Indigenous People and Paternalism
that their govenment should or should not do
ここでは、先住民に対しておこなわれる/おこなわれてきた、政策上のパターナリズムについて考える。
まず、最初にパターナリズムの定義をおこなっておく。パターナリズム(paternalism)
とは、
親が子どものことを慮[おもんぱか]るように他者に対してとる保護主義的立場のことである。パターナリズム立場が一般的におこっている際には、(i)他者
が自分自身で自己の処遇の判断がで
きない、つまり自己決定ができないこと、そして、(ii)〈善行する意図〉に基づいて他者の処遇に介入する、という2つの特徴があることをここでは抑えて
おこう。
政府の先住民政策は基本的に4つの段階で説明できる。
(1)植民地主義当初の時期:先住民と征服者との間に適切なコミュニケーションができない場合、あるいは征服植民者たちが、先住民と暴力的対峙 する場合、先住民の法的権利の尊重なしに、武力や強制的な支配力をもって統治する。これは征服植民者たちによって平定(pacification)、つま り、平和裡に先住民と和睦する、という欺瞞的な用語で語られてきた。
(2)植民地主義から帝国主義時代:植民地への植民政策が進展するにつれて、現地人であるための先住民の労働力調達が必要になった。また、帝国 主義国家間における競争のために、現地人や先住民のなかから兵隊としてリクルートして「植民地」の防衛が必要となり、現地人や先住民に公教育を授け、経済 政策や福祉政策を施し、そして、植民地の運営のための下級官吏や兵隊の養成のための、専門学校教育や軍隊教育の必要性が生じた。
(3)植民地の独立以降:下級官吏や軍人による開明的な人たちが独立国家の運営を担うようになるが、知的エリートや支配階級は、若い未来の 後継者たちを(宗主国言語の利用もあり)元宗主国に留学させたりして、学ばせるようになった。政府は、メリトクラシーによる教育制度を通して、未来の官僚 や軍人を育てるようになる。独立国における民族的少数派や先住民は、これらの制度に適応的でかつ優秀な学生を、中心地や留学を通し学ばせ、近代的な支配構 造を確立してゆく(=先住民エリートに対するパターナリズム政策;先住民学生に対する特待生制度や奨学金、留学生枠の設置)。他方で、民主的な選挙制度を 通して、国民の多数派のみならず民族的少数派や先住民に対しても、不服従や抵抗を避けるためにも、教育、保健、治安政策を充実させてゆく(=先住民一般に 対するパターナリズム政策;初等中等教育の設置、職業訓練校、簡易保健所、無償医療、簡易医療保険制度、治安警察官の駐在)。
(4)先住民人権の尊重の時代:これは脱パターナリズムの時代であるが、先住民に対しては、2つの罠がある。ひとつは、ネオリベラリズム政 策の一貫として先住民に対するパターナリズム政策をやめる代わりに、国民全体の福祉政策の中に先住民を取り込む政策である。これは先住民の側から国民文化 システムの中への「同化政策」としてみなされる。しかし、先住民の側からみると、言語政策や慣習法の尊重という(3)の時代に萌芽的にみられた先住民政策 の変更や放棄を意味し、先住民の独自性を尊重する主張や行動が「分離主義」と中央政府からラベルされることを意味する。
さて、現在、グローバリゼーションの結果、世界の先住民の世界が、(3)から(4)のフェイズに移行していると仮定すると、先住民の側から次のよう な疑問と課題が生じる。
(A)先住民に対する中央政府のパターナリズムは、すべて悪いものだったのか?という疑問、そして、(B)もし現在という時間が、脱パターナリ ズムの時代であるとすれば、先住民じしんは、そのような中央政府に対して、どのような態度でのぞみどのように立ち向かう(coping)べきなのか?とい う課題である。
(A)先住民に対する中央政府のパターナリズムは、すべて悪いものだったのか?
(悪いという考え方);先住民と他の国民のあいだに峻別をもうけ、かつ、先住民の側のさまざまな自己決定権をないがしろにしてきた、中央政
府のパターナリズム政策は、すべて撤廃すべきである。なぜなら、あらゆるパターナリズムは、その思考的前提のなかに、当事者の主権を見なさず、自己決定に
制限を設けようとしたからである。中央政府から先住民に対するこれまでの財政援助は、むしろ、先住民じしんの自己決定権を尊重し、引き続きおこなうべきで
ある。そして、それらの新しい政策オプションは決してパターナリズムと呼ばれないであろうし、かつてのパターナリズムの残滓があってはならない。
(悪くないという考え方);中央政府が、先住民に対して、民族の尊厳をないがしろにして同化政策をすすめたとしても、国民統合に首肯する先
住民は、これまで受けてきたさまざまな中央政府からの恩恵を、政治的に正しい先住民の権利への補償であるとすれば、今後ともパターナリズム政策は首肯すべ
きだという考え方がある。パターナリズムには、良いものと悪いものがあるから、よいパターナリズムは引き続き必要である。
(B)先住民じしんは、中央政府に対して、どのような態度でのぞみどのように立ち向かう(coping)べきなのか?
