かならずよんで ね!

倫理的・法的・社会的連累(ELSI

Ethnical, Legal and Social Implications (U.S.) and Ethical, Legal and Social Aspects (EU)

池田光穂

エルシー(ELSI)とは、倫理的・法的・社会的連 累(=含意、インプリケーション)/ 事象=イシューの頭文字表現(アクロニム)である。これは、従来の研究倫理の枠組みを拡張して、理工系・医歯薬保健系、人文社会系を問わず、あらゆる研究 者がエルシーに関わっていることを自覚を促す社会的試みのひとつである。この言葉と概念の起源は古く、1988年にヒューマン・ゲノム・プロジェクト(HGP)が始まったときに、遺伝学 者でHGPのジェームズ・ワトソンJames Watson, 1928- )がプレスコンファレンスで突如として述べたものである。そのため、HGPを扱うNIH——現在はその下位部局である国立 ヒューマンゲノム研究所(NHGRI)が管轄——は急遽そのような体制を 整備したと言われている(Cook-Deegan, 1995)。エルシー(ELSI)の重要性は、この用語を乱暴に振り回して研究費や活動経費を取得するということにあるのではなく、そのような破廉恥な行 為そのものが、エルシー(ELSI)という理念に反するものであることを自覚することにある。

日本では、エルシー(ELSI)は、倫理的・法的・ 社会的連累(=社会的含意)の米国流の概念を輸入したために、そう呼ばれるが、ヨーロッパでは、エルサ=倫理的・法的・社会的諸相(Ethical, Legal and Social Aspects, ELSA)と呼ばれているようである。

Both Ethical, Legal and Social Implications (U.S.) and Ethical, Legal and Social Aspects (EU) research have same implication of newly emerging sciences, especially genome-wide association study and nano-sciences in which researchers might address and refer in their own contexts before all kind of audiences and stakeholders. In Japan this terminology is now adopted as Ethical, Legal and Social Issues (Japan) treating words and issues separately can be problematic by their traditional technocratic ideology (Kasuga and Ikeda 2018).

「倫理的・法的・社会的連累(米国)、倫理的・法 的・社会的側面(EU)とも、新しく登場した科学、特にゲノムワイド関連研究やナノ科学など、研究者があらゆる聴衆や利害関係者の前で、それぞれの文脈で 言及する可能性のある研究については、同じ意味合いを持つ。日本では、この用語は現在、倫理的、法的、社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)として採用されている。」

"At the onset of the Human Genome Project several ethical, legal, and social concerns were raised in regard to how increased knowledge of the human genome could be used to discriminate against people. One of the main concerns of most individuals was the fear that both employers and health insurance companies would refuse to hire individuals or refuse to provide insurance to people because of a health concern indicated by someone's genes.[Greely 1992] In 1996 the United States passed the Health Insurance Portability and Accountability Act (HIPAA) which protects against the unauthorized and non-consensual release of individually identifiable health information to any entity not actively engaged in the provision of healthcare services to a patient.[US Department of Health and Human Services ] Other nations passed no such protections[citation needed]." -#Wiki.

「ヒトゲノム計画が始まった当初、ヒトゲノムの知識 がどのように人々を差別するために使用される可能性があるかに関して、いくつかの倫理的、法的、社会的懸念が提起された。多くの人々が懸念したことのひと つは、雇用主や健康保険会社が、遺伝子が示す健康上の懸念を理由に、個人の雇用を拒否したり、保険加入を拒否したりするのではないかということであった。 1996年、米国は医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA)を成立させ、患者への医療サービスの提供に積極的に関与していないいかなる 事業体に対しても、個人を特定できる健康情報が無許可かつ同意なしに開示されることを防止した。」

"The acronyms ELSI (in the United States) and ELSA (in Europe) refer to research activities that anticipate and address ethical, legal and social implications (ELSI) or aspects (ELSA) of emerging sciences, notably genomics and nanotechnology. ELSI was conceived in 1988 when James Watson, at the press conference announcing his appointment as director of the Human Genome Project (HGP), suddenly and somewhat unexpectedly declared that the ethical and social implications of genomics warranted a special effort and should be directly funded by the National Institutes of Health.[Cook-Deegan 1994/1995]" - #Wiki.

