日本におけるワクチン忌避と反ワクチン
Vaccine hesitancy in Japan
☆ 「ワクチン忌避/反ワクチン」 入門:ワクチン接種のためらい(表題は:ワクチン忌避と反ワクチン:Vaccine hesitancy)とは、ワクチンサービスや裏付けとなる証拠があるにもかかわらず、ワクチンの受け入れが遅れ たり、拒否したりすることである。この言葉には、ワクチン接種を拒否する、ワクチンを延期する、ワクチンは受け入れるがその使用については不確かなままに しておく、特定のワクチンは使用するが他のワクチンは使用しない、などが含まれる。ワクチンに関連した副作用が観察されることもあるが、ワクチンが一般的 に安全で有効であるという科学的コンセンサスは圧倒的である。ワクチン接種のためらいは、しばしばワクチンで予防可能な疾患による疾病の発生や死亡につな がる。そのため、世界保健機関(WHO)はワクチン接種のためらいを世界的な健康上の脅威のトップ10のひとつと位置づけている。 ワクチンへのためらいは、ワクチンがどのようにつくられ、どのように作用するのかについての科学的根拠に基づいた適切な知識や理解の欠如、注射針への恐怖 や公的機関への不信感、自信のなさ(ワクチンや医療従事者への不信感)、自己満足(ワクチンの必要性を感じない、ワクチンの価値を見出せない)、利便性 (ワクチンへのアクセス)などの心理的要因によって左右される。ワクチン接種の発明以来存在し、「ワクチン」や「予防接種」という用語が作られるよりも 80年近く前に存在していた。
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反ワクチンがイデオロギーになると「反ワクチン主義」になる:「反ワクチン主義」はワクチン接種に全面的に反対することを意味し、近年では反ワクチン主義
者は「反ワクチン論者(anti-vaxxers)」または
「反ワクチン論者(anti-vax)」として知られている。反ワクチン論者によって提起される具体的な仮説は時代とともに変化することが分かっている。
反ワクチン運動やフリンジ医師によって流布される神話、陰謀論、誤報、偽情報は、ワクチン接種をためらわせ、ワクチンに関する医学的、倫理的、法的問題を
めぐる一般市民の議論を引き起こすが、主流派の医学界や科学界では、ワクチン接種の利点について深刻なためらいや議論はない。
カリフォルニア州上院法案277やオーストラリアのノー・ジャブ・ノー・ペイなど、ワクチン接種を義務化する法律案は、反ワクチン活動家や団体によって反
対されている。ワクチン接種義務化への反対は、反ワクチン感情、市民的自由の侵害やワクチン接種に対する社会的信頼の低下への懸念、製薬業界による利益供
与への疑念に基づいている可能性がある(→「ワクチン忌避/反ワクチン」より)。
東
京大学の研究(2024年2月5日プレスリリース) |
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人はなぜワクチン反対派になるのか
―コロナ禍におけるワクチンツイートの分析― 発表のポイント ◆ コロナ禍で初めてワクチン反対派になった人の特徴を分析し、陰謀論やスピリチュアリティに傾倒している人がワクチン反対派になりやすく、さらに参政党への 支持を高めた可能性を示した。 ◆ ワクチン反対派などの特徴を分析した研究は多く存在するが、本研究ではどのようにワクチン反対派に転じるに至ったかを時系列的な分析に基づいて明らかに し、さらにその政治的含意も示した。 ◆ 公衆衛生に対する脅威となりうる反ワクチン的態度の拡散を食い止めるための手がかりが得られ、将来のパンデミックに対して重要な教訓を得た。 【作図】パンデミックを経て新たに高い反ワクチン的傾向を持つようになったアカウントの特徴 東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫教授と、同大学未来ビジョン研究センターの榊剛史客員研究員、早稲田大学小林哲郎教授、筑波大学吉田光男准教授ら による研究グループは、コロナ禍におけるワクチンに関する大量のツイートを機械学習を用いて分析し、新たにワクチン反対派になる人の特徴を明らかにした。 コロナ禍以前からワクチン反対派であった人々は政治への関心が高くリベラル政党とのつながりが強いのに対して、コロナ禍で初めてワクチン反対派になった人 々は政治への関心は薄い一方で、陰謀論やスピリチュアリティ、自然派食品や代替医療への関心が強く、これらのトピックへの関心がワクチン反対派になるきっ かけとなっていることを示した。さらに、新規にワクチン反対派になった人々は既存政党との結びつきが弱い一方、反ワクチンを掲げた参政党との結びつきを急 速に強め、このことが2022年参院選における参政党の議席獲得につながった可能性についても明らかにした。既存研究はワクチン反対派の特徴を記述する研 究が主流であったが、本研究はワクチン反対派になるきっかけを明らかにした点に新規性がある。さらに、将来のパンデミック再来に備えて、陰謀論やスピリ チュアリティに対して警戒をすることが反ワクチン的態度の拡散防止に有効であるという示唆を得た点で大きな社会的意義がある。 発表内容 〈研究の背景〉 新型コロナウイルスによるパンデミック下では、反ワクチン的態度が集団免疫の獲得を妨げ、公衆衛生に対する脅威になる。