はじめによんでください

非標準的治療を選好する人への権利尊重と制限について

Promotion for or agaist choices of complementary and alternative medicine

池田光穂

このページは、科研費研究「非標準的治療等の 選好の検討を通した多文化にセンシティブなインタラクションの支援21K10325 (加 藤穣・滋賀医科大学教授)の研究の一環としてつくられたものである。

研究 概要

世界中で標準的な治療等が様々な理由に基づいて拒否されるといった問題が生じている。非標準的治療等はしばしば現代医学の医療専門 職から独立して利用されるが、医療専門職者が最善と考える標準的治療等の拒否はこう したサービスが選好されることの直接的な帰結であることが少なくないた め、本研究課題では国内外の先行研究の検討、事例の収集を通して現状を把握したうえで関連分野からの学問分野横断的な検討を加え、医療の拒否と連続的に考 察することで、自律尊重原則を精緻化・豊饒化しつつ、国内外において医療者と患者等がより適切にインタラクションすることを可能にすることを目指す。(出典はこちら

Around the world, there is a growing problem of denial of standard medical care for a variety of reasons. Non-standard treatments are often used independently of the modern medical profession, and the denial of what health professionals consider to be the best standard of care is often a direct consequence of the preference for such services.

すなわち現代医療のなかで、インフォームドコンセントが普及してくると新たな臨床倫理上の課題が生じ る。

それは、非標準的な治療(CAM)を選好する人たちの存在であり、医療者な いしは医療機関は、さまざまな倫理上のジレンマ(Ethical dilemma) を生じることになる。しかし、こ れは臨床倫理だけの問題ではなく、一般的な倫理行為原則の問題に触れる重要な課 題である(→「コミュニケーションを通した介入にまつわる倫理的 問題について」)。

非標準的治療選択のなかに「治療拒否」というものもあるこ とを忘れてはならない。自然治癒でも信仰治療でも、西洋/近代的な医療を選択しないという意味では、治療拒否も含めて「非標準的な治療選択ないしは選好」 であると言えるからである。

非標準的な治療は、標準的な治療方針が真 理であるないしは「正しい」と信じる医療者や医療機関にとっては、やっかいな問題を呈する。それは(医 療者の側からみて)「い わゆる人畜無害」な治療手段を選択すると宣言されても、標準的な治療を並行して利用する患者やその家族にとっては、さほど問題にならない。しかし、患者や その家族の選好する非標準的な治療が、明らかに当人に害をもたらすもの、あるいは、標準的な治療のプロトコールを「阻害」するものであれば、医療者ないし は医療機関は、抱えるケースに、より複雑な配慮を必要とすることになる。

また、患者やその家族にとって、その非標 準的な治療を「有効」とする判断を、医療者ないしは医療機関は認定しないあるいは明確に否定する場合、 一 般的な倫理行為原則として、その患者やその家族の自己決定権を尊重するのか、あるいは何らかの制限をするために「介入」すべきかどうかの判断を求められる ことになる。

また、これは終末期における緩和ケアにお いても重要な課題になる。安楽死(安楽殺)が法令で禁止されている多くの社会では、その選択が「非標準 的な」行為になりうるからである。

代替医療および補完医療(CAM)の場 合、医療者ないしは医療機関が、患者やその家族が、その当該の非標準的な治療を採用する場合には、さらに さまざまなケースがある。また、代替医療および補完医療(CAM)が使われる場合に独特の騙しのレトリックが使われると警鐘するものがある(シンとエルン スト 2010)。

