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和田心臓移植を告発する

医学の進歩と病者の人権 (1970年)

池田光穂

■ 「病者のための人権宣言」昭和四十五年七月二十七日

札幌医大和田寿郎教授の心臓移植手術について は、最近にいたり関係者の学術論文もようやく出 そろい、各種報道機関の調査による新規資料も登 場してまいりました。これらを綜合すると、この 手術は信じられないほど露骨な人体実験であり、 良心ある医師としてはあえてなし得ない、虚偽と 作為が疑われてきました。

このことは最近の医道の頽廃と、一部の大学医 局にひそむ学術優先、人命軽視の弊風とを端的に 象徴する事件だと思われます。しかもなお一部の 識者にさえ、科学の進歩の前にはあるていど人命 の犠牲も止むを得ないとする、俗耳に親しみゃす い意見がないとはいえません。

人は病の器であります。わが国の現状では、い つわたくしどもは無力な病者として、医師の手の 中にその生命安全の白紙委任をしいられるかもし れません。これを考えますと、山口、宮崎両君の 悲惨な運命はけっして他人事ではないのであります。

わたくしどもは和田教授にいかなる個人的因縁 をも持ちませんので、なんら感情的な動機はあり ませんが、人権尊重という近代社会の原理を定着 させるために、和田心臓移植手術の真相が正しく 国民に理解きれることなくうやむやに葬り去られ ることは、今後の日本の医学と医師のありかた、 いな国民の福祉に救いがたい傷痕を残すであろう ことを恐れるものであります。

わたくしたちは同士相はかつて、日本弁護士連 合会人権擁護委員会、厚生省医道審議会、衆参両 院法務委員会への請願を行ないますが、なおその 他の手段に訴えて、この手術の真相を世人の耳目 に鮮明に明らかにしつくしたいと存じます。 ここに無力な病者の人権を尊重するよう、日本 中の医師や医学者に訴えるとともに、和田寿郎教 授の心臓移植手術を強く国民の前に告発するものであります。

昭和四十五(1970)年七月二十七日(※生没年、西暦などは加筆した)

「和田心臓移植を告発する会」
1.坊 秀男(1904-1990) 衆議院議員(元・厚生大臣)
2.古井喜美(1903-1995) 衆議院議員(元・厚生大臣)
3.細川隆元(1900-1994) 評論家
4.石垣純二(1912-1976) 評論家・医師
5.川上 武(1925-2009) 評論家・医師
6.松田道雄(1908-1998) 評論家・医師
7.中川米造(1926-1997) 大阪大学医学部助教授
8.中川善之助(1897-1975) 金沢大学学長(法学者)
9.村山 実(1901-??) 白十字会村山サナトリウム所長
10.大渡順二(1904-1989) 保健同人社社長
11.佐久間昭(1930-2016) 東京医科歯科大学助教授
12.髙橋晄正(1918-2004) 東京大学医学部講師
13.若月俊一(1910-2006) 佐久間総合病院院長

出典:和田心臓移植を告発する会 編 1970 『和田心臓移植を告発する――医学の進歩と病者の人権』,保健同人社,pp.277-278.

目 次は立岩真也のサイトより

座 談会 和田心臓移植の真相
出席者 石橋幸雄 石垣純二 北岡和義 大熊由紀子 大渡順二 (司会)岡本正 (ABC順)

「小説心臓移植」が明らかにしていた真相 15
ワナをかけられたのではないか――なぜ山口君は札幌医大へ送られたか 17
血圧一三〇、経過は良好であった 19
野口院長の診断の疑問 21
高圧酸素治療は適切な救急処置か 25
野口院長は「心臓提供」を知っていたか 28
野口院長までだまされていたのではないか 34
心臓移植ははじめから予定されていた――和田教授が心臓移植を決意したのはいつか 38
脳波測定をめぐる和田教授のウソ――脳波は結局測定していなかった 47
高圧酸素治療室にははいっていない 48
高橋教授に教えられたブラウン管による脳波測定 50
和田教室員には一人の造反者もいない 53
死の判定をめぐる和田教授の詭弁 55
山口君の蘇生への努力は万全であったか――すべてが心臓移植を目的とした処置だった 59
地検の鑑定人の選択は不適当だ 65
心臓移植を目的に使われた薬 66
なぜ山口君を開胸したのか 69
すべての罪を故門脇助手におしつけている 71
蘇生術のイロハも知らなかった外科医たち 74
胸部外科だけの密室だった手術室 75
宮崎君は心臓移植の適応ではなかった――前主治医宮原教授がなげた疑問 77
適出心の大動脈弁はすりかえられていた 84
内科医の鑑定が必要なのではないか 90
適応でないことを承知でやった心臓移植 91
適応の問題をあえてさけた循環器学会 93
宮崎君の病歴と転科時の臨床所見 94
宮崎君はもっと長生きできたかもしれない 97
宮崎君は偶然選ばれた患者にすぎなかった 98
手術承諾の説得は十分なされていたか 99
宮崎君の死因は感染症と拒絶反応による全身衰弱死――窒息死は和田教授の演出であった 102
手術後の経過はよいことだけ発表されていた 106
宮崎君の死亡時刻をめぐるミステリー 110
心臓移植手術は完全に失敗であった――藤本教授の病理解剖所見が明らかにしたその真相 116
八十日間で四倍に肥大していた移植心 116
拒絶反応を臨床的に診断するのは不可能 119
手術のために宮崎君は脳障害を起こしていた 123
摘出した心臓の重さにまでウソがあった 125
和田心臓移植をとりまく社会環境――大学教授、大学病院の医療は過信されている 126
札幌という風土と心臓移植 126
社会福祉のおくれた国ほど心臓移植はさかん 127
和田教授のパーソナリティが物語るもの 129
和田教授は危険な手術をしすぎている 130
大学病院は患者の治療より研究が目的 133
札幌医大からなぜ批判がでないのか 136
胸部外科学会は和田心臓移植の共犯者だ 139
医学の進歩のために人体実験はどこまで許されるか――和田心臓移植のあたえた教訓 142

