クールーとカニバリズムの謎:古いページ
Mystery between Kuru disease and Kuru illness: On endocannibalism
パプアニューギニア・ゴロカにて(撮影:奥野克己)
池田光穂・奥野克己
【課題】
ここでは、ニューギニアのクールー(Kuru)を取り上げます。以下の口頭説明を聞いた上で、皆さんがお持ちの他の知識を援用しながら、 クー ルー(Kuru)をどのように学生に教えればいいか、そして、そのことを通して、どのような結論を導けばいいかについて考えてください。
【テキスト】
(1)クールーの描写
クールーは震えから始まった。ニューギニア高地の南部フォーレ族の女性は、発作的な震えを感じながらも、最初は掘り棒にすがり、サツマイモ 畑の雑草を取ったり、子どもの世話をしたりといった仕事をすることができた。しかし、数ヶ月のうちに、筋肉運動の協調が悪化し、他人に支えてもらわなくて 歩くことができなくなってしまった。視線が定まらなくなり、発音は不明瞭になった。興奮すると小脳の機能不全の症状は悪化し、簡単な刺激で、分別のない笑 い声を上げるようになった。1年以内には、もう身体を起こしていられなくなり、低い草屋根の家の炉辺に寝かされたままになってしまった。死は避けられな かった[マッケロイ&タウンゼント 1995: 49]。
(2)クールー邪術
フォーレ族の言葉で、震えや恐れを意味するクールーは、疾患名だけでなく、クールーを起こすと信じられている、ある種の邪術も意味する。邪 術を使ったものを見つけ出すために、予言の儀式が行われた。すると、近くの評判の悪い集落に住む嫉妬深い男が邪術師として疑われた。女性が注意深く捨てた はずの古いスカート、髪の毛、食べ残し、糞便などを盗んだとして告発された・・・犠牲者の親類の男性は、告発された邪術師を殺したが、皆がその罪を理解す るように、死体に印をつけるのが習わしであった[マッケロイ&タウンゼント 1995: 49-50]。(魔法、魔術を邪術に言い換えた:奥野)
(3)近代医療による発見
1950年代中期、それまで医学的に知られていなかった新しい疾病--クールー--が、ニューギニア東高地に住む南部フォーレ語を話す人口 約15,000の集団の間で発見された・・(中略)・・クールーの医学的特徴は、中枢神経系の進行性の変性であり、最終的には完全な機能喪失まで進み、し ばしば嚥下困難におちいる。初発症状から、一般には6ヶ月から12ヶ月で、飢餓、肺炎、床ずれなどの合併症で死亡するが、まれには2年ほど生き延びる症例 も見られる[フォスターとアンダーソン 1987: 36-7]。
(4)クールーの特色
1.発症はほとんど女性か子どもに限られていた。その背景に、フォーレでは、男性と女性の生活の明確な分離があった。
2.フォーレ族と親しく交流する近隣のほかの部族や現地に入ったヨーロッパ人には発症者はいなかった。
3.クールーは、家系的に発生していた[波平 1994、フォスターとアンダーソン 1987]。
(5)クールーの医学的解明
クールーの医学的解明は、ウィルス学者のカジュゼックによってなされた。彼は、それが、病原ウィルスが体内で潜伏して増殖し、発病するまで 長い時間がかかる「スローウィルス感染症」であることを突き止めた。それは、ヒト以外では、ヒツジのスクレイピー病、ミンクの脳症、牛海綿状脳症などとし て知られるものであり、それらは、ウィルスに対して、ほとんど抗体を作り出すことがない。彼は、この発見により、1976年にノーベル医学・生理学賞を受 賞した[波平 1994: 78、マッケロイ&タウンゼント 1995:49]。
(6)カニバリズム
クールーによる死亡は、1957~68年の最盛期には、1,100人以上であった。その後、発生率と死亡率はともに低下した。人類学者グ ラーセらは、死んだ血族の死体の脳を食べるという、女性による死者のための儀式が、1910年代に始められたこと、それは、クールーが出現したと伝えられ る時期と一致すること、儀式では、死亡した女性の脳を料理して食べるが、その残りは子どもたち(男女とも)に分け与えられることなどを、調査を通じて明ら かにした。女性のみが死んだ親族の女性の脳を食べることによって、女性の出産能力が確実にされ、集団の存続が保障されると信じて行う儀礼は、死者と生者の 関係、男女の関係について、文化的に発達させた習慣である[波平 1994: 80、マッケロイ&タウンゼント 1995: 50]。
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