非標 準的治療選択のタイプ
主体
問題 点
対処法あるいは考え方
伝統的医療の選好
・先住民
・市民
・近代医療に対する不信感
・伝統的治療に対する絶大な信頼
・個人的選好
・文化にセンシティブな医療的応用
公衆衛生知識と倫理の準用.
標準的な医療の拒否
・先住民
・市民
・近代医療に対する不信感
・西洋白人に対する歴史的トラウマ(先住民)
・近代医療のアロパシック過剰な世界観
・文化にセンシティブな医療的応用
・訴訟対策
ワクチン接種の拒否
・コロナパンデミック状況下の市民
・医療不審あるいは拒否派
・関係者に犠牲者の存在
・集団免疫概念の知識欠如やリスクの恐怖
・一部の医療専門家による「扇動」
・公衆衛生よりも自律やインフォームドコンセントを優先する
・フェイク情報の流布(COVID-19)
・ジェンダーやセクシュアリティに関する守旧的観念(e.g. HPV vaccine)
・近代医療や政府に対する不信感(歴史的な政策失敗)
・リスク要因分析のためのサーヴェイランス対象化によるブライバシー侵害
・デモなどの威信行為
・ネグレクトかサーヴェイランス対象
・否定反応の他の大衆への膾炙を防ぐ社会啓蒙
・少数者の権利を守る医療者の側への啓蒙
・ラベリングの防止
輸血の拒否
宗教的信者
・厳密な聖書信仰や教団による規制(The Watchtower) (エホバの証人
・未成年に対する親権者の権限への法的介入
・宗教的多様性
・訴訟対策
脳死否定論
・宗教的信者
・合理的否定論者(市民)
・自己の信条にもとづいて本人ならびに家族における脳死の否認
・臓器移植に対する嫌悪や否定(反対)のために、その前提となる脳死を否定することを通して臓器移植を批判する
・ネグレクト
・標準的な治療戦略についての社会啓蒙
治療の拒否
・市民
・医療現場における対人関係の問題以降、選択する治療手段を変える。
・ネグレクト
・パターナリズムによる説得
・訴訟対策
従順を偽装する(=低度コンプラアンス)
・市民
・投薬スケジュールを守らない
・生活規制上のルールを守らない
・ネグレクト
低度コンプライアンスを誇示し続ける ・市民
・個性
・ネグレクト
低度コンプライアンス(=コミュニケーション不足) ・異邦人
・言語コミュニケーション上の問題
・介在する通訳の質の不足
・ネグレクト
メインストリームからみて本人に(フーコー的な)自己管理能力が欠如しているとみなされる当事者の医療選択
・薬物利用者
・アルコール依存症者
パターナリズムか本人の自己決定権(つまり自己責任)を尊重するか?
ハームリダクション
・パターナリズムによる説得
・ダウンサイドリスクを考慮
インフォームドコンセントの非受容だが、絶対的(あるいは盲目的)服従
・市民
・責任放棄か自己責任能力の欠如
・啓蒙
・IC受容の働きかけ
向精神薬拒否グループ
・組織的な市民団体
・宗教的信者
・団体や教派のドグマを信じている
・市民へのプロパガンダ
・ネグレクト
・威信行為や妨害工作への対処

代替医療および補完医療(CAM)否定論の典型

"Whether you are an ardent believer in alternative medicine, a skeptic, or simply baffled by the range of services and opinions, this book lays to rest doubts and contradictions with authority and clarity. In this groundbreaking analysis, more than thirty of the most popular treatments-including acupuncture, homeopathy, aromatherapy, reflexology, chiropractic, and herbal medicines-are examined for their proven benefits and potential dangers. What works and what doesn't? Whom can you trust, and who is ripping you off? While guiding the reader through a wide range of alternative cures, Trick or Treatment hones in on narrative case histories that illustrate the pros and cons of alternative medicine. Ultimately, in its scrutiny of alternative and complementary cures, this book strives to reassert the primacy of the scientific method as a means for determining public health practice and policy." - Simon Singh & Edzard Ernst, Trick or treatment : the undeniable facts about alternative medicine. W.W.Norton & Company, 2008

●AMA Journal of Ethics  のウェブサイト(https://journalofethics.ama-assn.org/home) における "indigenous"のサイト検索の結果の上位10件(2023年1月11日)

