リサーチプロポーザルを書く
How to write easily your Research Proposal
リサーチ・プロポーザル (research proposal)というのは、なかなかかっこいい響きだが、要するに「研究計画書」のことである(→「★ミラーサイト」)。
研究計画には、必ずそれに時間的に先行す
る応募要綱(Call for Proposals, CFP)の発表がある。
しかし、「何ぁ〜んだ・・」と安堵することなかれ。リサーチ・プロポーザルの作成方法については、こ こらあたりの大学(我々の、あるいはそれに類する大学)では、現在までほとんど教えられてこなかった。偉い先生について、その方法を直接伝授してもらう か、海外の研究書やマニュアル類(あるいはその翻訳)を通して、みなさん自己流に学んでこられた人が、現在、ここらあたりの大学で教えているのである。し かし、手前味噌だが、このような大学教官は、今の学生の皆さんのように「センセーが教えてくれなかったら、分からないのは当然じゃないですか!」などと我 が儘なことは言わなかった。じっと忍従の学徒であった。まあ、今から言えば「単なるマゾじゃないですか」と指摘されたら「その通り!」と言えないこともな い。だから、私は考えを改めて、前の世代から規格化された教育を受けたことはないが、なるべく楽して上手にリサーチ・プロポーザル書く方法についてのヒン トについて授けてみよう。
リサーチ・プロポーザルとは、文化人類学 あるいは類する社会科学のフィールドワークに基づく調査研究が具体的にできるための 計画書つまり設計図のようなものである。
具体的に調査研究ができるというのは、そ の研究者が与えられた歴史的・社会的な条件(=制約)の中で実現可能であるということだ。だから、そ の研究者が、調査研究に割くために、それにふさわしい時間・財源・資質があるか・持っているかということが、リサーチ・プロポーザルの作成におい て、重要な要因となる。無限の時間・財源・資質があれば、たいていのことはできるだろうが、そのようなことを夢想するのは、現実的ではない。ただし逆説的 だが、そのような理想的な条件のもとで何が可能となるのか?という仮想的な状況における<結果>について想像力をたくましくすることは、現実のリサーチプ ロポーザルを作成する時には大いに役立つ。
How
to write a research proposal - by Scribbr
要するに、限られた時間・財源・資質の中 で、自分が得たいと考える最大の効果を引き出すためには、どうしたらよいのか、ということを具体的 に考えなさいということである。理念については以上のことで説明が終わった。
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リサーチ・プロポーザルは、すでに説明し たように調査ができるための4つの前提が盛り込まれた具体的な企画書のことである。日本の文部科学 省や日本学術振興会の科学研究費補助金の申請用紙やアメリカ合州国の全米科学基金(National Science Foundation, NSF)などは、さまざまな領域の研究者からの研究費の申請を受け、それを専門家による審査を受けて交付するというシス テムをとっている が、多くの大多数の研究者つまり皆さんの指導教官もまた、それに類するような審査基準にもとづいて、皆さんの研究計画を評価するだろう。そのようなリサー チ・プロポーザルにおいて記載が要求されている項目を、お手本にして皆さんも具体的に書いてみよう。
リサーチ・プロポーザル作成に必要な項目
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1. 論題(テーマ)
2. 研究計画の要約
3. この計画が出てきた背景
4. 研究の目的
5. 研究計画
6. 財源ならびに支出計画
7. 期待される成果
8. 文献
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1. 論題
研究論題、つまり研究テーマ名である。門外漢でもある程度分かるものが好ましいが、かと言って専門研究者に分かりきったことを書いた り、その分野の常識的作法を無視するようなものであってはならない。
論題は、これからやろうとする指針を表明するものであるから、最初に方針を決めるために仮題的に作成しておき、全体の研究計画が完成し てから、それにふさわしいものであるか、最終的にチェックする必要がある。その研究の看板となるものなので、じつはもっともデリケートに取り扱う必要があ る。
どの領域にも、先行研究の論題を真似る流儀がある。論題には流行廃りがある。また、研究者は論題よりも内容が重要だと考える傾向がある ので、論題の適切さについて熟慮することがおざなりされてきた。悪い論題の例とその理由と処方せん(カッコ内)をあげると、「〜の研究」「〜に関する一考 察」(具体性に乏しい:副題をつけるべし、ただし副題をつけると関連する一連の研究があるかのような印象を与える可能性がある)、「人はなぜ〜をするの か」(大問題すぎて予測される解答が不十分であることを表明するようなもの:問題と予測される解答の範囲を狭める努力が必要)。