「ELSI(米国)とELSA(欧州)という頭字語 は、特にゲノミクスやナノテクノロジーに代表される新興科学の倫理的・法的・社会的影響(ELSI)や側面(ELSA)を予測し、対処する研究活動を指 す。ELSIは1988年、ジェームス・ワトソンがヒトゲノム計画(HGP)の責任者に任命されたことを発表する記者会見で、突然、そしてやや予想外に も、ゲノミクスの倫理的・社会的影響には特別な取り組みが必要であり、国立衛生研究所が直接資金を提供すべきであると宣言したことから考案された」

日本では、神里達博(2016)による「情報技術に おけるELSIの可能性」が、その言及に関する嚆矢に近い。神里によると、ワトソンのELSI提案の際に法律家として関わったローリー・アンドルーズ(Andrews, Lori B) は、その著書『ヒト・クローン無法地帯』において、ワトソンが後年になって「私(=ワトソン)は,討論ばかりしていて実際には何も行動を起こさない監視団 を望んでいた」と吐露したという。先に、私(=池田)は研究費を取得するための受け皿としてのELSI研究が「破廉恥な行 為」であり「エルシー(ELSI)という理念に反する」と書いたが、案外、日本では、ワトソンがかつて望んでいたように「討論ばかりしていて実際には何も 行動を起こさない監視団」が本当にELSIになってしまうかもしれないことを大いに危惧するものである。

また、Ikeda (2020)は、日本における先住民の遺骨返還請求の社会状況を文化人類学的に分析した論文のなかで。この「倫理的・法的・社会的連累」(ELSI)とい う用語を用いている。

●法的連累としてのELSI

法的連累としてのELSIに関しては、司法的ミニマ リストのキャス・サンスティーン(Cass Sunstein)がハーバード・ロースクールで展開した「リスク規制プログラム(Program on Risk Regulation)」などが参考になる。司法ミニマリストとは「彼等が両極端な解釈と見なし批判するものの代わりとして、特定の事例に限定された最小限の憲法解釈を提供する。 またミニマリストは、安定した憲法が全員の利益になると信じており、判例や先例拘束力の原則(stare decisis)を極めて重要視している。 ミニマリストは、判例からの解離を最小限にし、適用範囲を限定し、(保守派とは反対に)原意主義 者や厳格解釈主義者よりも、社会一般の方向性に基づいた解釈が、真の司法抑制を実現 しつつ、(リベラル派の多くが求めるものより遥かに適応速度は遅いが)「生 ける憲法」を可能にすると主張する。 法廷におけるミニマリストは、憲法判断によって中絶の全面禁止や合法化を宣言したりするのではなく、ミニマリスト固有の優先順位に応じて、中絶などの判例 に対する支持を、少しずつ強めたり弱めたりする」司法ミニマリズム)。

リスク規制プログラム(Program on Risk Regulation)とは、21世紀の主要な危機に対し、法や政策がどのように対処するかを核とし、研究範囲として予想されるのは、テロリズム、気候変動、職業安全性、伝染病、 自然災害な どの低頻度・大損害(LPHC)現象である。他方で、議論が拡大解釈されないように、Cass Sunsteinは、「リスク規制に関する研究において、チムール・クランと共に、「利用可能性カスケード(Availability cascade)」の概念を考案したことで知られる。これは、あるアイデアに関する一般の議論が自己増殖して、個人がその重要性を過大評価することを指 す」キャス・サンスティーン)である。

stare decisis,  先例拘束性の原則:一度判決された事件は拘束力をもち将来の同種の事件を判決する時に判断を<法的に>拘束する原則 (ギアツ『文化の解釈学1』p.vii)

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