Using OCAP and IQ as Frameworks to Address a History of Trauma in Indigenous Health Research
Indigenous people have been studied at great length. To counter deficit-based research that can reinforce stereotypes, the National Aboriginal Health Organization introduced principles of ownership, control, access, and possession (OCAP®) to reduce historical trauma to individuals, families, and communities from research and reporting of findings. A further step in promoting culturally safe and responsible research with Indigenous peoples is to incorporate the Inuit Qaujimajatuqangit, traditional laws and principles that guide a way of life and of knowing. Based on these 2 guides, researchers and scholars should be working with Indigenous peoples to co-develop research rather than merely conducting research on Indigenous populations. By working collaboratively with researchers, Indigenous people can provide input to ensure that a project respects Indigenous culture, language, and knowledges and does not re-ignite or exacerbate historical trauma or further current colonial policies that marginalize and oppress Indigenous peoples.
先 住民族は、これまで非常に長い間研究されてきた。固定観念を強化しかねない欠損に基づく研究に対抗するため、全米先住民保健機構は、研究や調査結果の報告 から個人、家族、コミュニティが受ける歴史的トラウマを軽減するために、所有、管理、アクセス、所有(OCAP®)の原則を導入した。先住民を対象とした 文化的に安全で責任ある研究を推進するためのさらなる一歩は、イヌイットのQaujimajatuqangit(カウジマジャトゥカンギット)と呼ばれる 伝統的な法律や原則を取り入れることである。この2つの指針に基づき、研究者や学者は、単に先住民族に関する研究を行うのではなく、先住民族と協力して研 究を共同開発すべきである。研究者と協力することで、先住民はプロジェクトが先住民の文化、言語、知識を尊重し、歴史的トラウマを再燃させたり悪化させた り、先住民を疎外し抑圧する現在の植民地政策をさらに進めることのないよう、意見を提供することができる。
Arts-Based Research Methods to Explore Cancer in Indigenous Communities
Background: Indigenous peoples experience an inequitable burden of cancer compared with other populations. The arts can serve as a culturally relevant cancer intervention and research method.

Methods: A scoping review was conducted to determine how arts-based research methods have been used to address cancer in Indigenous peoples. Literature searches identified 129 publications; 32 were selected for review. The following data were extracted: communities employing arts-based cancer research, cancer control continuum stages, cancer types, art forms, and methodologies.

Results: Most studies were conducted in the United States. Art as research and sound art forms were the most utilized arts-based methods. Cancer types and control continuum stages were not often specified.

Conclusions: Culturally responsive, arts-based methods can enhance research and education across the cancer-control continuum with Indigenous populations.
背景:先住民のがん罹患率は他の集団に比べて不公平である。芸術は、文 化的に適切ながんの介入および研究方法として役立つ可能性がある

方法: 先住民のがんに対処するために芸術に基づく研究方法がどのように用いられてきたかを明らかにするため、スコープレビューが実施された。文献検索により 129件の出版物が同定され、32件がレビュー用に選択された。以下のデータが抽出された:芸術に基づくがん研究を採用しているコミュニティ、がん対策の 継続段階、がんの種類、芸術の形態、方法論

結果: ほとんどの研究は米国で実施された。研究としての芸術と音響芸術の形態が、芸術に基づく手法として最も利用されていた。がんの種類とコントロールの継続段 階はあまり特定されていなかった:

結論:文化的に対応可能な芸術に基づく方法は、先住民集団のがん-コントロールの連続体にわたって研究と教育を強化しうる。
How Should Allopathic Physicians Respond to Native American Patients Hesitant About Allopathic Medicine?
American Indian (AI) and Indigenous peoples utilize traditional medicine/healing (TM/H) for health and well-being. Allopathic health care practitioners (HCPs) receive minimal training and education on TM/H and its application and integration into health care settings. Lack of knowledge and practice guidelines on how to navigate these 2 health care perspectives (allopathic and traditional) creates uncertainties in the treatment of AI and Indigenous peoples. Such conflicts can undermine patient autonomy and result in culturally incongruent practice. This article presents a case study showcasing suggestions for how HCPs can direct clinical decision making when working with AI/Indigenous patients who utilize TM/H. The article argues that health professions education institutions and HCPs must dedicate effort to expanding awareness of and education about TM/H to enhance the delivery of evidence-based and integrated clinical treatment for AI/Indigenous patients.
ア メリカン・インディアン(AI)と先住民族は、健康と幸福のために伝統医学/ヒーリング(TM/H)を活用している。アロパシーの医療従事者(HCP) は、TM/Hとその医療現場への適用と統合に関する最小限の訓練と教育しか受けていない。これら2つのヘルスケア視点(アロパシーと伝統的)をどのように ナビゲートするかについての知識と実践ガイドラインの欠如は、AIと先住民の治療における不確実性を生み出している。このような対立は患者の自律性を損な い、文化的に不適合な診療をもたらす可能性がある。この論文は、TM/Hを利用するAIや先住民の患者を扱う際に、HCPが臨床的意思決定をどのように指 示できるかについての示唆を示す事例研究を紹介する。本稿は、AI/先住民患者に対するエビデンスに基づく統合的な臨床治療の提供を強化するために、保健 医療専門職教育機関とHCPは、TM/Hに関する認識と教育の拡大に尽力しなければならないと主張する。
Why Restoring Birth as Ceremony Can Promote Health Equity
Until the mid-20th century, birth in the United States for Latinx Indigenous peoples was an ancestral ceremony guided by midwives and traditional healers (parteras curanderas). As American physicians and nurses increasingly differentiated themselves from traditional midwives, midwives of color in particular were disparaged and excluded from helping women give birth and thus from making birth a cultural foothold in their lives. As a result, communities of Latinx Indigenous peoples were culturally and spiritually separated—via the marginalization of parteras—from important health traditions, which caused suffering and illness. Reimplementation of birth as ceremony means babies can be born (and communities reborn) into an ancestral cultural ecology characterized by safety and cultural reclamation of healing.
20 世紀半ばまで、アメリカにおけるラテンアメリカ系先住民の出産は、助産婦や伝統的な治療者(parteras curanderas)によって導かれる先祖伝来の儀式であった。アメリカの医師や看護師が伝統的な助産師との差別化を進めるにつれ、特に有色人種の助産 師は蔑視され、女性の出産を助けることから排除された。その結果、ラテン系先住民のコミュニティは、パルテラ(伝統的助産婦)の疎外によって、重要な健康 の伝統から文化的・精神的に切り離され、苦しみや病気を引き起こした。儀式としての出産の再実施は、安全性と癒しの文化的再生を特徴とする先祖伝来の文化 的生態系に、赤ちゃんが生まれる(そしてコミュニティが生まれ変わる)ことを意味する。
Health of the First Americans
Health of the First Americans (short review)
Policy, Wellness, and Native American Survivorship Native American women and femme-identifying individuals are twice as likely to be sexually assaulted as members of the general population. Given the high prevalence of violence experienced by members of this community, health care professionals and support staff must better understand social determinants of violence, barriers those experiencing violence face when seeking health care, and actions they can take to promote and implement change within systems that improve services.
ア メリカ先住民の女性や女性であることを自認する人々が性的暴行を受ける確率は、一般集団の2倍である。このコミュニティのメンバーが経験する暴力の高い有 病率を考慮すると、医療専門家と支援スタッフは、暴力の社会的決定要因、暴力を経験した人々が医療を求める際に直面する障壁、そしてサービスを改善するシ ステム内の変化を促進し、実施するために取ることができる行動について、よりよく理解する必要がある。
