はじめによんでください

「空気と空間づくり」から考えるイノベーション・キャンパスの実現

Realizing an Innovation Campus from the Perspective of "Creating atmosphere and ambience"

池田光穂

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これらの一連の発表の成果としては「大学のキャンパスを変えるための12の哲学」で、まとめられたことをご報告しておきます。
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1. ダイキン工業から人文社会系研究者対して共同研究プロジェクトへのお誘い

2. スマートキャンパス構想があまりにもネットワーク工学屋っぽく反感をもつ

3. (A)人文社会系のマインドをスマートキャンパス構想に反映させる
(B)大学院学際教育のダイキンの冠講座・冠授業を提案

4. 大阪大学を破壊(後、内破に変更) し、ダイキン工業を変える計画に変更

5. 「空気と空間づくり」という発想から解放されて「息を吹き込む」を結論に
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他人様の経験を我が事として受け入れなさい。なぜなら他人様もまた同じ「空気」を吸い「息」をしているからです。

「自動車エンジン向けにアルミニウム鋳造設備を開発・製造していたX技研(大阪府Y市)の破産が(2021年)4月、決まった。ホンダから次モデルの開発 プロジェクトを受注しようとしていたが、電気自動車(EV)シフトで中止となり、資金繰りに行き詰まった。Z元社長(69)は「脱エンジンがこれほど急速 に進むとは思わなかった」と話す。社員わずか十数人。製造設備を持たないファブレスで、ホンダのほかトヨタ自動車、三菱自動車、韓国・現代自動車、中国・ 重慶長安汽車など国内外のエンジン開発にかかわっていた」日本経済新聞, 2021年6月16日)

「米国の電気自動車(EV)業界に淘汰の波が押し寄せはじめた。受注台数の水増し疑惑に揺れる米ローズタウン・モーターズは(6月)14日、創業者らが経 営から退いたと発表した。誇大宣伝疑惑に見舞われた米ニコラに続く新興EV銘柄の失速は、合併を通じて各社に株式市場の資金を送り込んできた特別買収目的 会社「SPAC」の上場ブームにも水を差す恐れ」日本経済新聞, 2021年6月15日)
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この研究課題は、「空気と空間づくり」から考えるイノベーション・キャンパスの実現、です。より具体的には、大阪大学でおこなわれている、スマート・キャ ンパス化を含む、イノベーション・キャンパス化のプロセスのなかに「骨太の教育哲学はあるのか?」という検知のための命題を立て、「大学キャンパスの『空 気』を入れ替えて、再び学生・院生・教職員に『息』を吹き込む斬新な方法」ならびにダイキン工業に対して「『いのち=息』をすべての人間にもたらす会社た らん」という2つの哲学的提案の最終点に立ち、そこから研究の開始から終点までを俯瞰し、その課題解決にむけての思考過程を、大阪大学とダイキン工業の双 方に提案する、という方法をとります。
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文部科学省は、「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」を令和2年度の暮れに公募説明をおこない、令和3年度に採択課題を発表し、それぞれのプ ロジェクトでは、キャンパスのイノベーション・キャンパスあるいはスマート・キャンパス化をすすめています。各大学で採用された提案や計画を検証するに、 それらはすべてSDGsで提唱された17の解決課題に交錯する点をもつものの、それぞれの研究者が提供する既存テクノロジーの組み合わせによって計画立案 されているにすぎません。そこには「なぜイノベーション・キャンパス化が社会にインパクトをもたらし持続可能な繁栄を未来に保証することができるのかにつ いての哲学ないしは哲学らしきものがないように思われます。ここが本研究調査課題の着目する点です。
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2019年度後半から2019年度末までの、本研究のフィージビリティ調査では「空気と空間づくり」から考えるイノベーション・キャンパスの実現に関する 具体的なアイディアを提供することを目的としました(例えば Digital Humanities, Hype-Accessibility Campusの提言)。それは、今般の遠隔教育をめぐる大学環境の劇的な変化に鑑み、これまでの大学における研究と教育のキャンパスに蔓延する「蛸壺化」 ——政治学者の丸山真男の用語——の弊害を列挙し、それらの相互関連性を明らかにし、ダイキン工業の取り組みを参照しつつ脱却可能性=大学研究教育システ ムのイノベーション、謂わば「大阪大学の既存のシステムを超克する大学」を構想することでもありました。
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【大阪大学への提言・ダイキンへの提言】
当初は、日本、ヨーロッパ、米国、アジアにおける遠隔教育に関する実践の比較研究を手掛かりにして、それぞれの国の大学が抱える具体的問題に関する調査を し、それらの問題解消と、それらの国や地域の比較大学改革論にもとづく「既存大学の解体と新結合のプラン」を考察・提言することとしました。
 しかし2020年当初からのコロナ禍は当初の計画を大幅に変更せざるを得ず。書籍ならびにインターネットからの収集をもとに「既存大学の解体と新結合のプラン」とその思想を表現する、12の哲学で提唱することとしました。
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12の哲学
1.  ICTに依存しないイノベーション・キャンパスの実現、それは「ひとづくり」である
2.  Inter-Graduate Schools Classes を全世界に構築せよ
3. 大学を内破するということで他の改善案からの差異化をはかれ
4. Making an Innovation Campus and Deconstructing Old fashioned University's Order.
5. 大学が真にオープンになるためには、大学そのものが内破しなければならない
6. デジタル・ヒューマニティズのリソースを活用して生き方そのものをスマート化せよ
7. 対面コミュニケーションは今後さらに重要になるが、それはお手軽な「対話のススメ」などではない
8. 「ひとづくり」を理想とするスマートキャンパスを実現せよ
9. 象牙の塔あるいは愚者の楽園を超えて大学そのものを解体すると同時に内破せよ
10. 鉄は熱いうちに打て、自分が置かれた状況を反省せよ、行動はすぐに適切にせよ
11. 人間社会の「空気」を入れ替えて、人間に喜びをもたらす「息」を吹き返すための斬新な方法について
12. 「いのち=息」を人間にもたらす大学と会社になりなさい
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1. ICTに依存しないイノベーション・キャンパスの実現、それは「ひとづくり」である

