はじめによんでください

旅する生物多様性概念

Traveling concept of biodiversity

池田光穂

このス ライドは、琉球大学理学部が主催する、旅と生物学のセミナー(2010年頃)で発表したものである

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旅する生物多様性概念:現代生態学者の科学人類学研究

生物多様性:生物多様性とは、ある空間(熱帯雨林の林床に降り注ぐ一滴の水から、生物群集、群系、生態系から大陸や大洋さらには地球全体まで)のなかに存在 する生物種の種類の多さのことをさす概念である。

観光人類学:観光人類学(Anthropology of Tourism)とは、人間の観光現象に関する文化人類学的研究のことをさす。
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観光研究への私の貢献

1990〜2000年頃までの研究

観光人類学への期待と失望

素朴な移動概念を護持する「観光学者」への軽蔑

物理空間の移動よりも意識空間における移動・位相概念への関心に重心が移動(マッカネル「近代化テーゼ」)

元・生態学徒からエコ・ツーリズムへ、エコ・ツーリズムから近代生態学の科学社会学・思想史的関心へ

人間と動物の民族誌から人間と非人間の観点主義へ
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相反する2つの見解

生態学は未だ理論家の予測に頼るより経験豊かな実践家の判断に頼るほうがましな科学分野なのだ。  ——ジョン・メイナード=スミス(1975)

生態学は増大する環境破壊に対して当初から警告を発してきたが、ほとんど無視されてきた。そして生態学の効果的な対策や予防策への重要な指 針もあったが、利用されることは滅多になかった。  ——ロバート・P・マッキントッシュ(1985)
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科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究 課題番号22650211「生物多様性概念の社会化の研究:現代生態学者の科学人類学」
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【目的】本研究は、地球温暖化や絶滅危惧種などの報道において頻出する「生物多様性」という用語の語用論(pragmatics)に関する 科学人類学研究である。具体的には、生態学研究(正確には生物地理学から種間競争と種分化を理論化する「島」理論から派生する領域)で使われてきたこの純 理論用語が、地球温暖化や国際条約など資源管理の文脈の中で鍵概念になるにつれて、理論的純粋性を確保しつつも政治経済的意味をも付与されるようになった 社会的過程を、文化人類学の民族誌手法(インタビューと参与観察)を通して明らかにすることにある。加えて、文化人類学者と生態学者の対話技法を通して、 科学研究の反省的実践(Schon 1983)を試みる。
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ビール園:喫茶と食事 ここより100m国立公園:午前6時オープン カウィータ国立公園コスタリカ共和国
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年表:生物多様性の社会化(エドワード・ウィルソン、保全生態学、国際協約)
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    •    【着想】この研究における大胆な発想は、S.Mintz(1985)が新大陸における砂糖黍生産、欧州大陸における砂糖消費形態、およびそれが付与する感 覚と象徴(観念)の三者間の分析に着想を得た。ミンツはそれまでの唯物論社会史にみられた物質(モノ)が観念形態(上部構造)を決定する一義的な照応関係 から脱し、甘さの感覚と観念をもたらす〈砂糖〉が、その消費拡大に伴って〈薬物〉から依存をも産み出す〈嗜好品〉さらにはダイエットの敵である制限される べき〈有害品〉へと変化する歴史的動態を描ききった。これは生態学者の生物多様性に対する社会的態度(hexis)が環境保全論者のそれと合致しないこと へのヒントになる。この矛盾は本質的ではなく〈砂糖〉の意味づけの変化同様、〈生物多様性〉の意味内容(シニフィエ)が変化していることを示唆する。
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"What commodities are, and what commodities mean, would thereafter be forever different. And for that same reason, what persons are, and what being a person means, changed accordingly. In understanding the relationship between commodity and person, we unearth a new history of ourselves"(S, Mintz, 1985. Sweetness and power: the place of sugar in modern history. Vinking, .p.214)

シドニー・ミンツ『甘さと権 力』を精読する
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カルタヘナ議定書第5回締約国会議(COP-MOP5)  2010年10月11日(月)〜10月15日(金) 会場:名古屋国際会議場

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)  2010年10月18日(月)〜10月29日(金) 会場:名古屋国際会議場
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【平成22 年】名古屋市において生物多様性条約第10 回締約国会議(COP10)が開催された。1990 年代以降、生物多様性の概念は生態学の純理論的用語から乖離しつつ同時に政治的概念が加わった。当然、国際会議の内外においてもそれをめぐる資源管理やバ イオマテテリアル知的財産などが議論される。またこれにあわせた様々な市民団体の動きがある。この動向を観察するには、COP をめぐるこれまでの国内外の状況、COP10 とそれに関連する社会現象(メディア取材、政府見解、学会の反応、自然保護や先住民擁護の活動や抗議行動など)の詳細な観察と分析は不可欠である。
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ノーモア・ミナマタ訴訟原告団のブース
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林野庁のブースと展示
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MOP5/COP10のシンボルは折り紙(フロム・ジャパン!)
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実際に千羽鶴を折る市民参加ブース(有料100円)
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環境省のブース:レンジャー経験者によるレクチャー

