陰謀理論
Conspiracy Theory
かいせつ 池田光穂
陰謀理論(conspiracy)とは、さまざまな 社会現象の背景に、それを仕組ん だ個人や集団の「陰謀」があると、根拠もなく思いこむ思考方法のこと(→「陰謀理論の歴史」)。
陰謀は、社会集団を営む人間がしばしば、自分たちの利 益を守ったり進展しようとしたりするときに、秘密裏にかつ非合法的にそれをやりとげようとする現象で、それ自体はとりたて珍しいものではない。しかし陰謀 集団の存在は、社会的不正義を蔓延させ社会 の崩壊につながるために、しばしばそのようなことがおこらないように近代社会では、その行為そのものを非難したり、また生起しないような道徳的規準もうけ ている。
すなわち、ここでいう陰謀理論とは、社会の中の異質分 子を非難する際に、その個人ないしは集団を〈陰謀をもった悪意ある存在〉と根拠なく位置づける便法のことを指している。陰謀理論は、人間のもつステレオタ イプや偏見の一例とみる ことができる。カール・ポパー(Karl Popper, 1902-1994)は陰謀理論による説明が、迷信の世俗化したものであり、結果として起こったことと陰謀集団の意図という説明 の不整合から、この理 論を論破できると主張する。しかし、非合理的なこと、あるいは事前には想像もできな かったことなどに、陰謀理論がしばしば登場することから、ポパー流の論駁が、実際の歴史的社会的現実にどれほどの判断力を行使できるのかは不明確である。
魔 女裁判、妖術、流言飛語と、それにもとづく社会の変動 は、事後的にはさまざまな理由をつけて解釈することができるが、解釈しにくい奇妙な出来事も、我々の現実には数多く存在する。武漢(Wuhan)を起源地 といわれる COVID-19(2020年新型コロナウィルス)の世界的蔓延の流行に際し、米国大統領ドナルド・トランプ(Donald John Trump, 1946- )ならびに当時の国務長官マイク・ポンペオ(Michael Richard Pompeo, 1963- )が、武漢ウイルスと呼ぶことを提唱したり、中国の武漢の医学研究所で開発された生物兵器であると主 張するのも、限りなく陰謀理論に近い。
陰謀理論は、ポスト・ホック(事後的; post hoc) には容易に論破でき るが——なぜならその多くは誇大妄想的で根拠がないから、事後的に証拠が不在ということで判断することができる——その渦中において抑止させることがきわ めて難しいからである。もちろん陰謀理論の再燃を防ぐためには、ポパー流の論理的 判断を鍛える教育と、過去の陰謀理論の無根拠性についての歴史的検討の継続が不可欠である。
陰謀理論は、社会の情報化がある程度促進されなけば「普 及」しない。その意味で、近代社会最大の陰謀理論の例は、帝政ロシア時代の警察が捏造した「シオンの議定書(The Protocols of the Elders of Zion)」であり、ヘンリー・フォードやアドルフ・ヒトラーは、 それを真に 受けて未曾有の社会的差別と虐殺を引き起こした。
"In law, a conspiracy
theory is a theory of a case that presents a conspiracy to be
considered by a trier of fact." - Conspiracy
theory (legal term).
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