座談会 医学の進歩と病者の人権
出席者 林田健男 石垣純二 松田道雄 中川米造 大渡順二 三枝正裕 斉藤淏 渡辺淳一 (司会)梅田敏郎 大熊由紀子
和田心臓移植と「人権宣言」を私はこう評価する 153
世界における心臓移植の現況 153
出るべきものが出た「病者のための人権宣言」 155
告発すべきは学会の体質そのものだ 156
外科医には「鬼手仏心」が要求される 158
不可欠な患者への正しい説得とその承諾 159
拒否反応の解決を待ってはいられない 162
和田心臓移植の疑惑を解明する 163
宮崎君の術前の病状をめぐる疑問 163
内科への連絡なしに行なわれた手術 166
不問に付されたままだった心筋の変化 167
和田心臓移植は完全な失敗であった 169
発表されなかった緑膿菌による胸腹膜炎 171
和田心臓移植を生んだ背景を追求する 174
患者の犠牲によって進歩した十七世紀の医学 174
患者の治療は学会の評価につながらない 176
胸部外科学会はなぜ真相を糾明しないのか 178
学者の功名心をかりたてる学会の体質 181
学会は暗黙の了解のもと沈黙を守ってきた 184
人権を尊重してこそ医学は正しく進歩する 186
医学には「公開の原理」が適用されねばならない 186
和田心臓移植は密室が生んだ人体実験 189
患者に対する正しい説得は行なわれていなかった 190
適応の決定と治療効果確認のための委員会を 192
新しい手術にふみきるときにはこれだけの条件が必要だ 196
努力しても「目こぼれ」はのこる 196
新しい試みは「他に方法がない」とき 197
研究成果に「優先権」を認めよ 199
十分な動物実験が絶対に必要だ 200
外科医には「切りすぎ」の傾向がある 201
自分の症例をふやすための手術が多い 203
心臓提供者の選択に「人間の差別」はないか 205
「ランダウの奇跡」があたえた教訓を忘れるな 207
医学の進歩と人権の尊重――私はこう考える 208
大学病院も患者のための診療機関 208
科学の進歩にはつねに非情な面がある 210
大衆啓蒙と正しいジャーナリズムの姿勢が必要だ 211
和田教授の正確な報告を期待する 213
大学教育は「医の倫理」にまったく無関心だった 215
医学は「患者の苦痛への共感」から出発せよ 216
真相を知って批判しない人は共犯者だ 220

シンポジウム「心臓移植と医の倫理」から
法律家からみた心臓移植――日弁連調査団からの報告 武田熈 224
二十世紀のミステリー 224
野口院長の供述はウソ 229
宮崎君の手術を知らなかった宮原教授 231
大動脈弁はすりかえられていたと断言できる 232
榊原鑑定は政治的鑑定 234
検察庁へ三点の申し入れ 235
病者の人権について 野村実 236
わかり切ったことがわかっていない 236
尊重されていない国民の基本的人権 237
病者は病者の権利をもっと主張せよ 239
生命への畏敬こそ医の根本義 240
医師にして哲学しないものは「けもの」 242
あえて和田教室の全医局員に問う 243

私は告発する「和田心臓移植を告発する会」からの発言
人権を尊重する国民の意志 川上武 246
わが国の医道を正すために 中川善之助 248
医の原点と科学の法則性の前で 高橋晄正 250
外科医であるには 若月俊一 253
より広い場からの詳細な検討を 佐久間昭 255

和田寿郎・不起訴決定関係・文書
札幌地検の「和田寿郎・不起訴の理由」要旨――札幌地検・大江兵馬検事正・談話 260
和田寿郎に対する「刑事責任裁定書」原案要旨 263
山口君の死因関係 263
山口君への処置 264
宮崎君関係 265
問題点と判断 265
本件手術の適法性 266
執刀者の適格性 266
宮崎君の死因 266
結論 267
「和田寿郎・不起訴処分決定」に対する「和田心臓移植を告発する会」 268
裁定書に対する反論 270

「和田心臓移植を告発する会」についての報告
病者のための人権宣言 277
請願書 279
和田心臓移植の虚構と真実 282

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