クライド・クラックホーン:多様性と文化概念の効用
Clyde Kluckhohn: Diversity and the Utility of Cultural Concepts; 「文化」概念の検討:連続講義
解説:池田光穂
クライド・クラックホーン(1971[1949])は、クローバー(Alfred Louis Kroeber, 1876-1960)とともに、さまざまな著者による文化概念 の収集・渉猟とそれらの総合をおこなった人類学者である(クラックホーン 1971:26-41)。
・「文化は人間の本性に源を発し、文化形式は人間の生物学的資質と自然法則によって制約され る」(クラックホーン 1971:26)。
・文化は理論である:「文化は人間と個別に存在する力ではない。人間によって受け継がれる」 (クラックホーン 1971:28)
・「ある考え方、感じ方、それが文化である」(クラックホーン 1971:28)。
・「文化が抽象概念であるだけに、文化と社会とを混同しないように注意することが大切であ る」(クラックホーン 1971:29)。
・「ひとつの文化は、当該集団の知恵をプールした貯蔵庫をなしている」(クラックホーン 1971:30)。
・「どの文化もそれぞれの範疇体系に従って自然界を分析する」(クラックホーン 1971:31)。
・「文化プロセスの本質はその選択性にある」(クラックホーン 1971:31)。「文化が問題を解決するばかりでなく、問題を生むこともまた真実である」(クラックホーン 1971:33)。
・「自分の文化に対して感情的に無関心であり得る人間はいない。/……個人はある特定の集団 に属している結果として、その集団の文化を習得する。習得した行動のうちで他人と共有している部分が文化である。生物学的遺伝に対して、文化はわれわれの 社会的遺産である」(クラックホーン 1971:32)。
・「およそ文化慣行というからには機能的でなければならず、さもなければ遠からず消滅するは ずである。つまり何らかの意味で社会の存続ないし個人の適応に資するところがなくてはならない」(クラックホーン 1971:34)。
・「すべての文化は歴史の沈殿物である」(クラックホーン 1971:34)。
・「文化は地図のようなものである。……文化はある人間集団の言語、行動、人工物にみられる統 一性w志向する傾向を抽象的に記述したものである」(クラックホーン 1971:35)。
・「現代人も文化を創り保有する」(クラックホーン 1971:35)。
・「一つの文化の中には、成員全員が習得すべきもの、代替範型から選択するもの、特定の社会 的役割を然るべき範型に従って果たす者のみ該当するもの、と三通りある」(クラックホーン 1971:37)。
・「文化の諸相の多くは明示的である。……[他方、暗示的な文化もあり——引用者]暗示的文 化に何か一つ大原理というべきものがある時、しばしばこれを指して「エトス」または「時代精神」と呼ぶ」(クラックホーン 1971:38-40)。
・「すべての文化には内容と並んで組織がある」(クラックホーン 1971:40)。
・「在庫目録の上ではほとんど同じものと見える二つの文化が、実はまったく違っていることも ある。文化体系に含まれている要素のどの一つを考えてみても、その意義を完全に知るためには、その要素と他の要素の関係が織りなしているマトリクス全体の 中に据えて眺めてみなければならない。その際、位置ばかりでなく強調なし強勢も問題とすべきことは当然である」(クラックホーン 1971:41)。[→マーガレット・ミード]
彼の『人間のための鏡(Mirror for Man)』には多様な文化概念の紹介の後に、これらの文化概念を学ぶことに関する以下のような「効用」が説かれている。なお、彼の効用は箇条書きしている わけではないので、その項目数は引用者が恣意的に当て填めたものである(クラックホーン 1971:44-51)。
(i) 自分自身と自分の行動を理解しようとする人間の果てしない探求について助ける
(ii) 人間の行動を予測する上で役にたつ
(iii) あらゆる人々の論理は究極的には同じかもしれないが、思考過程はそれぞれ根本的 に違う前提(もしくは無意識)から出発していることがわかる
(iv) ある文化を知っていれば、その文化を共有している人間の行動をかなり多く予知でき る
(v) 意識されたもの/されないものを含めて、自分の文化の感情的価値観からある程度自由 になれる
(vi) 自分の文化の目録に載っているものはなんでも盲信してしまう忠誠心から人間を解放 してくれる
(vii) 人間が努力し、闘争し、模索している目標は生物学的に全く与えられたものではな いし、(また)環境の力によって全く与えられたものでもないことに気づく。
A.L. Kroeber and C. Kluckhohn, 1952. Culture: A critical review of concepts and definitions. with the assistance of Wayne Untereiner and appendices by Alfred G. Meyer, (Papers of the Peabody Museum of American Archaeology and Ethnology, Harvard University, v. 47, no. 1)Peabody Museum, 1952.
クレジット:「文化」概念の検討 Clyde Kluckhohn:多様性と文化概念の効用
リンク
文献
その他の情報