そこで反ワクチン的態度を持つ人々 の特徴を記述する研究が蓄積されつつあるが、なぜ人がワクチン反対派になるのかという「きっかけ」に関する知見は不足していた。さらに、ワクチン反対派は 特定の政党や政治家と結びつくことで政治的なインパクトを持ちつつあり、日本においても反ワクチン的態度の拡散がどのような政治的含意を持つのかを明らか にする必要があった。そこで本研究は、コロナ禍におけるワクチンに関する大量のツイートを分析することで、反ワクチン的態度を持つことになる「きっかけ」 を明らかにし、さらにパンデミック下で新たにワクチン反対派になった人々が特定の政党を支持する傾向を強めたことで、ワクチン反対派が政治的に代表される ようになるプロセスについても明らかにした。 〈研究の内容〉 本研究はまず、2021年1月から12月までに収集された「ワクチン」を含む約1億件のツイートを収集し、機械学習を用いて「ワクチン賛成ツイート」「ワ クチン政策批判ツイート」「ワクチン反対ツイート」の3クラスタを抽出した。次に、「ワクチン反対ツイート」を多くつぶやいたりリツイートしているアカウ ントを特定し、「ワクチン反対ツイート拡散アカウント」として定義した。そして、「ワクチン反対ツイート拡散アカウント」を多くフォローしているユーザを 「ワクチン反対派」として定義した。 分析は主に3つの視点から行われた。第1に、ワクチン賛成派と反対派を比較し、反対派の特徴を明らかにした。第2に、コロナ禍以前から反対派であったユー ザとコロナ禍以降に新規に反対派になったユーザを比較し、新規に反ワクチン的態度を持つようになったユーザの特徴からワクチン反対派になる「きっかけ」を 明らかにした。第3に、政党やその党首のアカウントのフォロー率を分析することで、新規にワクチン反対派になったユーザの政治的特徴を明らかにした。 第1の分析からは、ワクチン反対派は賛成派と比べて政治的関心が強いことが明らかになった。右派的な傾向を見せるユーザもいるが、リベラルな傾向を見せる ユーザの方が多数派を占める。一方、ワクチン賛成派はワクチンに関するツイートやリツイートはしているものの、主にゲームやアニメなど私的な趣味への関心 が強く、政治への関心は弱かった(図1)。 【作図】図1:反ワクチン傾向が高いアカウントと低いアカウントの比較 第2の分析からは、コロナ禍以前からワクチン反対派であったユーザは特に政治的関心が強くリベラルな傾向を見せるのに対して、コロナ禍以降にワクチン反対 派になったユーザは政治的な傾向が弱いことが明らかになった。一方、コロナ禍以降にワクチン反対派になったユーザは陰謀論やスピリチュアリティに関する単 語がツイッターのプロフィール文に頻繁に表れることが明らかになった。例としては「三浦春馬」「集団ストーキング」「テクノロジー犯罪」「波動」「宇宙」 「スピリチュアル」「柔軟剤」などが挙げられる。したがって、コロナ禍以降に新規にワクチン反対派になった人々は陰謀論やスピリチュアリティに対する関心 がきっかけとなって反ワクチン的態度を持つようになった可能性が示唆される。 第3の分析からは、コロナ禍以前からワクチン反対派であったユーザは立憲民主党やれいわ新選組、日本共産党のアカウントをフォローする率が高いのに対し て、コロナ禍以降に新規にワクチン反対派になった人々はこうした既存の政党をフォローする傾向が弱いことがわかった。しかし、コロナ禍以降に新規にワクチ ン反対派になった人々は2022年3月から9月にかけて参政党のアカウントをフォローする率が急上昇しており、陰謀論やスピリチュアリティをきっかけとし て反ワクチン的態度を持ち、さらに反ワクチンを掲げる参政党への支持を高めた可能性が示唆された。 これらの結果は、コロナ禍における新たなワクチン反対派は政治的な傾向をベースにしたものではなく、陰謀論やスピリチュアリティをきっかけとしたものであ ることを示している。しかし、いったん反ワクチン的態度を持つようになると、反ワクチンを掲げる参政党への支持を強め、このことが2022年参院選におけ る参政党の議席獲得に貢献した可能性がある。実際、参政党は国際ユダヤ資本などの陰謀論、「風の時代」などのスピリチュアリティ関連語を選挙キャンペーン 中に用いており、こうしたトピックに関心を持つ人々に支持を訴えていた。このことは、陰謀論やスピリチュアリティをきっかけにワクチン反対派が国政におい て代表されるに至るプロセスを示している。 〈今後の展望〉 陰謀論やスピリチュアリティそのものは直接的に政治的含意を持たない場合もあるが、これらがゲートウェイとなって反ワクチン的態度を持つようになる人がい ることが明らかになった。将来的なパンデミックにおける公衆衛生の維持のためには、陰謀論やスピリチュアリティが反ワクチン的態度の拡散につながらないよ うに、その連関を断つような方法論が求められるだろう。また、本研究はツイートの観察的研究であり、因果効果について厳密な検証はできていない。この点に ついては実験や社会調査を組み合わせた分析が必要となる。 