これまでの研究・調査ならびに考察から得られた「ダイキン」と「大阪大学」にする推奨・勧告原則は以下の3点になります。

(1)空気=息が詰まる大阪大学の研究・教育・産学共創をデザイン思考により積極的に改善改造する計画を立案すること。

(2)空気ソリューション技術から快適性のみなら破壊的イノベーションをうみだすダイキンと大阪大学のイメージを刷新すること。

(3)コロナ禍がもたらしたブレンディド教育化が「人間環境空気を変える」スマートキャンパスを、大阪大学はデザインすること。そしてダイキンはそれを支援すること、これである。
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2.  Inter-Graduate Schools Classes を全世界に構築せよ

インターネットはもはや「空気」みたいなものなので、「大学に行けば『知識』が得られるから大学に来い!」と大阪大学のみならず日本の大学はそのように踏ん反り返っている場合ではありません。

ダイキンは「空調機」を生産し、その媒質を製造しそれらを扱う世界有数の会社である。しかし、慢心にならず自らの改革するための縁(よすが)として、大阪大学に共同研究の提案をされました。

大阪大学 X ダイキン工業は、それぞれの存在のあり方を自己肯定している場合ではないことは、了承済かもしれません。この潜在的危機を研究と教育を通して、全世界的に 考えよという提案が、「Inter-Graduate Schools Classes を全世界に構築せよ」というものです。
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3. 大学を内破するということで他の改善案からの差異化をはかれ

対話はモノローグの連鎖です。読書もしかり。つまり、人間は対話的営為から逃れられることはできません。対話とは当たり前の思考のプロセスです。それゆえ に「対話をしよう」なんて言うレベルに留まる哲学者はおつむが足りないと言わざるをえません。発語をした時点で対話ははじまっているからです。スペイン語 の感嘆句である我が神よ(Dios Mio)という叫びもまた見えない神との対話です。そして(来るべき真の)対話のために待つ時間は5秒なのか百年なのか、それは実際に始めてみないと分か りません。そして相手が発語をはじめる前の「沈黙」を我々は恐れてはなりません。対話を永続するためには、沈黙が破られる瞬間をひたすら待つという真の大 人の辛抱を必要とします。

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4. Making an Innovation Campus and Deconstructing Old fashioned University's Order.