Indigenous Apocalypse and Transgenerational Trauma
The disproportionate negative impact of the COVID-19 pandemic on Native communities is a result of transgenerational traumas—mental and physical—which have been ongoing and developing for centuries. This article considers 19th-century American visual and narrative representations of Native experiences of and responses to transgenerational trauma. This article also suggests ethical implications for Native American health of interpreting those representations and suggests an obligation to look on 19th-century White American artists’ romanticizations of Native experiences with humility.
COVID -19の大流行が先住民コミュニティに与えた不釣り合いな悪影響は、何世紀にもわたって継続・発展してきた精神的・肉体的な世代を超えたトラウマの結果で ある。この論文では、19世紀のアメリカにおける、世代を超えたトラウマに対する先住民の経験と反応に関する視覚的・物語的表現について考察する。また、 これらの表象を解釈することがネイティブ・アメリカンの健康に与える倫理的な意味を示唆し、19世紀の白人アメリカ人アーティストによるネイティブの体験 のロマンティシズムを謙虚に見つめる義務があることを示唆する。
What Does It Mean to Heal From Historical Trauma?
Native American peoples’ health is impacted by structural legacies of settler colonialism, including land dispossession, racism, and poverty. Responding with care to individuals and communities experiencing past and present traumatic stress from genocide and deeply entrenched structural violence means navigating ongoing grief, restoring self-community and human-ecological relationships, and generating cultural vibrancy.
ア メリカ先住民の健康は、土地収奪、人種差別、貧困など、入植者による植民地主義の構造的遺産によって影響を受けている。ジェノサイドや深く根付いた構造的 暴力による過去と現在のトラウマ的ストレスを経験している個人とコミュニティにケアを持って対応することは、進行中の悲しみを乗り越え、自己コミュニティ と人間生態系の関係を回復し、文化的活力を生み出すことを意味する。
Author Interview: “Arts-Based Research Methods to Explore Cancer in Indigenous Communities”
Aislinn C. Rookwood and Mariah Abney join Ethics Talk to discuss their article, coauthored with Hannah S. Butler-Robbins, Danielle Marie Westmark, and Dr Regina Idoate: “Arts-Based Research Methods to Explore Cancer in Indigenous Communities.”
エ イスリン・C・ルックウッドとマライア・アブニーがEthics Talkに参加し、ハンナ・S・バトラー=ロビンス、ダニエル・マリー・ウェストマーク、レジーナ・イドアテ博士との共著論文「先住民コミュニティにおけ るがんを探求するための芸術に基づく研究手法」について議論している。
Trauma-Informed Caring for Native American Patients and Communities Prioritizes Healing, Not Management
Addressing intergenerational trauma remains a public health priority in Native American (NA) communities. Clinicians working with NA patients must express humility, understand local culture, collaborate, and develop an insider’s perspective on NA past and present life in order to earn trust. This case considers an NA adolescent suffering from mental distress, possible substance use, and multiple traumas. The commentary argues that trauma-informed therapies are lacking in some current psychiatric and primary care practices in the Indian Health Service and that an interprofessional, trauma-informed approach that considers the interplay between relevant somatic and psychological factors can better motivate patient-centered care. Cultivating safe environments in which interventions are pursued within the patient-clinician therapeutic alliance is key to generating optimal outcomes and healing among NA patients.
ネ イティブアメリカン(NA)のコミュニティでは、世代間トラウマへの対処が公衆衛生上の優先課題となっている。ネイティブアメリカンの患者と接する臨床家 は、信頼を得るために、謙虚さを表現し、地域の文化を理解し、協力し、ネイティブアメリカンの過去と現在の生活について内部からの視点を養わなければなら ない。この症例は、精神的苦痛、薬物使用の可能性、複数のトラウマに悩むNA青年について考察している。この解説では、インディアンヘルスサービスにおけ る現在の精神科診療やプライマリケアでは、トラウマを考慮した治療が欠如しており、関連する身体的要因と心理的要因の相互作用を考慮した、専門職間のトラ ウマを考慮したアプローチが、患者中心のケアをより動機づけることができると論じている。患者-医師間の治療同盟の中で介入が追求される安全な環境を育成 することが、NA患者の最適な転帰と治癒を生み出す鍵である。