発表者 東京大学 大学院工学系研究科 鳥海 不二夫 教授 未来ビジョン研究センター 榊 剛史 客員研究員 早稲田大学政治経済学術院 小林 哲郎 教授 筑波大学ビジネスサイエンス系 吉田 光男 准教授 論文情報 雑誌名:Journal of Computational Social Science 題 名:Anti-vaccine rabbit hole leads to political representation: the case of Twitter in Japan 著者名:*Fujio Toriumi, *Takeshi Sakaki, *Tetsuro Kobayashi, *Mitsuo Yoshida DOI:10.1007/s42001-023-00241-8 URL:https://doi.org/10.1007/s42001-023-00241-8 研究助成 本研究は、JSPS 科研費若手研究(課題番号:21K17859、19K20413)、JST 未来社会創造事業(JPMJMI20B4)、JST RISTEX(JPMJRX20J3)の支援により実施されました。 |
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山本輝太郎と石川幹人「ワクチン有害説を科学的に評価する」ファルマシ ア 55(11)1024 https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/55/11/55_1024/_pdf より「おわりに」より抜粋 | ■以上,科学性評定の 10 条件に基づきワクチン有
害説の科学性を評価した.少なくとも現時点におい
て,ワクチン有害説は理論の適応範囲に大きな問題
を抱えており,データの面からもこれを支持する有
力な根拠はない.因果関係と相関関係の錯誤や反証
不可能な構図も見られ,議論の歴史は長いが社会的
な有用性を見いだすことは難しい.典型的な疑似科
学的言説といえ,科学性評定の 10 条件の理解把握
によってこうした評価が可能となる.なお我々は,
10 条件の評価に基づき総評として「科学」「発展途
上の科学」「未科学」「疑似科学」の 4 段階にまとめ
ているが,疑似科学はその中で最低ランクである.
■ワクチン有害説を退けるには,科学か疑似科学か の評価を(簡易的にでも)個々人が行えるようになる ことが望ましい.そのためには,科学哲学の複雑な 概念の整理や専門的な用語への理解を促すための工 夫が必要だろう.そこで我々の研究グループでは, 科学性評定の 10 条件の中心概念を解説するオンラ イン教材を開発し,一般市民の科学リテラシー向上 を目指している.教材はウェブサイト上で公開して いるため,詳しい議論についてはそちらを参照して ほしい.10) ワクチン接種の意義を理解するために は例えば,表 1 のように四分割してメリット/デメ リットを比較することが重要である.こうした比較 の考え方を促す教材も公開している. ■最後に,認知科学と経済学の統合による功績で ノーベル経済学賞を受賞した Daniel Kahneman に よると,「人々は病気に自然罹患して死ぬよりも, ワクチンの副反応によって死ぬことを恐れる傾向が ある」とのことである.21) ワクチンを接種したのに 死ぬという結果が導き出された場合,そのワクチン を受けさせた親,兄弟にとっては「ワクチンを打た せたから死んだ」という決定が悔恨の中心となり, 精神的苦痛が与えられる,というヒトの認知プロセ スへの言及である.ワクチン有害説に対しては,科 学性評定の 10 条件の理解に加え,こうしたヒトの 認知的なメカニズムにまで踏み込んだ議論も有効で はないかと考えている. |
世界最大のワクチン信頼度調査:日本は「反ワクチン」国?——メディカルオンライン |
背景 反ワクチン運動が広がっている中、現在まで最大の世界各国住民のワクチン信頼度調査が行われた。英国London School of Hygiene & Tropical MedicineのLarsonらによるもので、2015年9月~2019年12月に行われた149ヶ国(284,381名)を対象とした290件の調査 データを使用し、ワクチンの安全性・重要性、・有効性への各国住民の信頼度を分析した。 結論 2015年11月~2019年12月に、ワクチンの重要性・安全性・有効性に対する信頼度がアフガニスタン・インドネシア・パキスタン・フィリピン・韓国 で低下した。アフガニスタン・アゼルバイジャン・インドネシア・ナイジェリア・パキスタン・セルビアの6ヶ国で、2015~2019年の間にワクチンが安 全であることに強く反対する回答者が大幅に増加した。フィンランド・フランス・アイルランド・イタリアを含む一部のEU加盟国では、2018~2019年 に信頼度が向上したが、ポーランドでは低下した。ワクチンの重要性(安全性・有効性でなく)への信頼が、ワクチン接種実施と最も強く関連した。個人の宗教 的信念とワクチン接種の間に関連性がある場合には、少数派宗教の信者でワクチン接種率が低かった。 評価 ワクチンが安全と答えた割合の最高3国はアルゼンチン(89.4%)・リベリア(86.1%)・バングラディッシュ(86.1%)、最低3国は日本 (8.9%)・フランス(8.9%)・モンゴル(8.1%)であった。日本は有効性に同意する住民の割合も最低レベルであった(14.7%)。衝撃的な結 果である。 |
リ ンク
文 献
そ の他の情報
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