右下は、iPad による文部科学省の「電子展示」
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林野庁主催の関連国際シンポジウム:REDD plus と持続可能性林業

右下は、世界銀行主催の関連シンポジウム
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サラヤのやしのみオイル(パーム椰子が原料)と、サラヤによるボルネオ熱帯生物保全プログラム

右は無料で配布された「コウノトリが育むお米」(JAたじま:兵庫県豊岡市)
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通称:奥野人獣科研

正式名称:科研費基盤研究(B)(海外学術調査) 「人間と動物の関係をめぐる比較民族誌研究:感覚とコスモロジーからの接近」
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我々の意識の中に急速に侵入=介入しつつある重要な他者としての存在

我々=人間

他者=動物
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自然と文化(社会)の二分法から引き出される引喩関係

我々=人間=文化

他者=動物=自然

自然=社会=人間
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現代日本における

自然と社会

----侵犯・交渉・共存----
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箸塚・魚塚・包丁塚の由来(高知八幡宮)

日本では古来食物は神様のいただきもので、その食物と人とを結ぶお箸にも魂が宿るという信仰[を]元に当宮では毎年箸供養祭を斎行し、併 せて魚供養、包丁供養の神事を奉納しておりますが、この箸塚はお箸に宿る霊魂を鎮め魚塚は魚の供養、包丁塚は調理人の命ともいうべき包丁の魂を供養するた め建立したもので、特に料理、飲食、水商売の方々の繁栄を特別祈願入魂しております。触れて御神徳いただいて下さい。なお古くなったお箸、包丁をお納め下 さい。 宮司敬白
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区民の誇りの木  ヤマザクラ  (京都市北区幡枝町)
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あな嬉しい長代川にホタル舞う(蛍保存会)

魚道と水溜窪

※長代川=ながしろがわ
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- おねがい:ほたるが生息しています ゴミを捨てないでネ!!  ----蛍保存会

- 川を大切に水辺にやすらぎ心にゆとり(I LOVE KYOTO)
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これより先は京都大学上賀茂試験地です。利用には許可が必要です。
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コスタリカのエコ・ツーリズム研究から得られた、自然と文化の生産サイクル
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その後の研究から明らかになった、自然表象の文化的生産サイクル・モデル
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使用後は便座の蓋を閉めてください

蓋を閉めた場合→開け放しの場合に対してCO2約15g/台・日(電気代約2.1円/台・日)削減/現在、国民1人あたりが排出するCO2 量は、1日平均で約6kgです。※1kgのCO2量とは、サッカーボール100個分の体積に相当します。/めざせ! 1人、1日、1kg CO2削減[総合地球環境学研究所にて(2010年11月21日)]
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degenerate: To lose, or become deficient in, the qualities proper to the race or kind; to fall away from ancestral virtue or excellence; hence (more generally), to decline in character or qualities, become of a lower type. (OED)
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お知らせ 昨今アライグマや鹿などによる被害がテレビ・新聞で報道されておりますが、当霊所におきましても最近鹿が供物や供花を求めて入り込み墓を荒らす状態が続い ております。つきましては更なる被害を防ぐためにも暫くの間、供物・供花はお参りの後お持ち帰り下さいますようお願い致します。置いて帰られた物は即日処 分させていただきますのでご了承ください。圓通寺霊所
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(再掲)お知らせ 昨今アライグマや鹿などによる被害がテレビ・新聞で報道されておりますが、当霊所におきましても最近鹿が供物や供花を求めて入り込み墓を荒らす状態が続い ております。つきましては更なる被害を防ぐためにも暫くの間、供物・供花はお参りの後お持ち帰り下さいますようお願い致します。置いて帰られた物は即日処 分させていただきますのでご了承ください。圓通寺霊所
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カラスがくるのでネット・ブルーシートを【必ず】かけて下さい

幡枝八幡宮(図像は鳩か)
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熊やサルの出没への対応について

昨年の6月29日に地球研の研究員が地球研敷地内もしくは周辺で熊を目撃しました。それ以降、熊をみた等の報告はありませんが、春を迎えて 再び熊が現れないとの保証はありません。また、サルにつきましては、頻繁に出没し、目撃された方も少なくありません。/そこで、熊、サル等との不意の遭遇 により危害を受ける可能性を低減する為に、特に夜間の帰宅時や外出時には、下記の点にご注意ください。

総合地球環境学研究所にて(2010年11月21日)
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植物(=病害虫)検疫(沖縄・奄美・トカラ・小笠原からは「植物の持ち込みが制限」されている)
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植物の移動が問題ではなく、植物に寄生する動物(病害虫や病気)が検疫の対象になっている
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地球を癒す

自然をまもる

心を育む

(地元出身の国会議員の時局演説会のポスターより)
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クルマでエコ(ECO!)

