国際保健入門
Mitzub'xi's Text of Introduction to International Health
国際保健
教育目的・到達目標
国際保健学とは、1945年の国際連合憲章の後にうまれた国民国家を基本単位とする国際的協調の枠組み――国際レジームと呼びます――に もとづいて、公衆衛生学を基軸にしたローカルレベルでの治療や予防の実践行為から、世界的レベルでの保健医療施策の策定にまで広がる現象の解明と問題解決 のために寄与するための学問群のことです。[→出典」「国際保健」医療人類学辞典]
国際保健における国際レジームとは「医療・保健・福祉等の人間の福利における特定領域に関して、各国が合意したうえでの講堂やルールを定める制度のことをさします。
そのためには、世界の人びとが、どのような健康の水準にあるのか、また人びとが利用可能な医療にには(その資源として)どのようなものが あるのか。また人びとはそれらの問題に対してどのような対処行動をとっているのかについて、具体的な情報と、それを適確に把握する眼鏡(つまり諸学問)が 必要です。この授業では、担当教員が精通している中央アメリカの村落保健を素材にして、地域レベルでの保健行動がどのようなものから構成されるのかについ て「深く」学びながら、国際保健の動態に接近します。また、社会の健康状態や歴史的変化、社会と病気の関係などについての理解を深めた後、国際保健の歴史 や世界的な施策との関連性について把握します。ひとつのミクロな社会の健康のあり方が世界的な趨勢のなかでどのような意味をもつのかに理解することができ れば、その国際比較の意義についてはじめて深く理解することができるでしょう。
教科書
池田光穂 『実践の医療人類学』 世界思想社、2001年(ISBN 4-7907-0874-8)
参考書
池田光穂・奥野克巳編 『医療人類学のレッスン』 学陽書房、2007年
日本国際保健医療学会編 『国際保健医療学 第2版』 杏林書院、2005年
成績評価
出席率が6割以上の学生にのみ受験資格があります。教科書から出題される試験により60%以上の得点をとれば合格になります。
キーワード
国際保健、国際保健学、公衆衛生学、世界保健機関、健康によ る統治性、国際関係論、平和学、国際開発
教員からのメッセージ
教科書は、私の著書で、若干コストがかかるので、受講生のみなさんには大変心ぐるしく思います。もちろん、授業はこの本の内容に即して展開 しますし、また書物に盛り込めなかった豊富な裏情報も授業のなかで聴けるはずですので、是非とも縦横無尽に活用してください。
またこの授業の受講に関する予習と復習には、http://cscd.osaka- u.ac.jp/user/rosaldo/jyugyo.html からリンクするページでさまざまな資料を提供します。参考書である『医療人類学の レッスン』には、国際保健に関連する情報が満載されていますし、これに関しても上掲のリンク先から情報を示しています。
授業は一方的な講義に終わらせることなく、受講生の理解度に応じて、適宜グループ討論や対話の時間を設けて、楽しく興味深く学べるように 工夫します。みなさんの積極的な参加をお待ちしております。
1. <項目>国際保健入門
<内容> 世界の国際保健の現状について学ぶ。世界保健機関の制度のみならず、国際紛争などを紹介し、政治と医療との関連性について概観します。また、授業の終了 までに、何をどこまで学習するのか、各受講生が学習目標をたてて、計画を提出します(ワークの課題)。教科書:第1章:医療人類学、第6章:医療の動態的 過程、第13章:健康の概念
2. <項目>制度的医療
<内容> 近代医療技術は、それぞれ単独だけでは驚くほど無力です。医療を支える制度、マンパワー、インフラストラクチャーなどがあってはじめて効果をもつことが 期待できます。教科書:第4章:制度的医療論、第5章:医療的多元論
3. <項目>保健施策
<内容> 国際保健を具体的に実行するには、そのプログラムの実施者――これをプログラムの主体という――と、プログラムの対象――対象あるいは受益者という―― を明確化しなければなりません。これらの基本を整理した後に、CBPR(コミュニティにもとづく参加型研究)などの現代的発展版についての理解が可能にな ります。教科書:第2章:健康の開発史、第3章:世界医療システム
4. <項目>地域保健
<内容> 国際保健の活躍の実際の現場の多くは、地域社会ないしは、それに擬される集団(例:災害罹災者)です。国際保健に関わる医療者は、プログラムがおこなわ れる開始時点で、地域社会に健康を維持伸張させる保健向上のための社会的資源があり、それが国際保健の現場にとって重要であることを認識せねばなりませ ん。このための発見法について考えます。教科書:第7章:村落保健、第8章:民俗疾患概念
5. <項目>食と栄養
<内容> 情熱だけで人を救うことができないように、薬や医療技術だけでも人を救うことはできません。医療は、人が治癒しようとする能力があるからこそ、効力が発 揮されるのです。住民の安全を確保し、心理的安心を保証し、そして人間として満足のゆく食生活が確保される必要があります。従来の要素的栄養学の上にさら に、文化としての食事をどのように確保するのかを国際保健の観点から考えます。教科書:第9章:食 生 活
6. <項目>保健行動
<内容> 地域レベルでの国際保健のプログラムを成功に導く秘訣のひとつに、健康の達成と維持にかんする行動変容をどのように引き起こし、それを維持してもらうか ということがあります。健康行動は、どのように構成されており、またどのように研究されてきたのでしょうか。また伝統にある行動を守りつづけてきた人たち に、余所からやってきた外来者――国際保健プログラムに参加するあなた自身です――の助言によって、はたして容易に人びとの行動が変わるのでしょうか。こ の難問に挑戦します。教科書:第10章:自己投薬、第11章:疾患の文化的解釈I、第12章:疾患の文化的解釈II
7. <項目>国際保健批判にどう応えるか
<内容> 国際保健に対しての歴史を紐解くと、さまざまなレベルでの誹謗、批判、抵抗、断罪があります。無理解にはきちんとした広報や反論が、また正鵠を得た批判 には、改善が必要になります。これらの諸批判を生産的に検討します。教科書:第14章:コミュニティ参加の保健プロジェクト、第15章:「医療と文化」を 再考する
8. <項目>まとめ:入門から実践へ
<内容> これまでの授業をふり返り、冒頭での学習目標が達成できたかについて考えます。まとめのワークをおこないます。
スケジュール
日にち | 時間 | 内容 |
2009年4月18日(土) | 2限・3限 | 1. <項目>国際保健入門
教科書:第1章:医療人類学、第6章:医療の動態的過程、第13章:健康の概念 2. <項目>制度的医療 教科書:第4章:制度的医療論、第5章:医療的多元論 |
2009年6月27日(土) | 2限・3限・4限 | 3. <項目>保健施策
教科書:第2章:健康の開発史、第3章:世界医療システム 4. <項目>地域保健 教科書:第7章:村落保健、第8章:民俗疾患概念 5. <項目>食と栄養 教科書:第9章:食 生 活 |
2009年7月4日(土) | 2限・3限・4限 | 6. <項目>保健行動
教科書:第10章:自己投薬、第11章:疾患の文化的解釈I、第12章:疾患の文化的解釈II 7. <項目>国際保健批判にどう応えるか 教科書:第14章:コミュニティ参加の保健プロジェクト、第15章:「医療と文化」を再考する 8. <項目>まとめ:入門から実践へ |
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【参考】
下記は、日本国際保健医療学会編『国際保健医療学』(第2版)杏林書院、2005年の目次の再掲である。
序 論
第I部 国際保健医療学にかかわる領域
第II部 保健医療問題の格差改善への取り組み
第III部 感染症・寄生虫疾患とその対策
第IV部 国際保健医療の現状と課題