●非標準的治療選択問題における「哲学的 課題」について——懐疑論(哲学的懐疑主義)をつかった処方箋

疑問
コメンタリー
私たちに本当に治療選択の自由があるのか? ・インフォームドコンセントについて、近代医療の治療者は「標準的治療 の多様性」のなかから選択して提示している。その場合、治療者は、エビデンスにもとづいて。完全に客観的に対応しているのかについて反省を求めれば、誰し もがそうではないと判断せざるをえない。治療者は、過去の経験と、論文情報と、まわりの研究データベースから総合して、「有効と思われる順に提示し、とき には、治療者が考えるもっとも《適切なオプション》を示すにすぎない」。
・さらに、患者は、それらのすべてを望まない場合——本研究課題はそのようなことを検討する——には、コンプラアンスのわるい患者として認定されて、治療 が考える「通常の治療ルーティン」からは逸脱してしまうのである。
・患者には「完全なる治療選択の自由がある」というのは、「ヘルシンキ宣言」 から導き出される今日の治療原則であるが、我々は、いまや、仮想的現実ならぬ、現実的仮想として、受け入れなければならない。
提示されている治療法の妥当性の評価に、専門家と非専門家のあいだに差 異はあるのだろうか? ・インターネットの普及がEBM情報の把握が重要だと、一般の人々のあ いだで認識されてきた。他方、時代を遡って、専門家の間では、EBM情報の把握とその認識の影には、インターネットで、情報を瞬時に得ることができるよう になったからである。
・このような状況は、医療者と患者のあいだの、知識の不均衡(ディスパリテイ)の解消すると同時に、医療者が回避できる、フェイク情報やきわめてレアでエ ビデンスがないと指摘されている不確実な情報に、患者やその家族が翻弄される危険性がある。
・患者の信念が、「フェイク情報やきわめてレアでエビデンスがないと指摘されている不確実な情報」に傾斜すると、医療者と患者の間の治療選択をめぐる「認知的不協和」はますます拡大する傾向になる。
エンハンスメントは、非標準的治療に入るだろうか?
・ エンハンスメント(増強)は、治療法ではないので、「エンハンスメントは、非標準的治療に入らない」というのが、最初の答え。もうひとつの答えは、人はエ ンハンスメント(増強)を利用するときには、医学理論や養生法が用意している「治療モデル」を使うので、また、当該の社会や文化は、正統な治療とはみなさ ないために、立派な「非標準的治療」という考え方である。
非標準的な治療選択を選好する人が、医療者から差別の偏見の目でみられ、またそれを選択することを拒絶された時、自分たちは「ヴァルネラブル(可傷性のある)」な手段であり、保護が必要であると、主張した時に、医療者はどのように対応すべきであろうか?
・文献:「可傷性、暴力、抵抗を再考する」(バトラー 2022)

●日本はワクチンに対する受容性は高い


子どもにとってワクチンは重要であると思う人の割合(2018年)(→「ワクチン忌避/反ワクチン」より)
●どのような医療倫理原則を動員するのか?










★クレジット:池田光穂「非標準的治療を 選好する人への権利尊重と制限について」(科学研究費補助金・基盤C「
非標準的治療等の 選好の検討を通した多文化にセンシティブなインタラクションの支援」代表者:滋賀医科大学・医学部・教授:加藤穣先生)

リンク(倫理的法的社会的連累関係)

  • 倫理的・法的・社会的連累(ELSI)︎▶「新しい診療拒 否」に関する学際的研究(宍戸圭介)▶医療における良心 的拒否を通じた権利擁護の射程と限界に関する日米比較調査(加藤穣)︎︎▶︎医療体系選択の自由についてSGDs by UN (in Japanese)︎︎▶︎▶
  • ナリット・グートマンの公衆衛生倫理︎︎倫理上のジレンマ︎▶︎︎コミュニケーションを通した介入にまつわる倫理的問題について▶︎ヒューマン・エンハンスメントの倫理︎認知的不協和▶︎︎▶︎▶
  • リンク(非標準的治療)

  • いま、なぜ民間療法か?︎▶民 間療法事典︎▶︎︎マイン ドフルネス研究ノート伝統医療・伝統的医療(Traditional Medicine)︎︎︎補完代替医療▶︎統合医療▶︎︎Cancer Alternative Therapies - MedlinePlus▶︎▶︎︎▶︎▶︎
  • 生体実験と倫理▶︎人体実験の生命倫理学▶︎︎ワクチン忌避/反ワクチン▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎
  • リンク(医療情報)

  • Genital HPV Infection – Basic Fact Sheet, by CDC︎▶︎ヒトパピローマウイルス感染Human papillomavirus infection)▶︎︎患者の自律性は どのように説明されているのか?▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎
  • リンク(知識問題)

    文献

  • シ ン、サイモンとエツァート・エルンスト『代替医療のトリック』青木薫訳、新潮社、2010年/Gesund ohne Pillen - was kann die Alternativmedizin?/Trick or treatment : the undeniable facts about alternative medicine  / Simon Singh & Edzard Ernst, W.W.Norton & Company , 2008
  • Beyond humanity? : the ethics of biomedical enhancement / Allen Buchanan, Oxford : Oxford University Press , 2011.
  • 心とからだの倫理学 : エンハンスメントから考える / 佐藤岳詩著, 筑摩書房 , 2021.8. - (ちくまプリマー新書 ; 381)
  • 非暴力の力 / ジュディス・バトラー著 ; 佐藤嘉幸, 清水知子訳, 青土社 , 2022.
  • その他の情報

    Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099


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