきた虐殺・疫病蔓延・政治経済的搾取・政治的弾圧などの歴史的暴力につ いて客観的証拠やコンセンサスがある場合、それを否定する意見の強要があってはならない。

□ 同化への強制や文化破壊がなされない権利を有する (第8条)——同化や統合、文化破壊、土地や資源の収奪、あらゆるタイプの強制や人口移動、差別の煽動などを助長するような調査研究はいかなる理由があろ うと容認されない。

□ 先住民が保有する伝統および習慣に従い、また、そ の権利を有する(第9条)——伝統および習慣の文化的尊重や、それらの権利を有することへの尊厳の維持

□ 事前の同意なしの強制移動の禁止(第10条)—— 先住民がそこにとどまることの自己決定権の尊重

□ 伝統および慣習の実践や再活性化する権利、表現行 為の尊重、文化的・知的、宗教的、精神的財産の保全と尊重ならびに救済(第11条)——当事者の実践行為や解釈・理解行為の尊重

□ 上記の伝統および慣習の実践や再活性化する権利に 加えて、宗教的・文化的場所の尊重、立入権の尊重、儀礼用具の管理権、遺体および遺骨の返還にかんする権利(第12条)——それらの権利請求に応諾し、助 力する研究倫理上の遵守

□ 文化的表現行為の尊重、それらの再活性化への支援 (第 13条)——これらの行為に対する実践人類学的な自発的応答性の必要

□ その文化や慣習にしたがった教育や学習の権利、教 育制度の整備、教育における差別解消と平等な権利、子供への母語教育の機会を設けることなど(第14条)——これらの行為に対する実践人類学的な自発的応 答の必要

□ 文化・伝統・歴史・願望の尊厳と多様性の尊重と、 それらが教育と公的情報のなかに適切に反映され・報道される権利、差別と戦い、(全体)社会の構成員からの寛容と理解、善隣関係が促進される権利と、(全 体)社会の側の義務(第15条)——これらの行為に対する実践人類学的な自発的応答性の必要

□ 固有の言語による報道機関の確立、それに加えて国 が所有する報道機関が文化的多様性を正しく反映させる義務(第16条)——これらの行為に対する実践人類学的な自発的応答性の必要

□ 労働に関する国際法ならびに国内法が定めるすべて の権利が十分に享有されること。子供の教育の尊重のみならず、子供の暴力的搾取や労働からの保護(第17条)——調査で知り得た情報を適切にフィードバッ クする研究倫理上の確立

□ 固有の意思決定制度(先住民議会や司法制度を想 定)の尊重(第18条)——調査研究における客観性の担保

□ 国が先住民個人や共同体に影響を与える際の、立法 上ならびに行政上の措置(第19条)——調査研究における客観性の担保

□ 政治的制度、経済的発展のための固有の手段とその 行使の尊重、またそれらの手段を奪われた先住民族への公平な救済措置(第20条)——これらの行為に対する実践人類学的な自発的応答の必要【以下同様】

□ 教育・雇用・職業訓練などの人的資質を向上するた めの権利、住居・衛生環境、健康維持などの福利追求の権利の保障。女性と児童・青年の保護等(第21条)

□ 高齢者、女性、青年、子供、障害者の権利、彼/彼 女らに対する措置の義務。女性と子供に振るわれる暴力と差別から守る義務(第22条)

□ 福利の選択に関する自己決定権、選択する順序を決 定する権利、それらの政策に関して参画する権利(第23条)

□ 伝統的な医薬、天然資源、健康な環境を保全される のみならず、それをらを追求する権利と国家がそれに必要な措置をおこなう義務(第24条)

□ 伝統的に占有してきた土地、領域、水域、沿岸海 域、その他の資源と独自の精神的関係の維持や強化に関する権利(第25条)

□ 土地と資源に関する権利(第26条)

□ 土地と資源に関する利用などをさだめた独自の規則 を維持・発展させるための権利(第27条)

□ 上掲への侵害に関する原状回復や救済をうける権利 (第 28条)

□ 環境の関する権利、有害物質の貯蔵や、それらにま つわる健康被害に関する国の救済義務(第29条)

□ 自分たちの領域を、自由で平等のもとでの合意なし に、国がおこなう軍事訓練や軍事活動として利用されない権利(第30条)

□ 伝統的知識や意匠の権利(第31条)

□ 資源利用の自己決定権(第32条)

□ 先住民機関の構成と、構成員を選出する権利(第 33条)

□ 人権に関する国際基準にしたがって、伝統的な慣行 と司法制度の創設に関する権利(第34条)

□「先住民族は、その共同体に対する個人の責任を決定する権利を有する」 (第 35条)

□ 上記の権利と国や国際社会の擁護義務を定めた規約 と理念、規約の性格などを定めた条文等(第36条〜第46条)
Source: https://www.un.org/esa/socdev/unpfii/documents/DRIPS_japanese.pdf
アイヌ民族と文化人類学研究の現在


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