清野謙次とインドネシアの民族医学(1943)
Dr. Kenji KIYONO and Indonesian Ethnomedicine (1943)
書誌:インドネシアの民族醫學 / 清野謙次(1885-1955) 著 ; 太平洋協會編<インドネシア ノ ミ ンゾク イガク>. -- (BN05416351) 東京 : 太平洋協会出版部, 1943.9 4, 19, 511, 12p ; 22cm. -- (太平洋醫學論叢 / 太平洋協會編 ; 第2輯)
清野謙次;清野謙次、Kenji KIYONO, August 14, 1885 - December 27,1955, and his book, Indonesian Ethnomedicine
【本文から】ただし表現は現代的に改めています
インドネシアの広大なる地域を開発するに際して、医学と薬学とは甚だ大なる役割を演ずる。医学は薬学の助けを得て、その終局の目的とすると ころは、この地域の二億にたらんとする住民を疾病なしに天寿を完からしめんとするにある。/医学がその使命に準拠し、その施設を完備するにしたがって、こ の地域におけるおける疾病は減少し、住民はその生に安じつつ業務に従事する。人口は自づから繁殖して楽土の基礎はこれになる。今日最大の憾みたる、インド ネシア地域における人的資源、労働資源の不足も自づから解消することと思われる。「忠実にして安価なる、かつ大量の労働力」を得ることが、無限の富を擁す る赤道諸島の開発に、何よりもまず必要なる根本手段であって、赤道諸島の開発にはこれを主として進まねばいけない。(p.3)
赤道諸島を開発するに際して住民の健康を保たせしめ、その人口を増加せしめるために、すすんで庶民救済の実を挙ぐるものは、この真正医学[清野の用語法で「西洋医学」をさす。これに対して土着医学は「固有医学」あるいは「民族医学」と呼んでいる:引用者] においてほかの医学はない。(p.4)
インドネシアの民族医学とは、この地域の住民の間に生まれ出でたる固有の医学であって、この地域住民の文化の一部を成すものである。 (p.5)
インドネシアの民族医学は進化論的に云えば真正医学の前階級のもので、真正医学発生前の形態を具え、しかもインドネシアとしての特徴を帯び て、固有なる完成状態に達したものである。(p.22)
民族医学は郷土宗教を中核となし、高文化の流入ある場合にも、高等文化を郷土宗教に巧みに溶和せしめたるものであるから、この民族医学は彼 らの宗教研究とは切り離せるものではない。(p.23)
インドネシア医学の支配せる地域に真正医学が侵入する状態は、明治維新の頃に、旧日本医学領域に西洋医学の輸入せられたのと似たものがあ る。(p.24)
試みに、インドネシア医家に真正医学の補助教育を施して、幾分の改良を試みるを考えてみても、これは恐らく旧日本医家に西洋医学の補助教育 を行わんとして断念せる以上に駄目であって、真正医学とインドネシア医学とその基礎観念において、また医術の形式において、甚だしく異なっている。 (p.24)
真正医学は住民の福祉を増すために、またその人口を増加せしめて生命の危険を保護するために、是非ともインドネシア地域に進出流布せしむべ きである。(p.25)
真正医学の流布は当然、インドネシア医学をして衰退の一途をたどらしむる結果となる。インドネシア医学が衰退すれば、その長い間の知識は速 やかに忘却し去られていくはずである。。……一日もはやく民族学が南方に進出して、インドネシア医学の詳細を記録しおく必要がある。/かくしてインドネシ ア医学が将来衰退に運命づけられているのはあきらかであるが、この医学は容易に根絶するものではない。我等は日本の現下、真正医学の盛行のもとに種々の形 式おいて旧医学が残存している幾多の例を知っている、欧州にも、それと同様なる旧医術が現今なお多数行われている。(p.25)
……インドネシア医学はたとえ衰微するとも、この民族の血に永い間なんらかの形式の下で脈々として継続することと思う。/精良にして有効な る真正医学が勝ち、粗漏にして効力の少なきインドネシア医学の敗れるは自然の理であって、誠に止む終えない必然的運命である。(p.26)