先住民の自己決定権の確立のためには、国民投票による先住民の民意を中央政府は図らねばならないし、また、同時に、中央政府は、先住民に対
しておこなってきた、不平等な政策(=分離政策も同化政策も先住民の権限を尊重しない限りこの政策は不当なものとみなされる)な政策を改め、法律の整備
や、憲法改正などの措置を講じるべきである。そのためには、中央政府は、先住民に対する不当な政策について歴史的反省をおこない、先住民に対して謝罪や補
償の措置を講じた上で、中央政府は先住民と和解をすべき。先住民は、中央政府と和解した後に、国全体の国民の尊厳の保証と、先住民の自己決定権の主張が矛
盾することのなような、政策的合意を模索すべきである。
◎保護と介入
・国民投票のオプション
・憲法改正のオプション
◎中央政府の先住民政策をモニターするオンブズマン制度
●パターナリズムの思想史
ジョン・スチュアート・ミル:(道徳哲学ならびに政治哲学上の観点から)個人が自分で決定を下す能力を否定したり軽んじられることがないと 主張(→ここから「愚行権」の発想がでる)
イマヌエル・カント:パターリズムは人間の尊厳と自由意志への脅威である。他方、パターナリズムが必要な対象も実際にあり、その対象は、自
分たちが有用ないしは有害と区別できない未熟な子どもはには、パターナリズムが必要であるとした(「啓蒙について」)
●パターナリズムのファンクション
誰あるいはどのような機能主体が、パターナリズムを実行できるのか。また、そのような実行に誰がその権利の妥当性を与えることができるの か。
パターナリズムの対象になるものは、誰かあるいはどのような集団や法人か?
◎パターナリズム政策からの脱却プログラムはどのように進めるべきか?
まず、中央政府が交渉可能となるように、先住民全体の総意を代表する機関を選出するプロセスが必要。先住民全体の総意を代表すると主張する 機関が複数現れた場合、中央政府はどのようにして、そのような機関を選ぶべきか。また、先住民の内部で、どのようなコンセンサスが必要なのか。先住民全体 の総意を代表する機関が、不正や腐敗をおこさないために、その機関のみならず先住民全体がどのようにその機関を管理、監視、制御するのか?
◎先住民とほかの国民が対等で平等であるための条件
先住民とほかの国民が、対等で平等であるということは、どのようなことを根拠にしていえるのか。それらの間に不平等であるとすれば、どのよ うにその不平等の実態を明らかにできるのか?
◎言説実践の重要性
ミッシェル・フーコーは、言説と言説実践(discoursive
practice)は、権力関係を布置すると同時に、行為主体の、アイデンティティや当事者にとっての真理を明らかにする可能性があると主張している。
◎先住民に対する経済的平等とパターナリズム政策
◎「正義委員会」や「人権救済」の制度について
脱パターナリズム政策の遂行には、自己決定権の尊厳が侵されていないかを判定し、政府に直接是正を勧告する「正義委員会」や「人権救済」の制度
が不可欠であろう
◎保健プログラムの重要性
保健プログラムはパターナリズムの時代でも脱パターナリズムの時代でも、先住民の尊厳を保証する重要な制度であることは、間違いない。
◎平等を達成するさまざまな統計の意味
1)平均余命、2)乳幼児死亡率、3)幼児教育へのアクセス、4)子どもの識字率や計算能力、5)ベースラインからの年次別達成率、6)就業率 や失業率、7)犯罪率、8)自殺率、9)非統計的なQOLや幸福度指数、(Happy Planet Index HPI)
◎SDGs目標の設定は先住民にも平等に開かれている
◎自己決定権の尊重は、中央政府の協力のもとに、完全に先住民のイニシアチブが不可欠
◎「ギャップを埋める政策」の失敗(オーストラリア, 2018)
◎先住民に対するさまざまな脱パターナリズム政策のコストをどのように考えるべきか。
◎脱パターナリズムの政策のなかに、ジェンダー要素を加味しないかぎり解決にはおぼつかない(Lee 2018)
アボリジニーとトレス海峡民に対する、父権主義的な中央政府のパターナリズム政策は、女性の身体管理に対して有害な効果をもたらしてきた。
リンク(オーストラリア先住民活動家)https://othersociologist.com/2013/11/23/indigenous-education/.
リンク
文献
その他の情報
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