「燃費が1〜2割よくなるよ」>(自動車の語り) あなたも京(みやこ)エコドライバーズ宣言!
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生物多様性概念に貢献する生物学領域

分類学

生態系生態学

生物地理学

個体群生態学

進化生物学

保全生態学(保全生物学)
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【生物多様性概念への途01】

生物分類学=生物地理学→生物地理学→(種分化の理論)

ダーウィニズム=遺伝学→行動遺伝学

血縁淘汰=行動遺伝学=生物地理学

血縁淘汰+行動遺伝学=(遺伝学上の刷新あるいはそこからの離床)
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【生物多様性概念への途02】

(遺伝学上の刷新あるいはそこからの離床)=(種分化の理論)

ゲーム論・均衡経済学=島生物地理学(島理論)

ゲーム論・均衡経済学+島生物地理学(島理論)=【生物種の競合と強調】

数量化革命01:個体群生態学

数量化革命02:エネルギーフロー生態学

地球観測年:IBP
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【生物多様性概念への途03】

地球観測年:IBP + エネルギーフロー生態学→生態系生態学

環境保全学+林学(REDD plus )+森林生態学→→保全生態学

REDD Reduced Emissions from Deforestation and forest Degradation

財団法人 環境情報普及センター(http://www.eic.or.jp/)

林野庁(http://www.rinya.maff.go.jp/)

Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries(http://www.maff.go.jp/e/)
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生物多様性概念の社会化

環境保全

「生態系サービス」

多様性概念の拡張(遺伝的・種・生態系)

地球温暖化・CO2排出規制

ホットスポット

野生外来種(ワシントン条約)

発生/現象/変化/維持としての生物多様性
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なぜ生物多様性が焦点化されるのか?


環境保全(第二の環境危機)

生態系サービス(生態学は価値自由?)

地球温暖化・CO2排出規制(科学と道徳)

ホットスポット(Cold spotはない?)

野生外来種の問題(種のナショナリズム化)

「生物多様性概念」のご神体[sacrosanct]化
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Ecological Imperialism

生態学的帝国主義(Alfred W. Crosby1986)

西洋の植民地主義・帝国主義は、被支配地の経済や原住民労働力の搾取のみならず、西洋起源の生物種をもちこみ景観も変えてしまった。

現地環境の生物種による景観(bio-scape)を西洋文化の景観のもとに改変する。
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Bio-Piracy

生物盗賊(Vandana Shiva 1997)

西洋の植民地権力が、非西洋の支配地域において、彼らの生物資源(遺伝子・種・生態系)を奪い去ること。

正当な「対価」が支払われないために、略奪でり、またそれに基づく商品開発を植民地状況の中で使用させられるために「二重の略奪」を招来す る可能性をもつ

西洋の略奪行為に対して「抵抗する根拠」(=抵抗権)を与え、エンパワーする。
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From Piracy to Compensation

生物多様性条約締結国会議は、徹頭徹尾、国際条約をめぐる国家間の調整・取り決めに関する具体的な政治的過程に他ならない。

COP10におけるアフリカ諸国の協調行動

名古屋議定書における「遺伝子資源の派生物」に対して先進国に保証を求めない議長国提案が採択される。
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遺伝子資源の配分について(シナリオ)

1)違法持ち出しの監視→先進国側で監視する

2)利益配分はいつから→議定書発効後

3)病原菌の扱い→緊急時に考慮し利益配分する
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自然は反逆する

自然災害

動物の反逆(キングコング・猿の惑星)

反逆者[動物]は遊撃戦が得意

母なる自然/父なる自然(自然のジェンダー)

「人間の心に潜む獣性」

悪霊や邪悪な精霊(=手に負えないモノとしての自然)

環境汚染(企業犯罪から人類の集合的犯罪へ)
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生物多様性(BD)概念=BDの多様化

環境保全の神としてのBD

生態系サービスの供給源としてのBD

天然の恵みとしてのBD

地球温暖化を止めCO2を吸収してくれるBD

地球を豊かにしてくれるBD

BD万歳!の影で……

固有種の「国民化」;野生外来種の「人種化」
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生物多様性=BDの脱神話化

BDだけが環境保全の主要概念ではない

生態系サービス概念の反省的洗練化

BDを闇雲に「天然の恵み」としない

BDは地球温暖化防ぐヒーローではない

BDの豊かさと地球のそれと同一化しない

BDの神話化プロセスを明らかにする
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観光研究の脱神話化(結論)

〈物理空間内の移動〉は観光研究の主要概念ではない

〈意味空間内の旅〉こそが中核的問題である

意味生産に着目することは〈旅する主体〉の自律性という思い込みを放棄することに他ならない

事物の旅(トラベル)が意味生産の核心にある

意味生産に焦点化することで観光研究の局所主義の弊害を克服することができる

観光の神話化プロセスを明らかにする必要性

●クレジット:池田光穂「旅する生物多様性概念(生物多様性の研究と観光研究の「核」融合)」

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