世界の若者が競って集いたくなるような「本物の大学(あるいは大学ではない大学)」を構想しかつ実際に構築することです。最終的には、この大学、この企 業、さらにはこれらを支えている、世界の空気を読まなければならないと神経を張ってピリピリしてる社会そのものを、解体し、人々によみがえりの息を吹き込 み、世間という風をさっそうと切ってゆく、市民を育てていきたい、というものです。
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5. 大学が真にオープンになるためには、大学そのものが内破しなければならない

未来原則

(I)クリエイターではなくキュレイターをめざせ
(II)共有財の価値を見直せ
(III)参加者には徹頭徹尾、自由にさせよ
(IV)活動をになう前衛を発掘し、強化せよ
(V)コラボレーションの文化をつくれ
(VI)ネット世代(Generation Z)に権限を委譲せよ

という6つの行動指針をすべての行動原則として採用すべきです——これが内破の内実をあらわします(ドン・タプスコットらの『マクロウィキノミクス』などを参照した)。
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6. デジタル・ヒューマニティズのリソースを活用して生き方そのものをスマート化せよ

アドワーズ戦略(AdWords Strategy)のAdをadvertisingと考えるのはグーグルですが、そこにはadd(付け加える)という意味があります。意味や情報が wordsで表現されるのなら、キャンパスにおけるAdWords Strategyとは、キャンパス内外から大学にアクセスする時には、さまざまな情報が重層的にかつスマートにハイパーテキストのように付加されることな のです。わが大学には、それを支援できる教員がたくさんいるはずなのに、残念なことに、彼/彼女らの優秀な能力が活かされていないのは、残念至極です。こ こで「学び方」を「働き方」という文言に交換してみましょう。それは大阪大学だけではなく、ダイキン工業の問題であり、日本社会全体の問題なのです。

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7. 対面コミュニケーションは今後さらに重要になるが、それはお手軽な「対話のススメ」などではない

3. で述べたことを一部繰り返します。

来るべき真の対話のために待つ時間は5秒なのか百年なのか、それは実際に始めてみないと分かりません。そして相手が発語をはじめる前の「沈黙」を我々は恐れてはなりません。対話を永続するためには、沈黙が破られる瞬間をひたすら待つという真の大人の辛抱を必要とします。





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8. 「ひとづくり」を理想とするスマートキャンパスを実現せよ

仕事の場をよくしたいことは、効率良く運営したい、高い生産性をたもちたい、ストレスがすくない、そして愉しいという思いや気持ちにみたされることです。 「私たちが考えるかのように」("As we may think")職場が改善されなければなりません。具体的発想やアイディアを支えるテクノロジーがあり、それらを使いこなすためには各人に「美学」がひつ ようです。スマート・オフィスには、効率性を追求しながらも、かっこよさを失わない、いわゆる「情熱の美学(estetics of your own passion)」が満ちあふれているはずです。私たちの教室やオフィスはそのような美学に溢れているでしょうか?

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9. 象牙の塔あるいは愚者の楽園を超えて大学そのものを解体すると同時に内破せよ

育つという意味を解放するためには、知識が多いほうがいいとか成熟しているほうがいいといった価値基準を捨てましょう。君の話に出てきた「タンポポとお しゃべりする能力」を私たちは、幼い時のある時点から失います。多くの子どもたちは、大人とおなじように、タンポポを対話相手として考えなくなります。で も、タンポポと話している幼い子たちからみると、年長の児童そして大人たちは、残念なことに「タンポポとおしゃべりする能力」を失ってしまったのです。か くて私たち大人は能力を喪失してしまったのです。でも心配は無用です。なぜなら、その能力はたんに忘却されているにすぎません。「タンポポと話すなんて馬 鹿馬鹿しい」という見方がその能力を抑えていると考えてみましょう。「タンポポとおしゃべりする能力」を私たちが呼び戻した時に、私たちはその幼い子ども たちとより深く対話することができるようになるでしょう。
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10. 鉄は熱いうちに打て、自分が置かれた状況を反省せよ、行動はすぐに適切にせよ

UKDI(ウクディ)コミュニケーション技法入門を開発しました
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11. 人間社会の「空気」を入れ替えて、人間に喜びをもたらす「息」を吹き返すための斬新な方法について

かくて共同研究者の宮本友介は、エリック・スティーブン・レイモンド『伽藍とバザール』(1999)からヒントを得て、知識、人々、そして大学キャンパス 内での集いのかたちを、伽藍(カテドラル)とバザール(市場)の2類型に分類できることを指摘した。この発想で、わたくしたちのキャンパスと会社の職場 を、どのような場所が伽藍(カテドラル)であり、どのような場所がバザール(市場)であるのかを区分してみましょう
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12. 「いのち=息」を人間にもたらす大学と会社になりなさい

