■　国際ボランティアの発展小史04

では国際ボランティアには、どのような歴史があるのだろうか。制度的ボランティアが生まれる前にはどういう組織があったのかとみてみると、次 のような時系列で四種類のボランティアが誕生していった。ただし、これらの四つの順序はつぎつぎと置き換わったというよりも、先に出てきたものに加えてそ れぞれの新しい援助セクターが国際ボランティアの世界に加わったという表現のほうが正しいように思われる。

（１）宗教にもとづく慈善団体による組織化

（２）政府機関による制度的ボランティア

（３）国際機関による制度的ボランティア

（４）非政府機関によるボランティア

歴史的みると、宗教にもとづくものは一九世紀あるいはそれ以前にまで遡れる。また布教と慈善という目的は未分離のまま癒合している活動であ る。慈善にもとづく援助という技法が布教のための道具として使われるというよりも、援助は布教の情熱を支える試練であると同時に、改宗を契機に〈ローカル なケア・コミュニティ〉をつくることでもあるからだ。

他方、政府機関や国際機関による制度的ボランティアは、明らかに外交手段の一つとして他国の人間を送り込み、受け入れ国家を経由して現地社会 に直接的な介入をもたらすものである。私は、国連の承認による多国籍軍や国連派遣の平和維持部隊もこの派遣タイプのひとつであると考えている。

そして最後に登場するのが、非政府機関つまり非政府・非営利組織（NPO/NGO）によるボランティアの派遣である。ただし、これは政府機関 や国際機関のそれとは別物というよりも、国際協力の思想や手法が多元化する中で、政府機関が民間の非営利組織を経由して資金援助することにより、非政府系 のボランティアの派遣を実現させていることもある。したがって、（三）と（四）のあいだの区分はかなり曖昧である。政府機関や国際機関によるものは規模が 大きく資金量も豊富であるために、資金管理や行政管理において腐敗が起こりやすい。そのようなことが起こりにくい小回りの利く非政府・非営利組織に仕事を やらせて、資金提供者として活動に対して第三者的立場で公正に管理することができるという利点もある。そのためこの手法は1980年代後半から急速に成長 してきた。この成長の背景には別の理由もある。それは冷戦が終わると同時に、市民運動の国際的なネットワーク化が盛んになり、先進国および開発途上国を問 わず政府や国際機関が〈信頼にたる援助セクターであるという玉座の位置〉を、市民による非政府・非営利組織のボランティア組織に譲り渡したのである。これ は見方を変えると市民がもつ良識や政府系組織の活動のへの監視能力が増したことでもある。

日本の青年海外協力隊が、先行するアメリカ合衆国の平和部隊からのヒントを得て創設されたことについてはすでに触れた。制度的国際ボランティ アの特徴は端的に述べるとすると、技術者や教育者が多いのが特徴であった。そして草の根レベルでの活動が期待され、現地で溶け込むように訓練されている。 このような政府系組織のボランティア出身者が、非政府・非営利組織をこんどは自前で作り上げた時に、その良識の伝統はしっかりと受け継がれた。この現象 は、ボランティアじしんが自分の経験をきちんと転用可能な技（アート）として身につけたことを証明するものである。

■途上国における腐敗の問題

「アフリカ東部のウガンダで、大臣が患者に扮し、国立病院の腐敗を暴いたことが明らかになった。同国のサラ・オペンディ保健相が［2017 年9月］15日、「病院職員が患者に賄賂を強要している」との情報を受けて、顔をベールで覆ったまま、首都カンパラにある国立病院に向かったところ、一般 の女性患者と思った職員らが次々賄賂を要求してきたという。／オペンディ氏は無料で受けられるはずの検査を受けようとしたところ、職員から15万シリング （約4,600円）の賄賂を要求された。その後、看護師からも賄賂を求められた。／「お金がないと言ったのに強要してきた」とオペンディ氏。自ら警察に通 報し、２人は逮捕されたという。／中国が建設したというこの病院の副院長は今回の事態を受けて「非常に感謝している。（大臣がいなければ）患者はひどいス タッフに苦しめられていたはずだ」とコメントした。ウガンダの国立病院に勤める職員の月給は25万シリング（約7,800円）ほどしかなく、患者への賄賂 要求が頻繁に起きているという」【ウガンダ大臣、患者に変装し腐敗暴く　職員が賄賂要求】（ヨハネスブルク＝石原孝）朝日新聞デジタル：2017年9月 18日：http://www.asahi.com/articles/ASK9K7XDVK9KUHBI028.html

リンク

• 「健康の開発」史
• グローバルポリティクス時代の国際医療協力と人類学
• 貧困の文化
  

文献

• 池田光穂（一九九八）「保健活動——制度的海外ボランティアの過去・現在・未来」川田順造ほか編『人類の未来と開発』一〇七—一一四頁、岩波書 店。
• 池田光穂（二〇〇一）『実践の医療人類学—中央アメリカ・ヘルスケアシステムにおける医療の地政学的展開』世界思想社。

その他の情報