かならずよんで ね!

三橋喬『ホームレス歌人のいた冬』ノート

Winter with a Homeless Poet

池田光穂

名もなきホームレス。ペンネーム「公田耕一」の歌 が、朝日歌壇の人気歌人になる。人々——作者の三橋も当然含まれる——は、この「読み人知らず」のホームレスに、それぞれに勝手な思い込みを込めて、彼を 探し始める。ホームレスではない善意の人々は、匂いも薄汚さも感じることができない無菌無垢になった「公田耕一」を探し続ける。そんなものは本当はいない のにも関わらず……。

堂園昌彦・永井祐・土岐友浩によるブログ「短歌のピーナ ツ」(2017年5月26日)が、そのような、非ホームレスが、ホームレス公田の心情に仮託して、好き放題に「ホームレスネス(宿無し人の性[さ が]や生活)」を勝手に読み込む。

文庫版に解説を寄せる心理学者・小倉千加子に至っては、読者が求める「公田」と、名前のない 抽象的な社会的カテゴリーとしてのホームレスを一致させて、ホームレスネスについての読者(と三橋の)探求への執着をそのまま認めてしまう。

その後、彼が、元民主党のシンパサイザーのインテリ で、ホームレス支援の立場を十全に理解するとは言え、現在は福島の震災復興などに関わっているとの、情報が流れた時、人は、そのことを誰も信じなかった し、またそのような情報は現在では、インターネットでは影を潜めている。まるで、そのような「実像」が存在しては、いけないかのように。

「公田耕一」の実在はどんな存在であれ、「公田耕一」は、朝日歌壇の中にいた匿名の読み人知 らずであり、ホームレスの心情とその心象風景を見事に歌った歌人なのである。

このことは、僕が、研究している「ハンセン病歌人」明石海人や、「在日ハンセン病歌人」の金夏日さんの、このカッコのような、素直に歌人と呼べばよいものを、限定詞つきで表現す るような、囲い込みの欺瞞を感じてしまう。もちろん、僕とて「短歌とマイノリティ」というウェブペー ジを作って、《マイノリティがうたう短歌(和歌)から差別の問題を考えよ》ということを、人々に煽っている点では同罪なのである。

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