呪術論の四季【春】はる Four essays on magic, Spring
【春】Four essays on magic, Spring
春は呪術である。
と言うと奇怪な切り出しになるが、こういうことである。 大学では新学期が始まる。私の授業では、彼らの関心を引くために、まず最初 に世界の諸民族の呪術の事例などを紹介する。そうすると興味をもった学生が、 「信仰で病気などが治るのでしょうか?」と半信半疑で質問にくる。というわけで私にとって春 は呪術について議論する季節になってしまった。
で、実際はどうなのだろう。フィンクラー(Kaja Finkler) という研究者は 「メキシコの心霊術治療の効果の考察」という論文のなかで、まさにこのことを議論している。
メキシコにはスピリチュアリスタとよばれる心霊術師が一種 の呪術的治療をおこなっている。治療の内容は、手で患者の身体を上下にさすりながら、祈る「清 め」や薬草使った飲茶あるいは沐浴および市販の薬品の投与など多岐にわたる。一〇七人の患者を追跡した彼の調査によると、治療の効果にかんして、患者本人 から申告を基準にすると、「成功」と表明する人は全体の二割五分、「失敗」は三割五分だった。その残りは、本人が治ったと言っているにもかかわらず近代医 療にかかっているものが二割、決められた呪術的処方を守らなかったり、本人がどちらとも決めかねているものが二割となる。
自己診断だけでは客観性に乏しい。そのためフィンクラー は、米国で開発された心身の自覚症状測定のスコアであるコーネル・メディカル・インデックスを使った。そうすると、なんと神霊治療(Spiritualist healing)は「自覚症状の少ない」 患者に対して、より大きな成果を上げるという。病者であるという認識が少ない人ほど、心霊治療を受けた時に「効いた!」と感じやすくなるのである。「病は 気から」とはよく言うが、呪術的治療においては、不信心者ほどその癒しの効き目が勝 るとは、皮肉というほかはない。
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Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099
Antonello's St Jerome in His Study, c. 1475