2. 研究計画の要約
100字〜200字で、全体の要約である。当然のことながら、研究計画書の他の部分が完成してから、最後に書かれることになる。
3. この計画が出てきた背景
審査する人間から言えば、その研究者の本音が聞きたいところだが、個人が抱く個人的な関 心が、研究というの公共性をもった活動として、正当化されるための弁明が盛り込まれている必要がある。そのような正当性とは以下のようなことをさす。
・関心を抱くようになった個人的な背景:原則として不必要。また書く場合もエピソード以 上に書く必要はない
・因果的な関係が明瞭である主張:本研究の目的は〜についてであるが、それについて明ら かにしなければならないことは〜である。ところが、〜についての先行研究について調べてみたら、〜についてはある程度明らかにされているが、〜については 研究が少なく(ほとんど無く)、〜について知ることの必要性が生じた。
4. 研究の目的
「この研究の目的は〜を明らかにすることである」という言明を最初にもってきて、その言 明を具体的に説明する項目がこれである。目的を明らかにするということは、具体的な問題意識・方法・予測される困難など、目的を設定したときに当初予定さ れるさまざま課題について説明することである。「何をどこまで明らかにするのか」というのが紋切り型の審査用語であるが、この言明によって、調査が完了し た時に、それが実行されたか、否かについて正当に評価することができるので、調査計画をおこなうものが、このような言明をすることは不可欠である。
研究をおこなうことが社会的に正当化できるのか? それは自分やその分野の知的欲求を満 たすだけでなく、研究対象となり、研究者を受け入れてくれ、さまざまな情報を提供する人びとに対して、どのような貢献をするのかについて書かれる必要があ る(人びとに貢献するというということを直接的利益を誘導するというふうに短絡的に考える必要はないが、社会調査は対等な人間関係を前提にするものあるか ぎり、倫理上の制約から逃れることはできない——あらゆる対人関係は倫理的なものだから)。
5. 研究計画
具体的な行動計画を書く。行動計画は、具体的な調査活動が連鎖的あるいは並行的におこな われるが、それぞれの具体的な行動なので、それらの具体的活動の項目(インタビューや参与観察など)の調査対象がどのような人たちで、どのようにおこなわ れ、それらの活動が、結果としてどのような情報をもたらすのかについて具体的に書かれていなければならない。
人間の行動は時間に制約されるので、タイムスケジュールがそこに盛り込まれている必要が ある。
調査に投入された時間に応じて、情報は蓄積されてゆくものであるが、同時に新たな問題が 生じる可能性がある。新たに生じた問題を調査活動にフィードバックして、調整することも重要であるので、計画中には、調査の進捗状況をモニターし、調整を おこなう期間も盛り込まれている必要がある。
具体的な調査計画が、倫理綱領にもとづいたものであることが前提となります。研究計画が 倫理綱領に叶っているということを明言する(個人のプライバシーに著しく関わるようなものには必要)か、どうかは研究計画が社会的にどのように理解される かによって左右されますが、言明しなくとも倫理綱領を従っているということが前提となっています。(→それぞれの学会で規定されている倫理要綱を参考にし てください)
6. 財源ならびに支出計画
どんな計画でも某かの費用がかかる。金のかかる調査や研究は、どこからかその財源を調達 しなければ、それを実行に移すことができない。コストの計算をおこなうことは、この現実の世界で調査をおこなうものの必須条件なのだ。
コストの計算をおこなうことは、奨学金や研究基金を申請する時の重要な説得資料となるこ とは言うまでもない。貧しくて資金を調達することができない学生・学者に、お金を恵んで社会のために貢献してもらおうというのは、フィランソロピーの重要 なイデオロギーだし、行政府は、そのような行為を好ましいものとして、そのような寄付行為をおこなう企業や団体に対して減税などを優遇策をおこなってい る。
金銭の授受と引きかえに「みんなのためになることにお金を交付するのだから、役立ててく ださい」というメッセージを引き受け、それに対して責任を果たすことは、学生・学者の義務である。この項目で実践することには、このようなことがその思想 的背景としてある。
7. 期待される成果
3.研究の背景や4.研究の目的の中に、「何をどこまで明らかにしたいか」というメッ セージを込めなさいと書きましたが、「明らかにされた情報」は、それ自体でなにかの貢献をもたらすことが期待されている。