 エアコンディショニング(空気調整)は、ライフコンディショニング(命の息吹の調整)です。

 エゼキエル37章9-10節にこうあります。
「時に彼はわたしに言われた、「人の子よ、息(ルーアハ)に預言せよ、息に預言して言え。主なる神はこう言われる、息よ、四方から吹いて来て、この殺され た者たちの上に吹き、彼らを生かせ」。そこでわたしが命じられたように預言すると、息はこれにはいった。すると彼らは生き、その足で立ち、はなはだ大いな る群衆となった」と。
 ダイキンは、その製品の通風口から「息(ルーアハ)を吹きかけることで、言語や文化の違いを超えて、人間を普遍的で生き生きとした人間に甦えらせる」という会社の使命をもっているのです。大阪大学も同じ使命=夢を持たねばなりません。
 短い研究期間であったが、このような視点に我々はようやく到達したのです。
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以上で発表はおわりです。短い間ですが、大変お世話になりました。

This work was supported by Osaka University and DAIKIN INDUSTRIES, LTD. We would like to thank those who supported us.

- 池田光穂・松浦博一・宮本友介「空気と空間づくり」から考えるイノベーション・キャンパスの実現」ダイキン本社、ダイキン工業株式会社による「基礎検討 フェーズ報告書・研究テーマ提案」から「2020年度共同研究委受託研究」のフィージビリティ調査研究、中間報告会。2020年9月25日

- 池田光穂・松浦博一・宮本友介「空気と空間づくり」から考えるイノベーション・キャンパスの実現」(副題:鉄は熱いうちに打て、自分が置かれた状況を反省 せよ、行動はすぐに適切にせよ!!!)、オンライン開催、ダイキン工業株式会社による「基礎検討フェーズ報告書・研究テーマ提案」から「2020年度共同 研究委受託研究」のフィージビリティ調査研究、中間報告会。2021年1月29日

- 子ども食堂X大阪大学、第1回子ども食堂大阪大学シンポジウム、オンライン中継開催、大阪大学会館(豊中市)、大阪大学COデザインセンター主催、2021年2月23日

当該期間を含む成果(全体)については、下記に記載しているために参照されたい。
◎研究業績目録
https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/gyosekiy2k.html
クレジット:研究テーマ実施報告書:「空気と空間づくり」から考えるイノベーション・キャンパスの実現(池田光穂・松浦博一・宮本友介)2019年度~2020年度


【エゼキエル書・拾遺】息に関する記述

37:1主の手がわたしに臨み、主はわたしを主の霊に満たして出て行かせ、谷の中にわたしを置かれた。そこには骨が満ちていた。 37:2彼はわたしに谷の周囲を行きめぐらせた。見よ、谷の面には、はなはだ多くの骨があり、皆いたく枯れていた。 37:3彼はわたしに言われた、「人の子よ、これらの骨は、生き返ることができるのか」。わたしは答えた、「主なる神よ、あなたはご存じです」。 37:4彼はまたわたしに言われた、「これらの骨に預言して、言え。枯れた骨よ、主の言葉を聞け。 37:5主なる神はこれらの骨にこう言われる、見よ、わたしはあなたがたのうちに息を入れて、あなたがたを生かす。 37:6わたしはあなたがたの上に筋を与え、肉を生じさせ、皮でおおい、あなたがたのうちに息を与えて生かす。そこであなたがたはわたしが主であることを 悟る」。

37:7わたしは命じられたように預言したが、わたしが預言した時、声があった。見よ、動く音があり、骨と骨が集まって相つらなった。 37:8わたしが見ていると、その上に筋ができ、肉が生じ、皮がこれをおおったが、息はその中になかった。 37:9時に彼はわたしに言われた、「人の子よ、息に預言せよ、息に預言して言え。主なる神はこう言われる、息よ、四方から吹いて来て、この殺された者た ちの上に吹き、彼らを生かせ」。 37:10そこでわたしが命じられたように預言すると、息はこれにはいった。すると彼らは生き、その足で立ち、はなはだ大いなる群衆となった。
37:11そこで彼はわたしに言われた、「人の子よ、これらの骨はイス ラエルの全家である。見よ、彼らは言う、『われわれの骨は枯れ、われわれの望みは尽き、われわれは絶え果てる』と。 37:12それゆえ彼らに預言して言え。主なる神はこう言われる、わが民よ、見よ、わたしはあなたがたの墓を開き、あなたがたを墓からとりあげて、イスラ エルの地にはいらせる。 37:13わが民よ、わたしがあなたがたの墓を開き、あなたがたをその墓からとりあげる時、あなたがたは、わたしが主であることを悟る。 37:14わたしがわが霊を、あなたがたのうちに置いて、あなたがたを生かし、あなたがたをその地に安住させる時、あなたがたは、主なるわたしがこれを言 い、これをおこなったことを悟ると、主は言われる」。


Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099

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