※「真正医学」とは、近代医学、西洋近代医学ないしはコスモポリタン医学のこと。(→医療/医学,医学=医療,)
ご注意:引用者はこの主張の支 持するためではなく、批判的に検討する事例としてこの引用をおこなっていることをご了解ください。
■清野謙次(Kenji KIYONO, 1885-1955)年譜(→こちらに移転)
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この頃の書かれた類書には…
東北一純農村の医学的分析 : 岩手県志和村に於ける社会衛生学的調査
高橋 実著<トウホク イチジュン ノウソン ノ イガクテキ ブンセキ : イワテケン シワムラ ニオケル シャカイ エイセイガクテキ チョウサ>. -- (BN04275243) 東京 : 朝日新聞東京本社, 1941.4 6, 5, 270p ; 22cm 注記: はりこみ図1枚 別タイトル: 東北一純農村の醫學的分析 : 岩手縣志和村に於ける社會衛生 學的考察 著者標目: 高橋, 実(1912-)<タカハシ, ミノル> 分類: NDC8 : 611.99 ※→熊本学園大に所蔵
蘭印政廳の衛生工作
[J.L. Hydrick著] ; 蘭印政廳編 ; 山岡節男譯<ランイ ン セイチョウ ノ エイセイ コウサク>. -- (BN0911961X) 東京 : 大澤築地書店, 1942.12 168p, 図版40枚 注記: Intensive rural hygiene work and public health education of the public health service of Netherlands India, 1937の翻訳 ; 背表紙の編 者名: 旧蘭印政庁 別タイトル: 蘭印政庁の衛生工作 ; Intensive rural hygiene work and pub lic health education of the public health service of Netherlands Ind ia 著者標目: Hydrick, J. L. ; 山岡, 節男<ヤマオカ, セツオ> 件名: 衛生行政 -- 蘭印
※このデータが国立情報学研究所(NII)のウェブキャット提供によるものだが、つづりの hygieneがhygene(sic) にあやまっている。この誤りは翻訳原著のつづり間違いに由来するものであり、NIIは、その誤りをそのまま引き継いだものと思われる。
大東亜戦争陸軍衛生史
陸上自衛隊衛生学校編集<ダイトウア センソウ リク グン エイセイシ>. -- (BN07334520) 東京 : 陸上自衛隊衛生学校, [1968-1969] 9冊 ; 22cm -- 3 - 9 注記: 監修:園口忠男, 坪井正人 ; 子書誌あり(1,2,7巻) ISBN: (3) ; (4) ; (5) ; (6) ; (8) ; (9) 著者標目: 陸上自衛隊衛生学校<リクジョウ ジエイタイ エイセイ ガッ コウ > 分類: NDC8 : 394 ; NDC6 : 394 ; NDLC : SC28 ; NDLC : GB544 件名: 軍医学 ; 太平洋戦争 (1941-1945) ーー 医学・衛生
1.軍陣防疫 / 北条円了[ほか著] ; 陸上自衛隊衛生学校編集. -- 陸上自衛隊衛 生学校, 1969. -- (大東亜戦争陸軍衛生史 / 陸上自衛隊衛生学校編集 ; 7)
2.戦傷外科総論 : 軍陣外科的活動 / 出月三郎[著] ; 陸上自衛隊衛生学校編集. -- 陸上自衛隊衛生学校, 1969. -- (大東亜戦争陸軍衛生史 / 陸上自衛隊衛 生学校編集 ; 2)
3.陸軍衛生概史 / 金原節三, 大塚文郎[著] ; 陸上自衛隊衛生学校編集. -- 陸 上自衛隊衛生学校, 1971. -- (大東亜戦争陸軍衛生史 / 陸上自衛隊衛生学校 編集 ; 1)
などがあります。より詳しいリストは、以下でリンクしてください
Raymond Kennedy, 1945 のインドネシア文献リスト(抄)