法螺を吹いたり、大風呂敷をしく必要はありませんが、自分の調査が、もし社会に貢献され るなら、どのような可能性をもつのだろうかということを明確に意識することは、研究調査の動機付けにもなりますし、また、調査対象となった社会の人びとか ら調査者がしばしば聞かれる「なぜそんなことを調査しているのですか?」「そのようなことが何のためになるのですか?」「私たちの社会に、あなたの調査は 何か貢献ができますか?」という質問に、あらかじめ自分で答えを考えることにあります——ここでは、答えが重要でなく、答えをだそうと悶絶することが重要 である。
8. この研究の可能性と限界
君の研究計画書の書類には、あれもやります、これもやりますと、《盛り過ぎ》なところはないかい? ご自身における研究の限界をきちんと自 覚することから、正しい研究計画ははじまります!そして、研究倫理という行為は 既にリサーチプロポーザルを書く時点から始まっています。
9. 文献
調査研究は文献研究にはじまり文献研究に終わるのです。書かれた情報を調査する人もされ る人も共有することができて、はじめて共通の土台の上で議論を始めることができます。
文献研究をないがしろにすることはできません。また、報告書や論文を通して、文献情報社 会(最近ではインターネットも含めたマルチメディア情報を含む)に貢献することが期待されています。
また専門家は、研究者がどのような文献を渉猟(しょう りょう)しているかを、そこに書かれてあるリストを見て、その人の能力を判断する傾向があります。
多くの文献をしっかり読んでいるかどうかというのは、フィールドに出かける前にも後に も、しっかりとチェックされます。この部分は、たんなる一覧表のように思われますが、専門家にとっては、もうひとつの命ともいうべき重要性をもっているの です。
文献リストは、決められた書き方の作法(書式)があります。指定されている方法を統一し てください。
文献リストに最低の書誌情報は、著者名、書名(または論文名)、論文の場合は巻号数、 ページ数、書籍の場合は出版社、そして出版年です。
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おさらいです。
以下のような項目を含めたリサーチ・プロ ポーザルを作成してください。
リサーチ・プロポーザル作成に必要な項目
1. 論題(テーマ)
2. 研究計画の要約
3. この計画が出てきた背景
4. 研究の目的
5. 研究計画
6. 財源ならびに支出計画
7. 期待される成果
8. 文献
クレジット:池田光穂「リサーチプロポー ザルを書く」(リサー チ・プロポーザルへの5つのステップ:文化人類学調査研究入門)
リンク
文献
ハワード・S・ベッカー『論文の技法』佐野敏行訳、講談社(講談社学術文庫)、1997年
人間が論文を造るのではなく、論文が人間を造るのだ、というメッセージとして、この本を読むと、学問する面 白さが百倍!
J・G・クレインとM・V・アグロシーノ『人類学フィールドワーク入門』江口信清訳、昭和堂、1994年
モダン人類学の基本的なマニュアル本。
ウンベルト・エコ『論文作法』谷口勇訳、而立書房、1991年
剽窃と呼ばれないギリギリの引用のテクニックなど、さすが古典学を制覇する大著作家の裏技!、と読んだのは 私だけでしょうか? 読むと論文が書きたくなってくる本
R・M・エマーソン他『方法としてのフィールドノート : 現地取材から物語 (ストーリー) 作成まで』佐藤郁哉, 好井裕明, 山 田富秋訳、新曜社, 1998年
フィールドノートを修辞の問題に還元する傾向のつよい本書には、違和感を覚えますが、まじめにフィールドノートの記述法について悩んで いる人にはたいへん参考になるでしょう。
石川敦志・佐藤健二・山田一成編『見えないものを見る力——社会調査という認識』八千代出版、1998年
質的な社会調査法に関する本としては出色の論集です。この基本書を読んで<常識>を培いましょう。
妹尾堅一郎『研究計画書の考え方——大学院を目指す人のために』ダイヤモンド社、1999年
さすが経営学者と思わせる合理的で功利的な思考によって貫かれている一流のマニュアル本。だが、対象も目的もことなるエーコやベッカー の本が醸し出すスピリットが、本書のそれとの著しい隔たりを感じる専門研究者は多いのではなかろうか。その理由が、解決目標の設定と解決策においてスピー ドが要求される経営学と、タイムスパンの長い伝統的な古典学やコミットメントや参与観察が重要な鍵となる(象徴的相互作用論系の)社会学との違いに基づく ものであると言えば、それは言い過ぎになるだろうか。
J・ヴァン=マーネン『フィールドワークの物語——エスノグラフィーの文章作法』森川渉訳、現代書館、1999年
文 化人類学調査研 究入門04
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099